猫から始まる人間のドラマ
一つ一つのお話が独立している
ネコを貸し出しているブランケット・キャッツというお店にまつわるお話。7つの短編小説から作られ、1話、1話の話は繋がっておらず独立した話となっています。
ネコを貸し出すという設定から、話が始まりますが、登場人物をネコとの関わり方が、薄い話しと思えます。特に「花粉症のブランケット・キャット」や「助手席に座るブランケット・キャット」は、主人公の心情が伝わってきませんでした。どうして、主人公がこういう行動をとるのかという疑問も強くわかないため、余命がないとわかった時にも、大きな感動がおきません。
猫も、それほどまでに活躍していないので、猫の話が読みたい!と思っている方には、この2作品を読んだだけでは、少し期待外れではないでしょうか?
ですが、ここでお勧めしたいのは、各家庭の事情です。家庭には、様々な環境と家族構成があり、違った悩みを抱えていることを気がつかせてくれます。主人公も女性、男性、大人、子供、お年寄りなど、様々な年代が主人公になっており、読み進めて行くと、自分の世界観が広がる物語になっています。読み手にとって自分と一番近しい主人公に、共感しながら、徐々に他の登場人物の心の動きを感じる事ができるでしょう。
3話目あたりからのめり込む
退屈だと感じながら、1話目、2話目と読み続けて行くと、3話目あたりからブランケット・キャッツの世界にのめり込んで行きます。
「身代わりのブランケット・キャット」は、痴ほう症になってしまった母親の話ですが、その描き方が、とても巧妙です。痴ほう症の母を気遣いつつも、母親を施設任せにしてしまう家族達の罪の意識が、ぬぐい切れません。そこに、彼氏との結婚を諦めたヒロミ。家族は、ヒロミと彼氏との関係がギクシャクしていても、わかってくれない。そこで、ヒロミの気持ちを救うように答えてくれたのが、痴ほう症のおばあちゃんなのです。
人の感じ方というのは、とても不思議で痴ほう症のおばあちゃんの「ケンカすればいいんですよぉ、若い人は」その一言が、ツボにはまります。なぜ、痴ほう症のおばあちゃんの言葉の方が、人は感動するのでしょうか?「みんな、優しいねえ」と偽物のネコを撫でているおばあちゃんの姿が、目に浮かぶようでした。
猫からみた人間模様はイマイチだが…
猫を中心として物語が始まるので、猫からみた人間、猫が考えているのかが、この本で見たかった事なのですが、思いのほか猫の言葉は、しっくりこなかったように思えます。「旅に出たブランケット・キャット」は、この小説の中で、唯一自分の心の内を台詞として、話している猫です。でも、猫の気持ちとして、しっくりと感じることができませんでした。
しかし、その反対に子供たちの気持は、とてもまっすぐに描かれており、子供の不安や母親への思いが切実に伝わってきます。本当のお母さんを忘れなくてはならない子供の気持ちと、継母なのに子供たちを本気で愛している気持ち、そして子供たちもその継母の愛に応えようとする気持ちが芽生えてくるところは、今まで我慢していたものが一気に溢れでてクライマックスを充分に盛りあげています。
ネコの性質と合っていない
ネコが話の発端と言う事で、猫の描写がよくでてきます。私も猫を飼ったことがあるので、ある程度の猫の性質はわかるつもりです。
この物語の中で、猫を夜中の公園で遊ばせる場面や、猫をバスケットで持ち歩く場面がありますが、考えられません。猫の習性として、バスケットから出して、公園で遊ばせると絶対に帰ってはこないと思います。あと、旅行に猫を連れ歩くなんて無理です。猫を知っているだけに、いくら賢いと言えども猫の習性は変わらないのではないでしょうか?
説得力のある台詞よりも、我慢の気持ち
「我が家の夢のブランケット・キャット」では、揺れ動く中年の心、隆平の気持ちが描かれていて、とても面白く読むことができます。しかし、肝心の所はすべて妻の春恵に持っていかれてしまうのです。隆平の気持ちを、丁寧に描いているのに、どうして春恵に言わせてしまうのかと、とても疑問に感じました。
そのせいしれませんが、春恵の台詞と気持ちが、こちらに伝わってきません。その一つに、とってもいい台詞である「猫を困らせて楽しい?」「あんた人間なのに……落ち込んだりするだけで、いい?」と説得します。とても良い台詞なのに、なんだかこっちに伝わらないのです。今まで、猫を可愛がってもいなかった春恵が、そんな猫の気持ちがわかるものでしょうか?ちょっと、隆平に同情したくなってしまうお話でした。
意外性のある嫌われ者
無理な話の展開なのに、そのキャラクターを描く上手さから納得してしまうのが「嫌われ者のブランケット・キャット」です。あの猫が、おじいさんの猫だったとはと驚いた話です。そこに調子のいい主人公が、絶妙な間合いで、頑固なおじいさんの心に入っていきます。学歴もきちんとした所で働いていない主人公。魅力的な人間って学歴や職業じゃないのかも知れませんね。
最後の「一人前になって出て行け」は、最高の台詞でした。
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