三四郎の感想一覧
夏目漱石による小説「三四郎」についての感想が6件掲載中です。実際に小説を読んだレビュアーによる、独自の解釈や深い考察の加わった長文レビューを読んで、作品についての新たな発見や見解を見い出してみてはいかがでしょうか。なお、内容のネタバレや結末が含まれる感想もございますのでご注意ください。
人間として真の自我に目覚め、他の存在を尊敬すると同時に、自分の存在を尊敬するという生き方を説く夏目漱石の「三四郎」
夏目漱石の中期の写実主義的な小説「三四郎」を久しぶりに再読し、「三四郎」だけでは何か消化不良の感が否めず、講演録の「私の個人主義」へと読み進めました。このレビューでは、「三四郎」についての読後感を述べてみます。この小説「三四郎」のテーマは、青年の自我意識の問題を取り上げて、漱石が言うところの"他本位"と"自己本位"への時代の繰り返しがあって、初めて世の中が進歩するという立場からの、一つの時代にとどまらず、長い時代を見通した上での文明批判を述べた小説だと思います。この漱石の思想が最も色濃く描かれている場面の、『すると広田先生がまた話し出した。-----「近ごろの青年はわれわれの時代の青年と違って自我の意識が強すぎていけない。われわれの書生をしているころには、する事なす事ひとつとして他を離れた事はなかった。すべてが、君とか、親とか、国とか、社会とか、みんな他本位であった。それを一口にいうと教育を受け...この感想を読む
漱石前期3部作
佐々木与次郎の人を食ったような人柄と、野々宮宗八さんの浮世離れした研究者然とした人柄がこの小説に面白みを加えています。里見美禰子の人を翻弄するファムファタール的な存在感も明治の小説にしては古臭さのない、新鮮さがあるような気がします。野々宮さんの妹が対照的なのも面白いです。漱石の小説は漱石の友達や、門下生が登場人物のモデルになっていることが多く、これもそれらしき人がたくさん出て来ているので、漱石の交友関係を知ってから読むと、また違った面白さがあっていいと思います。美禰子が三四郎を好きだったのかどうか、本当のところを読むたびに漱石に聞いてみたい気がします。
ストーリー性が強い作品
学生時代に読んだことがありましたが、改めて読んでみると内容を結構忘れていました。夏目漱石の作品を読破します。主人公の三四郎は、不器用な感じの田舎の青年です。「美禰子が好きなんだけど、気になるんだけど、向こうもこっちを好きみたいなんだけど、なんだかな〜」みたいな感じの内容で、結局結婚しないまま物語は終わります。それならそれで、漱石のほかの小説みたいに、当時の様子が細かく分かると良いのですが、それも少ないです。青春の甘酸っぱさ、異性に対するどうしようもないやるせなさ、仲間といる時でも孤独を感じたりする、多感な時期の細かい描写に引き込まれていく。
未熟さが垣間見える
漱石さんの三部作のうちの初作品である。私は漱石の作品中では上位3位以内に入るぐらい好きな作品。「三四郎というさ火くんは何度も何度も読み返した小説だともいえるが、甘酸っぱい感じの小説として読んだことがなかった。じゃあ一体何だと思って読んでたの?って感じに思われるかもしれませんが、私はその時代背景を感じるために読んでいたんだと今ではそう思います。文章中にでてくる先生はきっと漱石さん本人をイメージして作り上げた人物なんだと思っていたし、物語のキーパーソンともいえる女性はほかの作品にも出てきたマドンナの続きというか延長のようにも感じられたし。個性を確立できてない。漱石地震の若さゆえの未熟さのせいか。色々と考えさせる一面もある。
ストレイシープ
主人公の三四郎を翻弄する里見美禰子は全く食えない女です。しかしそういった女性に男性が惹かれるのもまた事実で、女性からすると不思議でしょうがないですね。当時美禰子のような開放的な、自由な女性は珍しかったと思います。現代でもこのような大胆な女性に振り回される男性は多いと思います。思わせぶりな態度をとりながらも心は結局開いていない。心の奥底は誰も知らない。出会いから別れまで全てが美禰子のペースであって、最後は一枚の絵を残して彼女は人のものになってしまいます。展覧会の絵を見た三四郎こそがストレイシープであって、彼の心情を簡潔に表していると思いました。
世間に翻弄される明治の青年
これは九州の田舎からでてきた三四郎青年が、初めて東京の都会の中で目にする世界や近代的な人々、その関係の中で翻弄され成長していく一種の教養小説です。三四郎は田舎育ちらしく、素朴で気の良さもありながら、若く世間を知らず、近代化していく都会のただなかで翻弄されます。大学の周りの同級生や先生と学問の世界に居ながら、古い女性とは違う近代的な女性に心を惹かれて恋するようになります。しかし女性は三四郎を翻弄し、はっきりとした返事や態度を取ろうとしません。その挙句に三四郎は振られてしまって女性は別の男と結婚します。都会に出た青年の自我が、そこで出会う世界と人間との中で迷い、そして成長していきます。