たそがれ清兵衛の感想一覧
映画「たそがれ清兵衛」についての感想が9件掲載中です。実際に映画を観たレビュアーによる、独自の解釈や深い考察の加わった長文レビューを読んで、作品についての新たな発見や見解を見い出してみてはいかがでしょうか。なお、内容のネタバレや結末が含まれる感想もございますのでご注意ください。
日本人の良い心が感じられる映画です。
山田洋次原作の時代劇。主人公の井口清兵衛は妻を亡くし、2人の娘と痴呆の母と暮らす侍。黄昏時に仕事を終えると、真っ直ぐに家に帰り、家事と内職に勤しんでいたため、同僚たちはそんな彼を「たそがれ清兵衛」と呼んでいた。貧しい生活をしながらも、実直に生きて娘の成長を喜びにしている清兵衛を見ていると、心が温まります。昔の日本人の多くが、このような生活をしていたんだなと、しみじみとしてしまいました。清兵衛が斬り合いをするシーンは、大げさな派手なアクションはないけれど、動きの美しさや演出が素晴らしく、とても緊張感がありました。絵的には地味で、派手な映画では決してないですが、心に沁みる良い作品です。
上等の時代劇
普通は邦画はあまり観ないのに、誘われてなんとなく観た作品でしたが、とてもよかったです。真田博之・宮沢りえ2人とも実力のある俳優さんだと思います。勧善懲悪の娯楽時代劇とは違い、その頃の下級武士のつつましい生き方が丁寧に描かれています。運命に抗えない哀しさもあり、すべての感情をあらわにしないその生き様には清々しさも感じるところです。上意射ちの場面、私の勘違いでしょうか、討たれる立場の相手がチラッと鴨居の高さを確認するかのような目線があったと思います。なのに、彼は振り上げた自分の刀を鴨居に引っ掛けて討たれてしまうわけですが、自分と同じ立場の清兵衛に同情し、自分を討つのはこの人にしてもらいたいと思っていることをあらわす場面と思っているのですが。ナレーションで語られる、その後のお話も胸を打たれるものがあります。
通常の時代劇とは異なり
テレビの人気の時代劇というと、大抵が「外に向かう」傾向というか、悪代官の征伐や、犯罪を取り締まったり、派手なチャンバラなどが多いです。本作は確かに刀を使います。立ち回りに類することも出てきます。しかしベクトルとしてはむしろ武士という武を体現した職業の中で、恋や内側のこころといったものが中心となって動いてるような気がします。そのために類型的な時代劇や、新選組、忠臣蔵、一連の黒澤明なの映画などで得られる感覚を期待してみてしまうとちょっとずれるかもしれません。むしろ「寅さん」シリーズを制作した監督が作った時代劇、藤沢周平の小説の作風が下敷きになってると思えば想像できるものがあると思います。そちらを志向した時代劇お思ってもらえば良いでしょう。
生き方が美しい映画
美しいですね。宮沢りえさんの女優さんとしての美しさはもちろん、想いを寄せる人を支え、じっと待つ謙虚な美しさ。周りから陰口を叩かれようと、貧乏をしようとまっすぐに生きる清兵衛もまた美しい。一番印象に残っているのは、上意討ちに行く前の清兵衛と朋江のシーン。楚々と準備をする姿は妻以外の何にも見えないし、清兵衛もそれを望んでいるのに時が遅かった。幕末が舞台の時代劇なのに、現代に通じるポイントがいくつもある。上意討ちをしなければならなくなってしまうところはパワハラ、タイミングが合わずに朋江の縁談が決まってしまうところは今の恋愛ドラマでもよく見かける。今でもお茶のCMで着物姿の宮沢りえさんを見かけると、この映画を思い出します。
真田広之だからこそ、の名作
おやおや、たそがれ清兵衛様はお帰りかい?・・・とからかわれながらも、自分の家族を一人で守るために黙々と自分の人生をひたすら歩む清兵衛に涙してしまいます。胸が詰まる思いと同時に、観ていてなんてひどいんだろう、と怒りを覚えたのは、彼の先立ってしまった奥さんが自分の稼ぎについて不満をこぼしながら死んでいったというくだり。彼はいろんなことに気づきながらも奥さんを看取り、ボケてしまった母親、二人の娘を育てながら難題である仕事に立ち向かっていく・・・宮沢りえとの告白のシーンも、号泣してしまいました。彼がはずかしい思いをしてしまうところなども、昔の日本人の繊細な心の行き来を見るようで、とても興味深いです。また、真田さんならではの身のこなしあっての映画だと思います。ふざけすぎだと怒られるかもしれませんが、「私は道場の末席を汚す身・・・」という謙虚で美しいセリフにしばらくハマり、普段の会話の中でよく使っ...この感想を読む
慎ましい日本人の生き方・「たそがれ清兵衛」
慎ましい日本人の生き方・「たそがれ清兵衛」「寅さん」でお馴染みの、山田洋次監督の傑作時代劇三部作の第一作目の作品。山田監督らしく、細かな人間描写やユーモラスな要素も取り入れられ、重厚なドラマが展開され、時代劇の新しい境地を開拓したとも言われている。 原作者は藤沢周平で、作者の故郷である山形・出羽の国、現在の鶴岡を架空の藩名の海坂藩(うなさかはん)として登場させている。 「時は幕末、海坂藩の下級武士・井口清兵衛(真田広之)は妻を亡くし、幼い二人の娘と年老いた母と静かに暮らしている。 そんな彼は勤めが終わるとすぐに帰宅してしまい、そのため仲間から「たそがれ清兵衛」とあだ名されていた。 そんな折、元より剣の腕が優秀なので、藩命により上意討ちを命じられるが・・、」勤務時間が終わって帰ろうとすると、「清兵衛、帰りに一杯やらないか?」と同僚に誘われるが・・、この辺りの何気ないやり取りは山田流らしく...この感想を読む
内容も全て好きです。
内容共にかなり充実した内容で見てよかったと思いました。まず昔の日本のこの時代の人々の暮らしがまた情勢がよく分かります。この頃の侍は贅沢など出来た時代じゃなかったのですね。よく分かります。この清兵衛は病弱な妻を持っていたので。何時もは仕事から帰り妻の面倒を見ていました。そのせいあって藩の中では強腕とされて戦に狩りだされてしまいます。戦から無事にかえることが出来ましたが貧乏な生活は変わりませんでした。療養の甲斐あって体調が好転した妻とともに過ごす場面でハッピーエンドで終わります。昔の武士がどのような家庭内での生活をしていたかというのがポイントです。オススメです。
静兵衛はオタクの極みじゃないか
侍が居た、日本の男には、この優しさと厳しさと自分を戒めるゆとりが有ることを思い起こさせてくれる作品。貧乏で年老いた母と、妻に先立たれて残った子供の世話をしながら、内職で家族を支えている下級武士。ここまで日本のお父さんをしみじみ見せてくれる映画は無いだろう。幼なじみの朋江が夫に虐められるのは、見ていて心が痛い、宮沢りえの着物姿がなんともそそとしていて、実に単純に心揺らぐほど綺麗だ。女手の無い家庭に一人の女が入ると、明るくなると言うが、この映画はそれを目の当たりにしてくれる。綺麗な人は見ているだけでも、人を幸せにしているのだろう。主人公の清兵衛は人の嫌がる命令を受けて、断ることも出来ず、命を捨てる覚悟で使命を果たす。男の帰りを待ち、ただ待つ女の姿が美しい日本の名作のひとつだ。
リアルな侍の映画。
食うや食わずの下級武士の過酷な人生の話。「食うや食わず」の描写がリアルで、見ていて「おいおい大丈夫か」とつっこみたくなる。主人公・真田広之の顔も月代も、きちんとあたってないからボロボロだ。病の重かった妻のために刀も手放してしまった、なんて泣けてくる。上意討ちの相手、余吾善右衛門を演じる田中泯もド迫力だ。ふたりの斬り合いのシーンは、緊張感たっぷりでまばたきするのがためらわれる真剣味。暗い室内の斬り合いだから、梁や柱に刀がとられるし、足下もつまずきやすい。そんな不具合な斬り合いって!と興奮しちゃいましたよ。ラスト近く、清兵衛のその後が語られ、ほんのり悲しくなるけれど、あらがえないものに沿って生きるしかない、という状況は、武士の時代に限らない。ささやかな侍の一生を、リアルに、かつやさしく見つめた作品。