塩狩峠のあらすじ・作品解説
塩狩峠は三浦綾子の小説で、実際に起きた鉄道事故を元に創作された。物語は主人公の永野信夫の幼少時から描かれ、後にキリスト教信者となった彼が鉄道事故に巻き込まれるまでを描く。 永野信夫は明治10年(1877年)に東京に生まれ、父、祖母に育てられた。祖母からは母は信夫を産んだ直後に死亡したと聞かされて育ったが、祖母の死後、実は母が生きていたこと、そしてなぜ産まれたばかりの自分を置いて家を去ったのかを知る。母はキリスト教を信奉しており、祖母はその信仰を許そうとはしなかったので、信仰を守るために母は家を出て行ったのだった。こうして彼は複雑な思いを抱えながらも少しずつキリスト教に向き合うようになる。 やがて裁判所事務員の仕事に就いた信夫は、今は北海道にいる旧友の誘いもあり、北海道に移住し鉄道会社に就職する。そしてこれまでもあらゆる疑問を聖書にぶつけてきたのだが、ついにキリスト教の信仰を持つ。信仰の力もあってか信夫は多くの人に愛される青年へとなっていくのだが、遭遇した鉄道事故のさなかにある決断を迫られる。
塩狩峠の評価
塩狩峠の感想
自己犠牲
読み終わったときに、なんとも切なくまたもやもやとしたものが残ります。自己犠牲・・・多くの人を救うために、自らの命をなげうつ行為です。多くの人に感謝され、長く人々の記憶に残る英雄的行動でしょう。ですが命をなげうったものの家族は、友人は、恋人は、それで幸せになれるものなのでしょうか。理屈ではその行動を誇りに思い、納得もできるでしょうが、愛するものを失った悲しみはずっと続くのではないでしょうか。その状態を幸せと呼べるのでしょうか。もしも私の夫が、息子が、娘がこのような行動を取ったとき私は二度と幸せなど感じることは出来ないであろうことを思うと、自己犠牲という行動について深く考えてしまいます。
実話を元に書かれた作品
一人の男性の、少年期から自己を犠牲にして亡くなるまでの物語。母や友人など、身近なところにキリスト教信者がおり、後に自らも信者となる。鉄道職員になった彼は、塩狩峠での鉄道事故を食い止めようとして殉職する。実際に起こった鉄道事故を元に書かれた作品らしい。主人公は、クリスチャンの模範のような青年である。宗教については無知なのでその観点からは述べられないが、宗教抜きにしても模範的な人物なのだ。「愛と信仰に貫かれた生涯」と裏表紙に書かれていた気がするが、きっと彼の人生は美談として語り継がれているのだろう。彼の自己犠牲は立派であるが、やや違和感が残る。彼の信仰溢れる人生だけでなく、三浦さんらしい穏やかで慈悲深い文章で、万人受けするメッセージを伝えて欲しかった。
「塩狩峠」は私のバイブル
この本に初めて出会ったのは中学一年の夏。読書家の母に薦められ、この本を手にした。とりあえず、読んでみた。でも当時の私には、一回読んだだけではよく解らず…(笑)そして三年後、高校1年の夏。夏休みの課題である読書感想文用の本を探していた私は、ふと「塩狩峠」のことを思い出し、再読。ただただ、涙が止まらなかったことを、今でも鮮明に覚えている。信夫の信仰心の強さ、生と愛。当時の私には、その信仰心の強さに恐ろしさを感じたほどだった。これがまた実際に起こった事故だというのだから…。クリスチャンである人も、そうでない人も、是非一度読んでほしい本である。