宇宙にいるのは、我々だけではない。スティーヴン・スピルバーグ監督が未知なるものとの遭遇を未来への明るい希望と期待で描いた「未知との遭遇」 - 未知との遭遇の感想

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宇宙にいるのは、我々だけではない。スティーヴン・スピルバーグ監督が未知なるものとの遭遇を未来への明るい希望と期待で描いた「未知との遭遇」

4.04.0
映像
4.5
脚本
4.0
キャスト
4.0
音楽
4.5
演出
4.0

この映画「未知との遭遇」は、「激突!」「ジョーズ」で一躍、ハリウッドでエンターテインメント映画監督のNo.1に躍り出た、若き天才監督スティーヴン・スピルバーグが、「激突!」の不気味なタンクローリー車、「ジョーズ」の巨大鮫というように、共に姿を隠して後から迫って来る、"未知なるものの恐怖"を描きましたが、UFO(unidentified flying object)、つまり、「未確認飛行物体」現象を真正面から取り上げたこのSF映画は、前から現われて来る、"未知なるものとの遭遇"を恐怖ではなく、未来への明るい希望と期待を持って、受け入れようとしている思想で描いた映画です。

この映画の原題は「第三種接近遭遇」となっていますが、この映画の技術顧問であり、ノースウエスタン大学天文学部長のJ・アレン・ハイネック博士は、UFO現象を目撃パターン別に、遠隔目撃(夜間発光体、日中円盤体、レーダー・肉眼同時目撃の三つ)と接近目撃とし、後者を極めて近い距離からの目撃である"第一種"と、目撃と同時に物理的証拠、例えば、地面に出来た着地の跡、焦げ跡、破壊された樹木などの発見である"第二種"、UFOに搭乗する生命体の出現を目撃し、時によると彼等と肉体的な接触さえ行なわれる状態の、"第三種"に分類しています。 この映画は、遠隔目撃から接近遭遇に、そして、それが、"第一種"、"第二種"と進み、遂に劇的な"第三種"に至る過程を、市民の日常生活を背景に展開しようとしているのです。

映画の前半部分は、"第一種"と"第二種"の接近遭遇を、若い未亡人(メリンダ・ディロン)とその四歳の子供、そして、平凡な電気技師(リチャード・ドレイファス)の目撃体験と、そのショックが与えた生活と感情の激変を、きめ細かくスピルバーグ監督は演出しています。

それに比べて、映画の後半部分は、メインテーマの"第三種接近遭遇"に近づく程、何か粗雑で、若干、期待はずれの感がします。 やはり、未知の異星人との遭遇は、鬼才スピルバーグ監督をしても、人間の想像の枠を超えられなかったような気がします。

何をヒントに、"悪魔の塔"の異様な山形に目撃者がとり憑かれるのか?------。 その山に着陸する飛行体も、"空飛ぶ円盤"を派手にケバケバしく拡大したものに過ぎないし、それから、降り立つ異星生物も、人間の変形である怪物的なイメージを脱する事が出来ていないように思います。

そして、この映画で興味深いのは、映画の冒頭で、メキシコの砂嵐の中で発見される真新しい三台のプロペラ機は、当時、話題になっていたバミューダ三角海域での謎の航空機消滅にヒントを得ていると思われますが、それを調査するアメリカ人、フランス人、それにメキシコ警官の相互が、異星人との関係よりも、遥かに言葉が通じ合わないのは、一つの皮肉として描いていて、ここにスピルバーグ監督の思想が垣間見えます。

この映画の副題は、「We are not alone」------。 宇宙にいるのは、我々だけではない。 この広大無限の宇宙の中には、我々と理解し合える、"知的生命体"が他にも存在していて、彼等といつの日にか、いかなる形でか遭遇する事が出来るという、ポジティブな明るい期待が、この映画の重要なテーマであり、それは、"神の降臨にも似た信仰的なもの"でもあると思います。 このように、神を具象化する事が至難の技であるように、人類と他の"知的生命体"との遭遇、すなわち、"ファースト・コンタクト"を映像化する事は、容易な事ではないと思います。

その遭遇を野蛮な異星人との抗争ではなく、平和的で対等な相互理解として描いているところに、この映画の持つ特色があるような気がします。 恐らく、この事は、当時のスピルバーグ監督が持っていた思想を色濃く反映していたもので、後に彼は、「宇宙戦争」等により、思想の変遷が見られるようになりましたが------。

そして、この映画の白眉は、美しい夢幻世界とも言えるクライマックスで、従来の宇宙物のSF映画には見られなかった、素晴らしい映像のきらびやかで豪華なパノラマショーを我々観る者に見せてくれます。 また、この映画で興味を惹いた事の一つでもありますが、フランスはアメリカに次いでUFOの研究が盛んで、UFO研究機関(GEPAN)が設けられていますが、この映画にもフランスの科学者が、調査隊長として出て来ます。

しかも、その人は何とフランスのヌーベルバーグを代表する映画監督である、フランソワ・トリュフォーなのです。 「映画に愛をこめて アメリカの夜」に見られるように、人間の優しさに深い共感を示すトリュフォー監督が出演している事からも、この映画の優れた叙情性を指し示していると思います。

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