空気を読まない女子大生のキャンパスライフ
田嶋春になってみたいような気がする
うーん、タージこと田嶋春の性格を一言で表すとすると、融通が利かない、正義感が異様に強い、その場の空気が読めない…という印象なのだけれど、物語を読み進めるうちに、実は空気を読みすぎて、先の先の、もっと先のことまで考えてしまっているのではないかとさえ思えてくる。確かに盛り上がる新入生歓迎コンパで、未成年は飲酒をするべきではないと学生証を確認して回るタージは、場の雰囲気を壊すだろう。正直にいうと鬱陶しい。自分は未成年だからとホットココアを注文するのだが、ホットココアがメニューにある居酒屋に私は入ったことがない。新歓コンパで、お酒の強要が問題となっている昨今、タージはそれに対しての警鐘をならしたのかもしれない。最初の章で、お酒によった女の子が八代センパイにお持ち帰りされたのを、すんでのところで阻止したのも、空気が読めないからではなくて、それ以上に機転が利いたからと考えることもできる。タージのいうように、お酒によっての性交渉は後悔する可能性が高いのだから。
もしかしたら、タージは本当はさみしがり屋なのかもしれない。今までその変人ぶりが災いして、友達というものができなかったのだろう。大学に入って自分を受け入れてくれたサークル「N.A.O」に感謝して、その役に立ちたいという気持ちがあるのだろう。ちょっと可愛らしいところもあるではないか。そして、強さもある「傘の活動」…不要な傘を集めて、自由に使って自由に返却する。そういったことを、たった一人でやり遂げようとする。周囲からは就活のポイント稼ぎと揶揄されるかもしれない。でも、タージにとってはそれは「みんなのために」やっていることなのだ。
そりゃ、毎日生協にクレームを入れるのはやりすぎかもしれない。しかし、タージは大学生協として本来あるべき姿を目指しているのだ。理想に妥協はない。うまい棒にはコーンポタージュ味が必要。臆面もなく主張できるタージの強さと大胆さに、少し憧れる。
「スケープゴート・キャンパス」について
私は、この章が一番好きだった。娘の受験勉強を励ますために自らも一緒になって勉強する母親。そして向学心に目覚めて、大学に入学する。大学って青春を謳歌する場所でもあるけれども、本来一番の目的は勉強することだと思うんだよね。親子で同じ大学に入って、一緒に勉強するって素敵とは思うけど、そんなに上手くはいかないわけさ。なぜならお母さんのビジュアルをみんなが笑いものにするから。ここのところの、伏線は「高橋」っていう名字だったんだけど、気がつかなかったわ。やたらタージが「高橋」に絡むなとは思っていたけれど。彼女はお見通したったのね。娘の奏がキャンパスのカーストの最下位から、母親を守ろうとしていたことを。それで甘んじて自分が最下位を引き受けたのか?うーん、そうではないと思いたい。タージにとって人からどう見られるのかなんて、どうでもいいこと。学内で奏と歌子さんに仲良くして欲しかったのかな。娘の使い残したノートに「歌子」のシールを貼って使うお母さん、いじましい。同じ家から二人も私立の大学に通うって大変だろうな、経済的に。高橋家がそんなに裕福でないことは、お母さんが試食販売のパートをしていたことから推測できるし。それでも、尚、大学で学び直したいと考えるお母さんが素敵。奏はお母さんと一緒にお弁当を食べたかな。タージと3人で食べられるといいな。何だか心が温まる話だったわ。
田嶋春にはなれそうもない
さて、最終章でタージに危機が訪れる。危機、その一としては居酒屋で頼んだホットココアが熱すぎて思わず、口にしてしまったビールを未成年であるがため飲み込めず、ペットボトルに少しずつ吐き出すというもの。その徹底ぶりが正直、知り合いならめちゃくちゃいらつくわと思うところだけど、それがタージなんだよね。
いや、本来の危機は、タージに恨みを持つサークルのセンパイが、観覧車の中でタージを襲っちゃおうと計画を立てるんだけれども、いくら何でもそれは杜撰じゃないかな?観覧車って前後のゴンドラから良く見える。電話で通報でもされたら一発で逮捕。しかもよりによって、タージ相手にそんな気持ちになれるものなのか。オトコってすごいな。
タージのことは好きになりかけていたのに、最終章で観覧車に「さん」付けする。私は変わり者は嫌いじゃないけど、不思議ちゃんと呼ばれる分野だけは受け付けないのだ。タージは、「心に決めた人」によって難を逃れることになるのだが、タージがその人のどこが好きなのかが全く書かれていなくて、読み手からも想像ができないのがとても残念。しかも自分からチューしてしまい、「嬉しいですか?」と聞く。私の読んできたタージのキャラが一変してしまう。なんだかなー。恋愛の前でも、確かに変人だけれどその方向がグッと変わってしまう。私のタージへの憧れもしぼんでしまった。ああ、田嶋春にはなりたくない、やっぱり。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)