キュートでスタイリッシュなおしゃれ映画 - 妹の恋人の感想

理解が深まる映画レビューサイト

映画レビュー数 5,784件

キュートでスタイリッシュなおしゃれ映画

2.52.5
映像
3.0
脚本
2.0
キャスト
2.5
音楽
2.0
演出
2.5

目次

妹の心の病の描写がいまいち

この映画は、両親を亡くし心を病んだ妹、その面倒を見続ける兄のもとに突然現れた風変わりな青年との交流がメインだ。妹の心の病は深く、兄は恋愛どころか仕事にも差し障りが出るくらいだ。それでも兄は時々苛立ちながらも、献身的に妹の世話をしている。
この映画の冒頭は、いかにこの妹ジューンの心が病んでいるか、どれほど変わった人間なのかが強調される場面が多く続く。そのどれもが精神病というよりかは芸術家特有のエキセントリックな言動にしか見えず、あまりリアリティがなかった。
特に目を離したすきに交差点でゴーグルと卓球のラケットで交通整理をするような様はあまりにキュートすぎる。本当の心の病気の人とは違うという違和感がこの映画中ずっとついてまわった。
と言うよりは、それほどシリアスでリアルな描写をこの映画は求めていないのかもしれない。そう思えば、軽く見られるおしゃれ映画ととらえていいと思う。
よくバーなどで、音声なしで映画が流れていることがある。そういう場所で流されるのに、この映画はぴったりだと感じた。
それくらい軽く見る映画だと思う。

さすがのジョニー・デップ

ジョニー・デップは「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズなどで一躍有名になったからか、昔のシンプルで堅実な演技に注目されていない気がする。私が彼の映画で一番好きなのは「ギルバート・グレイプ」だ。田舎から出ることのできな青年の閉塞感やあきらめ、怒りを実にリアルに演じていた。あの役はもうジョニー・デップにしかできないと思う。
この「妹の恋人」はそれより少し前かと思いきや、意外に同じ年に公開されている。そしてこの映画でもゆるぎない彼の演技を見ることができる。そもそもこの映画は内容が内容なため全体がだらけがちなのを、彼の演技がそれをひきしめている。ジェニーがバスでパニックになったところの態度、ベニーにもう尊敬できないと言ったところ、どれを取っても彼らしい堅実な演技だ。しかもジョニー・デップ演じるサムは道化師でもあり、大道芸人らしいコミカルな動きも必要だ。そのどれもをそつなく自然に演じるのは、やはりジョニー・デップならではだと思う。
特にパンを靴のようにしてタップダンスをするところや、ジューンがいる病院の看護師に向かい「マミー!」と叫ぶところなど、つい笑ってしまう。しかもただコミカルな道化師なだけでなく、ジューンを思い、真剣に兄ベニーと語るところはサムの意外な一面を見たようで、ジョニー・デップの演技力の深さを感じさせた。

意外に豪華な出演者たち

この映画には意外にも豪華俳優陣が顔をそろえている。有名どころではウィリアム・H・メイシーだろうか。この人は主役ではないこそ、いい役で本当に多くの映画に出ている。後はベニーの友人役のオリバー・プラット。彼も脇役ながらも、その少し小太りの体形と憎めない顔を生かした配役が多い。個人的に好きなのはジューンの先生役であるCCH・パウンダーだ。彼女が演じた「バグダッド・カフェ」の女主人の役は最高にはまり役で、あきらめと苛立ちの中毎日を過ごす女性のつらさを見事に演じていた。今回は出る場面こそ少ないけれど、「バグダッド・カフェ」とはまた違った魅力をその役に溢れさせていたところはさすがだと思う。

ストーリーのためのストーリーのような無理のある展開

この映画は全体的におしゃれ映画で軽くはあるから、それほど無粋な突っ込みはすべきでないとは思う。それでもさすがの俳優陣の演技のおかげで最後まで観てしまうことになったからこそ、突っ込んでしまったところをいくつか書きたい。
まず、兄がサムとジューンの恋愛にあそこまで反対する理由がわからない。もちろん最初から諸手を挙げて賛成していればストーリーが進まないから、演出的にはそれが正解なのだろうけど、そうならそこまで反対するに至る心理描写が少しは欲しいところだ。
あとサムはベニーの家に転がりこんできた頃の変人ぶりが、時間が経つにつれてましになっていく。変人ではなく、ただの大道芸人に憧れる青年になってしまったところが、少し残念だった。またいつも木に登っているところもいささかわざとらしく、あまり好きではない。
おしゃれ感やキュート感を出すための演出なのだろうけど、そういうのが続いてリアリティがなくなってしまうと映画自体見る気がなくなってしまう。もちろんそれは個人の好みなのだろうけれど。
あと兄のいかにも「不器用です」といった雰囲気もわざとらしい。せっかく恋人になれそうな女性にもなんだかどんくさく、妹のせいでそういう状況に慣れていないのはわかるけど、やりすぎ感がないでもなかった。
そしてそんな兄の言動にあの女性も怒りすぎではないだろうか。もともと彼の不器用なところに惹かれたのなら、あの一言で怒りすぎだと思う。
そういう突っ込みが多くありすぎ、それが全部ストーリーのためのストーリーという気がして、あまりこの映画には感情移入などはできなかった。

心に残るいくつかの場面

とは言え、心に残るいい場面もあるにはある。一番はサムがアイロンで作るサンドイッチだ。煙の上がり具合やパンの焦げ具合など最高で、かなりおいしそうに見えた。その発想こそがサムの持ち味で、食べる物で遊んではいけないという縛りを超えた自由な感じが好きだった。
同じような話で、マッシュポテトを作るのにラケットを使う場面があるが、あれは、これまた「やりすぎ感」があって、アイロンサンドイッチほど好きではない。
あとジューンの病室に入れなかったサムが、窓拭き用の足場を使って、窓からぶら下がり左右に揺れる場面がある。あれも「やりすぎ感」を感じてもいいのだろうけど、なぜかそれは感じなかった。サムの必死さが感じられたからだろうか。
考えなしに左右に揺れるサムに、病室内ではそれにまったく気づかないシリアス顔の女性医師のコントラストが面白く、あれはいい場面だと思う。
ただ、ジューンがそれを見てアパートを借りると言い出したところは、ちょっとうまくいきすぎだ。また女性医師も退院の許可を簡単に出しすぎると思う。バスであれほど大騒ぎを演じた女性相手に。

なんとなくハッピーエンドで丸め込まれた感じ

晴れてベニーの恋人になったらしいルーシーは、サムとジューンが一緒に住むアパートに訪れる。そしてベニーはお祝いにルーシーに白いバラ、ジューンにピンクのバラを渡そうとするが、部屋の中で仲睦まじくアイロントーストを焼いているサムとジューンを見て、邪魔すまいとそっと立ち去る。これがなんとも心温まる、少し切ない場面だった。過保護だった兄が妹を手放す瞬間と言うか、寂しさと同時に開放感も感じられて、失礼ながらこの時初めてこの俳優うまいなと思った。兄役はエイダン・クイン。私はこの「妹の恋人」でしか知らない俳優だった。なんとなくジョニー・デップと妹役メアリー・スチュアート・マスターソンに比べて、年が行き過ぎて渋すぎるような気ばかりしていたけど、最後の場面で初めて、悪くなかったなと思えた。
ところで兄の恋人役、「ロスト・ワールド」で博士役をしていたジュリアン・ムーアだ。奔放ながらもセクシーで知的でしかも美人という役だったが、今回も美人だ。「ロスト・ワールド」よりも少し若いのか、なんともいい味を出していたことが印象的だった。
この時代の映画はなぜか、ストーリーにそれほどの深みがなくても魅力があったりする。この映画もそうだ。深みはないし、演出もどこかで見たことあるような感じだし、キスシーンもきれいに作りすぎだし、線路歩いているだけなのに感動的な音楽鳴らすしで、言いたいことたくさんあるにも関わらず、なぜか嫌いではない。
そもそもこの映画は15年以上前に見て感動して、DVDを購入したくらいだ。今回観たのは恐らく7、8年ぶりくらいだろう。初めて観た時ほどの感動がなかったのは、私が成長したのか好みが変わったのかわからないが、それでも当時良かったなと思った場面は覚えている。
だからこそまた時間が経ったらまた、同じように突っ込みながら観るのかもしれない。そんな気がした。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

他のレビュアーの感想・評価

それ絶対おいしいでしょ。

ハイジの白パンに、ぐりとぐらの卵焼き。物語の中には強烈な印象を残す食べ物のシーンが登場することがしばしばあるものです。この映画の中にも「アイロンチーズトースト」という、食べてみた過ぎるアイテムが登場します。夜中に見たら悶絶しそう。この作品、数々の印象的なシーンがありますが、シーンを色付けしているのは食べ物なんですね。ピーナツ・バター、コーンフレーク、レーズン、タピオカなどなど。それぞれ、登場人物のキャラクターや、彼らの関係性を象徴するキーアイテム的に使われています。(余談ですが、ジョニー・デップの「パンダンス」のシーンはキュンと来ちゃいました。)実は扱っているテーマがすこし重めなんですが、こういった魅力的なアイテムを使ったシーン作りや演出のおかげで、暗くならずにすんでいます。ラストの落とし方も好きでした。結局は他人と100%分かり合うことなんて無理。でも共感できることがなにか1つでもあ...この感想を読む

5.05.0
  • 128view
  • 429文字

関連するタグ

妹の恋人が好きな人におすすめの映画

ページの先頭へ