最後まで退屈しない短編集 - 地下街の雨の感想

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地下街の雨

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最後まで退屈しない短編集

4.04.0
文章力
5.0
ストーリー
4.0
キャラクター
5.0
設定
3.5
演出
5.0

目次

地下街の雨:泥沼かと思いきや感動的な結末

導入のところで、これは泥沼の恋愛話が始まるのだろうと予測しましたが結果としてはまったく違って感動的で粋な話だったなという印象です。待ち合わせしている男女を観察している麻子が「約束に遅れてしまって微笑んでいられるのは、遅刻を笑って許してくれる相手を待たせている女性たちだけの特権」と思っているところからこの段階での麻子の卑屈な感情が伝わってきましたね。その光景を微笑ましく見ることができるのか女性に妬ましい感情を持って見るのかは見るその女性の意識次第なのだと改めて感じました。でも導入の部分で曜子のことを「あの女」と書いているので恨みをもった女性だと思わせてしまう文章ですよね。最後まで読んで、曜子との関係性や出来事を考えると「あの女性」のほうが恨みを頂いている印象がなくてよかったような気がしましたが、まあその表現があったので最後の意外性があったのでしょうね。この本のタイトルにもなっている「地下街の雨」。この単語だけだとなぜ地下街に雨が?と思いましたが、地下街にいると雨が降っていると気づかず周りの人が傘を持っていることで雨だと気づく。「それまでは地上はいいお天気に決まってるって思い込んでる。あたしの頭の上に天が降っているわけがない、なんてね」というところを読んで納得しましたね。地下街の雨は、不幸な出来事があった人間もその出来事があるまではまさか自分が、という感情ということですよね。うまい表現だなあと思いました!

でも結末で曜子たちが石川の思いを遂げさせるために一芝居打ったということがわかるのですがそれは男として少し情けないなという印象ですね・・。しかし冒頭で嫌な女と思われる文章で登場して、さらに結末がわかるまでも嫌な女という印象がなく、石川を取り合っての泥沼の話と思っていたところの意外な結末だったので最終的には「感動的な話だった」という印象になりました。 

決して見えない:結局はどちらが死神なのか

運命の相手と結ばれる赤い糸と違い、死に際を看取る人と結ばれている黒い糸という発想が斬新ですよね。結ばれることの反対は死に際を看取ることなのか?という疑問はありましたが。もうひとつの疑問としては例に出ていた犬や子供の県は看取られるほうがなついていくという話でしたがこの悦郎と老人の場合は老人のほうから声をかけたのではないだろうかと思いましたが・・。それに関してはあとから「親しく言葉を交わす時」という説明が追加されていたので解決しました。結局は続きが気になる終わり方でしたよね。夢を見た相手が後日親しく話しかけてきてその相手がすぐに死んでしまうという結末を考えるとそもそも夢を見たのは悦郎のほうでその老人と後日出会い、その老人が死んでしまうという逆の結果があるのかとも想像できますよね。

 

不文律:勘違いの重なりで起こってしまった事故

この短編集の中では唯一関係者の「証言」や「会話」だけで話が進んでいくお話でした。定期的に出てくる「誘拐ごっこ」の話が、本筋にどのように絡んでくるのか最後までよくわからず読み終わったあとにもう一度考え直す必要がありました。

話の内容として片瀬満男は不倫している上仕事でもストレスを感じており、また妻との関係ともうまくいっておらず離婚の話を進めている上で子供たちの中ではやっている誘拐ごっこの脅迫状を見て妻から夫へ「財産をすべて要求する」という手紙が来たと思った。妻との約束事ややり取りは書面に残すという暗黙のルール、つまり不文律があったので妻からと勘違いしていたということですよね。若干無理やりですよね。「おまえを誘拐する」とはなんだと疑問に思わなかったのでしょうか。それで車の後部座席には預金通帳などがあったと・・。しかし強引なのは子供を連れているときに、ということですよね。誰かの会話の中にもありましたがわざわざ子供を連れて・・。と私も思いました。

子供を後部座席に載せているときにその勘違いしていた脅迫状の件を妻に残すのも変ですし、教育熱心だとあった母が、後部座席に子供がいるにもかかわらず運転が不能になるほど運転席の夫につかみかかるだろうかという疑問が残りましたね。 

混線:典型的なホラー

「地下街の雨」や「不文律」はミステリーのような話で、「決して見えない」は非現実的感が若干ありつつもここまでの話がある程度現実的な話だったので「混線」もそのような話かと思っていましたがバリバリのホラーでしたね。

最初に出てきた少女やその兄と名乗る男が、いたずら電話をかける相手を驚かすためにしている話だと思い読んでいるともはやその2名がこの世の人ではない感じでした。

話の9割程度がいたずら電話の相手に少女の兄が話している「たとえ話」となっていました。いたずら電話をかけるような人間はこんなに長い話をおとなしく聞いているものなのかという本筋とは違う疑問を持ってしまいましたが。

たとえ話の中に出てきた、武志が電話に吸い込まれるシーンなのですがどんなに頑張って見ても映像が想像できませんでした。そもそも受話器に耳が引っ張られて、というシーンは何に引っ張られているのでしょうか?吸いつかれているのではなくて?

と、映像は想像できないながらも受話器の中に吸い込まれていく描写はとても気持ち悪かったですね・・。ホラーではなく、なにか推理だったり意外な結末があるのかと思いきやただただホラーでした。 

さよなら、キリハラさん:SF系かと思いきや現実的で、感動する話

短編集の中で非現実的な話やホラーを読んでからの最後の話がこれだったため、「音波管理委員会の太陽系第三支部」と言われても信じてしまっていました・・。

音が聞こえなくなることと、祖母が家の中の小物を盗んでいるかもしれないという疑惑がどのように関係するのかと不思議でしょうがなかったのですが、最後にうまい具合におさまりましたね。おばあさんは自殺したくなるほど家族の邪魔になっている印象はなかったので、そうではなく自ら、家族のために自殺しようと思ったのでしょうね。「家族でありながら切り離されている」祖母に「ひとりぼっち」だったキリハラさんが寄り添い、自殺を止めてあげたという結末には感動しました。

                                         

7作品がある短編集「地下街の窓」で上記4話が気になった話でした。最初に感動的な話があったので、2話目も同じような話が来ると思いきや都市伝説のような話、3話目ではミステリー系、4話目では完全なホラー、などなど全く退屈することなく読み進められた作品でした。

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