笑いと涙は同時に生まれると教えてくれた作品
バラバラな家族にとって唯一大切なもの
はじめはよくある家族の風景だと思う。偉そうな父親、忙しそうな母親、破天荒な祖父、引きこもりのような兄、変わり者の叔父。あーやだなー、でもいるなーこんな家族。主人公の少女・オリーヴはこんな家族の中で唯一、はじめから天真爛漫な愛すべき存在として登場する。このダメダメ家族がこれからどうなるのか、冒頭から彼女の登場によって引き込まれていく。
オリーヴは、お世辞にも美少女には見えない。ど近眼の眼鏡をかけ、お腹がぽっこりと出た幼児体型を見るかぎり(これがとってもキュートなのだが)は想像もつかないが、どういうわけか美少女コンテストの地方予選に繰り上げ優勝してしまう。この家族が住んでいるのは、出場者が少ないか、レベルがあまり高くないよほどの田舎の地方なのだと、日本人の私にも想像できる。コンテストの本選はカリフォルニア。父親が(あやしげな)事業に手を出して飛行機に乗るお金もなく、不安定な兄や自殺未遂した叔父を置いてもいけず、結果、家族全員で何時間もかけ車で会場まで行くはめに。
ここでまず伝わってくるのは、なんだか訳あり家族だけれど、オリーヴの存在は家族の誰にとっても、大切なものなのだと感じられること。なんだか嫌な雰囲気の家族だけれど、ここだけはブレない部分なんだとホッとさせられるところだ。
コメディ要素から見える悲哀
嫌な父親が登場する物語は、個人的にはあまり好きになれない。心がささくれるような感覚になる。けれど、旅が進むにつれて、この父親をはじめ家族一人ひとりが少しずつ魅力的に見えてくる。車という密室は、人の心の距離を縮めるものだと聞いたことがある。まさに、それゆえなのかもしれない。
加えて、この家族の乗る車は、今にもバラバラになりそうな家族そのものであるかのようなオンボロ車。旅の序盤から動かなくなり、エンジンをかけるには押すしかないという状態に。まず、このことによって、家族は無理やり一つになるしかなくなる。みんなで車を押し、エンジンがかかると走って追いかけて乗り込む。このアトラクション的儀式が、荒んだ家族の気持ちをはらして、自然に笑顔を作っていく。見ているこちらまで、明るい気持ちにさせられている。それがはじめは、一瞬の出来事であっても。
旅の合間合間で明かされる家族たちの問題が対比となり、コメディの中に描かれるからこその切なさがたまらない。特に、オリーヴの兄・ドウェインはたった一つの目標が、この旅で叶わないことを思い知らされ、生きる意味すら失ってしまう。けれど、そんな兄をふたたび浮上させるのは、他の誰でもなくオリーヴだった。ほとんど誰にも心を開かないドウェインでも、妹のたったひとつの行動で前を向ける。それがよけいに胸を打つ。
また、旅の途中で、祖父は永遠に目を覚まさなくなってしまう。悲しいはずのシーンだが、その先にはこれまで以上の笑いがこみあげる。それまでは、少しゆるーい感じで進んでいた物語が、急激にスピード感を増してくるのだ。頭のカタい事務的な病院から祖父の遺体を連れ出すという行動に、車を押すことで培った家族のチームワークを発揮。さらに、オンボロ車はクラクションが勝手に鳴りはじめ、ポリスに疑われながらも(ここで祖父のエロさに助けられるとは)、なんとかギリギリにコンテスト会場につくという流れるような展開に、笑いと涙が交互に押し寄せる。
これでこそラスト!と思えるすがすがしさ
物語が進む上で常に頭の隅に置いておきたいのが、オリーヴがコンテストで披露するダンスは、それを教えた祖父しか知らないということ。そしてその祖父は、天国へ旅立ってしまっているということ。まさかの母親すらノータッチなのだ。会場では、年齢には不相応なメイクと衣装をほどこした美少女ばかりなことに、男家族たちはハラハラするばかり。ここにもオリーヴに対する愛情が、そこかしこに散りばめられている。
物語の冒頭で、父親は「負け犬になるな」とやたら繰り返す。オリーヴは生前の祖父に「負け犬になるのは怖い」と訴えるが、優しく諭してくれた。本当の負け犬とは、負けるのが怖くて挑戦しないことだと。この映画のもっとも心に響くテーマはここなんだと思う。騙され利用された父親も、そんな夫との先が見えなくなった母親も、愛する人と仕事を奪われた叔父も、将来を見失った兄も、言ってみれば負け犬だ。そして、オリーヴもいままさに、コンテストで明らかに浮いた存在となっていた。外の人間から見れば、呆れた家族なのかもしれない。けれど、オリーヴはそんな家族に見せてくれた。祖父の教えを守り、思うがままにやり遂げたのだ。冷ややかな目を向ける観衆をよそに、家族たちはオリーヴとともに舞台に上がり、踊り狂う。気付けば、この映画を見ている自分も一人の観客となって、涙を流している。可笑しいはずの場面なのに、胸がいっぱいになる。これぞ家族のかたちだと、思い知らされる。この瞬間を味わいたくて、何度も見てしまう。
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