華麗で残酷なおとぎ話
残酷で、キレ者で、残念な王子様
主人公のルードヴィッヒ(ルーイ)王子は、「死体好き」(初期)や「巨乳美女好き」という、女性から嫌われそうな設定である。しかし、あまりにも自由な振る舞いや、ダメ王子っぽさ全開の言動を見ていると、「まぁ、いっか」と思えてくるから不思議である。別に、イケメンだから許されているというわけではない。巨乳好きという設定なんてどうでもいいくらい、ストーリーの出来がいいのだ。むしろ、巨乳美女好きの王子様でなければ、白雪姫(ブランシュ)を強引に連れて帰ることもなかっただろうし、あくまで脇役のアマーリエに興味を抱くこともなく、残酷グリム童話の世界に入り込むことすらできなかっただろうから。あまりにも残酷で救いのない物語だからこそ、ちゃらんぽらんなキャラクターが必要なのだ。これがもし真面目すぎるだけのイケメン王子様なら、微塵も面白くなかっただろう。同作者の『ゴッドチャイルド』などにも見られる、後味の悪い話も多く、まさに「由貴香織里版グリム童話」といった感じだ。ルーイ王子はとても自己中な性格で、好き勝手に動くので、そのおかげで物語はどんどんとテンポよく進行していく。そして、ただの残念な王子様かと思いきや、実はかなりのキレ者。いわゆるギャップ萌えがあり、ルーイ王子は女性読者に問題なく受け入れられたようだ。
真実の愛があればこそ
花嫁候補の白雪姫が死んでしまったため、仕方なく花嫁探しの旅に出るルーイ王子。そこで出会ったいばら姫のイーディケとは喧嘩をしてしまうが、「喧嘩するほど仲がいい」を地で行く展開に。結局イーディケも死んでしまうが、ルーイ王子が本気で愛したのは、後にも先にもこのイーディケだけだった。このイーディケという姫は、見た目が大変美しいのだけれど、かなりの貧乳! ルーイ王子の好みとは真逆の体型だったわけだが、ルーイ王子は彼女の中身を見て、心の底から愛した。美しい外見や賢さは生まれつきのものではなく、それを維持するために本人が努力していたこと……イーディケが本当に欲しかった言葉を、ルーイ王子は与えた。イーディケ自身のことをすぐに見抜いてしまうあたり、やはりルーイ王子は相当カンのいい方なのだろう。それなら女性読者からも好かれるはずだ。また、ルーイ王子が惚れた相手が、巨乳美女であったなら、ルーイ王子の人気はダダ下がりだったはずである。この辺りの加減はさすが、ベテラン少女漫画家といったところか。
残酷なおとぎ話
グリム童話には残酷な表現が大変多いが、一切自重することなく少女漫画で描き切ってくれたところは感謝するしかない。鉄の処女での処刑、赤く焼けた鉄の靴で踊らせる、釘を打ち付けた樽の中に罪人を放り込んで町中を馬で引かせる等……。中世ドイツは拷問の種類がとても多いのだが、華麗な絵柄で血ブシャーの死体や目が潰されるシーン等を大ゴマで描いてくれたのは、本当に嬉しい。これを自重してしまうと、グリム童話感が薄まってしまう。また単純に、「へぇ、こんなお話があって、こんな処刑方法があったんだ!」と知識を得られて嬉しいというのもある。日本ではマイナーな話もいくつかあったので、いつも新鮮な気持ちで読むことができた。もしかしたら原作を単体で読むよりも数倍面白いかもしれない。原作童話のあらすじが付いていたが、マイナー作品の時は読み比べが出来てさらに楽しめた。ものによっては原作よりも残酷度が増していて、原作者の持ち味が全開になっていた。
美しく、腹黒く、醜く……
この物語は、王子と魔女は固定のキャラがいて、姫ポジションのキャラが毎回変わる。王子ポジションは当然ルーイ王子で、魔女ポジションはマゾ魔女の巨乳美女ドロテアである。姫というとだいたい性格が似そうなものだが、基本的に1話のみに登場のゲストキャラなのにみんな個性的だ。腹黒白雪姫は第一話に持ってくるには最高の個性付けだったし、アマーリエはあえて女性受けの悪いメンクイ美少女(胸はパッド)、二人のアルベルティーナの対比、カトラインはモブ顔で卑屈だけれど最後にはほっこり、と大変バラエティ豊か。姫ではないが脇役も面白いキャラがおり、笑えるネタも多かった。どうみても叶姉妹な義理の姉二人には笑うしかなかった。怖いストーリー展開と、脇役に仕込まれたちょっとしたネタのバランスが絶妙だ。
後半は独自展開
前半は、グリム童話の中でも比較的有名なものを題材としており、それをアレンジしたお話が続いていた。ところが、ルーイ王子が旅に出ている間、祖国の城では不穏な動きが。一応新キャラの由来はきちんとあるのだが、あまりにもマイナーな話かつ意味が分かりづらい原作だったため、少々スピードダウン。意地でもグリム童話からネタを持ってこようとした姿勢は評価したい。しかし、後半は前半の面白さは薄れ、ちょっと方向転換し、かなりオリジナル色の強い展開になってしまった。あのままダラダラと旅を続けていてもルーイ王子の花嫁を探し続けるだけになるので、方向転換はよかったと思うのだが、突然同性愛者キャラとのキスシーンがあって、アレっとなって……。ただ、作者の過去作品を色々と思い起こせば、当然の展開だったのかもしれない。
そして続編へ
一旦連載は終了したが、その後続編がスタート。しかしそちらはネットスラングの多用が目立った他、とうとう日本の昔話まで登場。さすがに評判が悪く、ネタ切れ感もすごかったため、1巻で今のところは終わっている。個人的には、『ルードヴィッヒ革命』(無印)のまま完結でよかったと思う。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)