古代エジプト人と現代人との恋愛の果てに決着はつくのか
気がついたら40年以上続いている物語
古くからの読者の大半は小学校低学年から読み始め、気が付いたら子供が中高生になろうという40代になっていた、という人も多いのではないだろうか。
王家の紋章は、こちら葛飾区亀有公園前派出所と同じクラスの長丁場で続いている少女漫画だ。ただ、こち亀に比べるとコミックスが出るスピードが遅く、こち亀の200巻プラス番外の999巻に対し、2018年4月現在で64巻までの刊行となっている。
話の構成としては事件が起きる→解決→事件が起きる→解決・・・という繰り返しパターンになっており、こち亀のような一話完結ではないが、ひたすら事件がループしていて、何かの目的に向かって物語が大きく変容していくという構成にはなっていない。
今の時代、古代エジプトに興味を持っているアメリカ人の少女を主人公にして新作を描いても若者には大して興味を持たれないように思うが、連載が開始した1976年では、タイプトリップして古代のファラオと恋をするというちょっぴり玉の輿要素もある物語展開は斬新だったと思う。
また、この作品を通じて、古代エジプトに興味を持った人も多いのではないだろうか。
メンフィスのモデルはツタンカーメン王か?
古代エジプトとざっくり言ってもかなりエジプトの歴史は古く、物語の舞台から言っておそらくツタンカーメン王が活躍していた頃の話ではなかろうかという印象である。
そもそも、主人公キャロルはメンフィスの墓を暴いたことが姉のアイシスの逆鱗に触れ、呪いというか祟りというかで古代エジプトに来てしまったのだが、そもそも姉のアイシスが弟大好き、しかも単なるブラコンではなく男性として弟が好きという点に驚く。
結果的にはアイシスは自分の短絡的な行動が裏目に出て、メンフィスがキャロルに興味を持ってしまったために、自分が失恋するという馬鹿げた結果になってしまう。しかし、古代エジプトでは姉弟で結婚することなど珍しい事ではなかったようで、ツタンカーメン王も、両親が兄妹の上に、妻が異母姉で、しかもその妻は実の父の子供を産んだことがあるという近親相姦が普通に行われていたようだ。
こういった史実が、アイシスという弟を溺愛するキャラクターのヒントにもなっているのだろう。ツタンカーメンの妻も、少し年上のお姉さんだったようだ。
最初は新鮮だったストーリー展開
メンフィスの時代には、アメリカとは交易など当然なかったわけで、ヨーロッパに大きな文明があったわけでもない。未来から来た白人で金髪の女性を見たら、髪が黄金で出来ているとか、未来で得た知識を話すキャロルを、知恵があるとか予言ができるとかびっくりして重宝がるのは当然で、そういう様子は見ていて面白い。
連載序盤は余り疑問に思わなかったが、今思うと、キャロルとアイシスが出会ったとたん言葉が通じてしまっている点や、キャロルが古代に行っても大して言葉に困った様子がないのは漫画だから、もしくはアイシスの呪いが万能でドラえもんの翻訳こんにゃく的呪術もかかったと思って納得するしかない。
美人で知性もある女性ともなれば、嫉妬や誘拐、妻にしたいと思う男性が現れるなどは想定でき、キャロルが誘拐されたり毒を盛られたりする事件は、最初はかわいそうながらもあり得そうなことで、非常にハラハラしながら読み進めることができた。
しかし、そういった誘拐、毒を盛られる、怪我、もろもろ・・がその後も無限ループしてしまい、40年経ってしまった今も、そういったループを楽しむオールドファンにはたまらない一方で、この事態を隔てた恋の決着というか落としどころはどうなるんだろうとも思う。
どんなに邪魔が入ったところでキャロルとメンフィスの愛情は変わらないだろう。しかし、一方でキャロルには現代に愛する家族や、もう忘れさられかかっているがジミーという婚約者もいた(もはや過去形)のだ。物語が終わってほしくない一方で、どこかで決着をつけないと、本来出会うはずがない未来人と古代の人間という設定自体が、生き生きしてこなくなるようにも感じる。
歴史が変わるかも
キャロルは元々、考古学の研究の一環でメンフィスの墓所を発掘していたのだが、キャロルや教授たちが発掘作業にあたった際は、メンフィスのミイラとアイシスのミイラの描写くらいしかなかった。
しかし、キャロルが古代に行ってしまった段階で、最初に登場したアイシスが本来経験した人生と、人生が変わってしまったのではないだろうか?そのあたり、アイシスは、私が送った人生はこんなものではなかったとかそういう言い方の悔恨はしていないが、アイシスは一巻で、姉弟二人で協力して国を治めていたということを述べており、キャロルを変に古代に送り込んだりしなければ、メンフィスはアイシスと結婚して国を治める人生を送っていたのではないだろうか?
本来あるべき過去が変わってしまったはずなのに、タイムパラドックスが起きてしまったことに対しアイシスの言動がないのは少々気になるところではあるが、そこは読者も忘れているところだろう。
しかし、キャロルがどうなるかによっては、発見されるメンフィスのミイラの死亡年齢、キャロルが来たせいでバビロニアに嫁いだアイシスの扱い、そして、ひょっとしたら発見されるはずがない、欧米人のミイラがピラミッドから出てくるという可能性も秘めている。
そのあたり、著者がどうこの作品に今後決着をつけていくのか注目したい。
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