深く考えずに楽しむ古代ロマン - 王家の紋章の感想

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王家の紋章

3.433.43
画力
4.17
ストーリー
3.33
キャラクター
3.50
設定
3.83
演出
3.50
感想数
3
読んだ人
6

深く考えずに楽しむ古代ロマン

3.53.5
画力
5.0
ストーリー
3.5
キャラクター
4.0
設定
3.5
演出
3.5

目次

30年以上書き続けられている名作

この本を初めて読んだのは小学校のころだから、30年以上にもなる。月刊誌の初回発行が1977年だから、ちょっとずれながらもリアルタイムで話を追ってきたことになる。
初めて読んだのが小学生だから、きらきらした絵とロマンティックな話の展開に、うっとりしながら読んでいたのを覚えている。その後ちょっと間があいた高校生のとき、皆でまわし読みしていた漫画のひとつがこれだった。懐かしく思って読み直した時は、確かキャロルとメンフィスの結婚の儀からの話だった。やはりメンフィスのキャロルに対する炎のような愛情は、多少強引なところはありこそすれ憧れてしまうところだろう。
読み始めた当初はまだ小学生ということもあり、タイムスリップしたことによる辻褄のあわなさなど気にも留めていなかったが、悲しいかな大人になるとそういうところが気になりだしたりする(だからこそ今読み直しても面白いのかもだけど)。

ちょっと気になる「現代によみがえったアイシス」

もともとキャロルが古代エジプトに連れ去られたのは、現代エジプトで彼女の父親が事業の一環としてメンフィスの墓を暴いたところから始まる。その墓に同じようにミイラとして埋葬されていたアイシスが現代によみがえり、メンフィスのミイラを持ち帰ったキャロルの父親を呪いと称してコブラで殺害後、無理やりキャロルを古代エジプトに拉致してしまう。のだけれど…。一度死んで埋葬したからには、メンフィスとともに生きた時期があったはず。それはキャロルなしの二人の人生だったはず。なのによみがえって古代に戻ってまた、メンフィスと結婚できると浮かれてみたり、いつまでも「我が愛する弟よ…」と涙するのもどういうことかと思ったりもする。だって一度は二人で仲睦まじく生きたんだろうから。というような無粋な突っ込みはおいといて。
ついでにいうと、キャロルは古代エジプトに行ったり、現代にも戻ってきたり、行ったりきたりする。そして現代に帰ってきた時は古代エジプトにいたことを完全に忘れて記憶喪失状態になっている。でも古代エジプトでは現代21世紀の記憶もあれば、考古学の詳しい知識から鉄を強くする方法(!)までしっかり覚えているのはなぜか、ということも無粋な突っ込みとしておいておこう。

キャロルは完璧

主人公であるキャロルは前述のように、アイシスに呪いと称して古代エジプトに連れ去られるが、そこで出会ったエジプト王メンフィスと強く愛し合うようになる。またエジプト人にはない肌の白さ、黄金の髪と青い瞳。そしてその生まれの神秘(いつもいきなりナイル川から浮かんでくるため、ナイルの娘とも呼ばれると)から、メンフィス王だけでなく、民からも深く愛される。しかも現代っ子であるがゆえに、王家のものが生まれながらに持つような気位の高さとか冷たさというものとは無縁であり、そのため召使いとさえも対等に話そうとする。メンフィスが墓暴きを処刑したときに言い争った原因が、この「人は皆同じなのよ」という言葉につきる。そういったことが重なり、周囲は尚一層キャロルへの愛と忠誠を深めていく一因ともなっている。
キャロルは現代では考古学を愛する学生だった。その造詣の深さは考古学の恩師ブラウン博士の折り紙つきである。その知識がそのまま古代で生かされるのだから、近隣諸国の王などからもその身を狙われる。その国に行かずして情勢を語ったり、その未来を語るのだから狙われない訳がない。なのに考古学専攻なだけあって古代にいると好奇心が勝ち、つい我を忘れて出歩いてしまう。この辺の軽率さかげんは枚挙にいとまがないくらい。だからさらわれて、メンフィスが連れ戻しに行って、またさらわれて、今度は現代に行って…の繰り返しのストーリーとなる。
でもこの軽率さというか、王妃らしくない親しみやすいところとかもまたかわいらしく、それもひっくるめてキャロルは完璧なのだと思う。あと、現代に帰ってきたキャロルの服装にものすごい違和感を感じる。ファッションセンスとかそういったものでなく、なんかもう全然似合わない。やはり彼女はエジプト衣装が良く似合う。このエジプトの服装はいつもとても細かく書き込んであって素晴らしい。コスプレに興味があるわけでないけど、もしするならこんな格好がしてみたいなとも思う。

キャロルは実はかなり強物?

キャロルが古代に迷い込んできて、漫画の世界は多分1年かそこらくらいしか経過していないと思われる(ナイルの氾濫に目を輝かせていたし。キャロルがナイルの氾濫を目にするのはそれが恐らく2回目。1回目は迷い込んですぐだったからそんな余裕なかったのだろう。)。16才で迷い込んできてそこから多分1年多くみても1年半しか経過してない間に、イズミル王子に刺されたり、メンフィスに腕を折られたり、ライオンに襲われたり、トリカブトを飲んで死にそうになったり、アイシスに流産させられたりと、羅列しただけでかなりの傷を受けてきているのだけど、全部きれいさっぱり治ってしまっている。一度気になって時系列に出来事を並べてみたのだけど、そういう結果になった。これはちょっと無理があるだろうと思いきや、きっとこういうことを調べるのも無粋なんだろう。
この事も子供のころに読んで気づかなかったことで、大人になって気づいたことのひとつである。

アイシスの執念深さはもはや芸術

かたや、もともとはメンフィスと異母兄弟で夫婦となるべく育ってきたアイシスは、みずから古代に連れてきたキャロルによって最愛のメンフィスを奪われ、その身の置き所がなくなってしまう。幼いころからメンフィスを愛し、妻になるつもりできたのだから、その憎悪はとどまるところを知らない。キャロルを殺す約束と引き換えに、愛してもいないバビロニアの王に嫁いだり(余談だけれど、このバビロニアの描写にでてくるバベルの塔。完成させるのはネブカドネザル王だとキャロルは未来を言ってラガシュ王を驚愕させていたが、このネブカドネザルという名前は、映画「マトリックス」でネオとモーフィアスが乗っていた船の名前でもあったし、「エヴァンゲリオン」にもちょっと出ていた。調べてみるのも面白いかもしれない。)、キャロルが妊娠しているのを知って激怒し、黒豹みたいなのをけしかけて死海に落としてみたり、ワニに襲わせてみたり、すごい執念。でも嫉妬で怒りくるっている彼女の憎悪が尚また彼女を美しく見せているような気がする。
アイシスの哀しみは美しさとリンクして、だんだん壮絶な様を帯びてきている。キャロルの天真爛漫で単純で、言ってみれば深みのない性格に比べると、アイシスのそれは例えようもない深さをたたえている。前述したように、一度ミイラになったからにはメンフィスと睦まじく一生を全うした人生もあったんだとは思うけど、またこれは別の人生と考えるべきなのか。ややもするとパターン化しがちな「王家の紋章」ストーリーの中で彼女は絶妙なスパイスだと思う。

未完の大作となるのか

かれこれ30年以上も細川智栄子先生(余談ですが、漫画の背表紙では名前が知栄子だったり智恵子だったりする)が書き続けられているこの作品、いったい何歳になられるのかと調べたことがあるのだけど、なんと1935年生まれ、御年82才!2016年に最新巻が出ていたけど、その年であの込みいった絵を描いたのか…と思うと脱帽。もしかしたらキャロルとメンフィスの和子を見ることは叶わないかもしれないが、できるだけ体力の続く限り描き続けて欲しいと思う。

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