お医者さんって大変なんですね - 白い巨塔の感想

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白い巨塔

4.004.00
文章力
4.50
ストーリー
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キャラクター
4.00
設定
4.00
演出
4.00
感想数
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お医者さんって大変なんですね

4.04.0
文章力
4.5
ストーリー
4.5
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
4.0

目次

医学界の闇って今でも変わらないのか

もう何十年も前から何度も何度も読み返して、私の『白い巨塔』は崩落し、ボロボロになってしまった。この名作を手元に置かずにどうする!と、買い直しのために本屋に向かったら昔は続巻だったのに、今では1巻2巻なんだね。映像化すると、帯や表紙が変わったりするもんね。

そう、2003年に唐沢寿明主演でドラマ化された『白い巨塔』は現代ヴァージョンにリメイクされている。原作の『白い巨塔』はもっと古めかしく、もちろん、携帯電話もパソコンもない。伏魔殿のような大学病院の光と闇を描いているけれど、それは今でも変わらないのか。

実は私は、大学病院と少なからず関係のある仕事をしていた。若い時にね。それはちょっと『白い巨塔』の裏側を覗いてみたいと思ったのかもしれない。だけど、平成の世の大学病院に「財前五郎」はいなかったわ。私の知り合いの教授はみんな気のいいお爺ちゃんだった。「今日は君に会えると思って若作りしてジーパンをはいてきたよ」なんていう気さくな先生ばかりだった。あんなふうに札束ばらまいて、教授選を戦ってきたとはとても思えない。だいたい、現在では国立大学の教授になるためにあんなあざといことしたら週刊〇春みたいなのに見つかって、やばいことになるんじゃないのか。

ま、山崎豊子先生は綿密な取材をすることで有名だから、当時は少なくともそういった雰囲気があったんでしょう。フィクションの世界の話なので、これは置いておきましょうか。医者の良心を信じたいのは世の中の常だけど、そんな人ばっかりじゃないから虚構の世界は面白いのだよね。

里見先生は本当にいいひとなのか

私はこの小説を何度も読み返しているうちに、里見先生に対する見方が少しずつ変化してきている。財前五郎イコール私欲と名誉を求める狡猾な医者というイメージに対して、里見先生は真摯に患者を第一に考える正義感の強い医者と読者は思うだろう。でも、いったん立ち止まって良く考えてほしい。

奈良の僻地の集団検診で出会った山田うめさんの一件である。うめさんは高齢で大阪の病院まで通うのは大変だし、いつ死んでもいいと里見先生に訴える。先生は少しでも長生きするために、必要な検査は全てする、費用云々は特別に病院がみてあげると悟し、納得させて国の医療制度の在り方を嘆く。(今ではいろいろと改正されているようだ)。 そして、うめさんの治療に自腹を切ってあげようと決意するのだ。

それって、医者としてどうなのかな?特別な一人を救うために義憤に燃えて自腹を切るって…。私は逆に医者としてあるまじき行為だと思うんだよね。お医者さんは全ての患者の前で平等であってほしいと思うし、冷静でいてほしいと思ったな。この一件から、何だか里見先生、めんどくさーいと感じてきちゃった。

正義を貫くと融通が利かないはイコールなのかしら。奥さんの気持ちも少しは考えてあげてほしい。奥さんは父親から夫が教授になるための手助けをしろといわれてお嫁にきたのに、五郎ちゃんのおかげで、とばっちりを食ってかわいそうだこと。医学界の将来を憂うならば、教授になって変えていくっていうのも一つの方法だったかもしれないよね。

五郎ちゃんが学術会員選に出馬した時も、取り下げろと言うんじゃなくて、「顔色が悪いから健診でもうけてみたら」ってすすめればいいのにさ。全く空気の読めないオトコだわ。堅物すぎてつまらない。

野心の先にあるもの

さて、主人公の財前五郎は何のためにそんなに偉くなりたかったのだろうか。幼い時の貧乏がそういう気持ちにさせたのか。親孝行したかったのか。この時代に医者という職業を選ぶということは、それなりの使命感があったに違いない。

人間の欲望って際限がないのかな。もうここで満足と思っても、もう少し上に手が届きそうだったら伸ばしてみたい、掴んでみよう…と思ってしまったのかもしれない。ある意味では、なまじっかメスの切れがいいだけに医学界に踊らされたスターとしての生き方を強いられてしまった。

裁判は相手が悪かった。時期も悪かった。身から出た錆なんだけれど。私はこの本を読みすぎて、胃の上の方が痛かったら噴門がんかしらと思ってしまう。医療裁判って本当に当時は医者が優位だったらしいけれども、日本もアメリカ並みの訴訟社会になったら、医者もバンバン訴えられるんじゃないか。それも、何だかなあ…。裁判の部分はちょっと難解だったけど、良心を持ち出されるとそんなに暇でもないからねって反論したくなってしまった。

まあ、ようするに、私は里見先生よりは五郎ちゃん派なのである。オトコたるもの野心家でもいいじゃないか。しかし、野心の先に本当に五郎ちゃんが探しているものがあったのか。いや、何よりもその先には何があるのか。それは人間がなぜに生きていくかの答えのようなもので、誰にもわからないのかもしれないし、それを知った人は抜け殻になってしまうかもしれない。おお、怖い。

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