思いがけない結末が楽しめる良質のサスペンス - サイド・エフェクトの感想

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思いがけない結末が楽しめる良質のサスペンス

3.03.0
映像
2.0
脚本
2.5
キャスト
3.0
音楽
4.0
演出
3.0

目次

余計な音楽がないということの良さ

この話は、インサイダー取引で逮捕された夫が釈放されるところから始まる。夫の服役中も頻繁に面会に行っていた愛らしい妻であるエミリーが実は重度のうつ病で、たびたび自殺未遂を起こすと分かるのはその後だ。それまでは、刑務所の夫に会う時も釈放された時も、いかにも夫を案じ愛しているように見えたので、そのいきなりの自殺未遂はまるで夫が帰ってきたせいかのように見えた。
また夫がエミリーを伴ってパーティに出かけようとした時も、心配する夫を制し自ら強く出席すると伝える。華やかに装った彼女はとてもきれいだったけれど、やはりうつ症状が抑えられず、夫に支えられながらその場を退出する様子はとても痛ましかった。
またそのパーティでエミリーがウォッカソーダを頼もうとした時、バーテンの背後のよく磨かれた壁に自分の顔がゆがんで見える。この顔こそ彼女の心象風景なのかもしれないと感じた。この時までは、彼女がうつ病であることを毛ほども疑ってなかったから余計だ。
これは観客をうまくだましてくれるいい演出だと思う。
この映画の良いところは余計な音楽がまるでと言ってもいいほどないところだ。それは、音楽がないとこんなにストーリーに入れるのかと実感できるくらいだった。そもそもこの映画は、全体的にそれほど食い入るように観るようなストーリーではない。にもかかわらず最後まで目を話せなかったのは、余計な音楽がないということが大きいと思う。

ルーニー・マーラの演技力

この映画の肝はなんといっても精神病患者を装い続けたエミリーを演じた、ルーニー・マーラの演技力の素晴らしさだと思う。彼女は「ドラゴン・タトゥーの女」で知ったけれど、あの映画自体個人的にそれほど好きではなかったので、大した印象はなかった。この映画ほど強烈なキャラクターではないように思ったのだ。
この映画では、最初から最後まで彼女の演技に引き込まれる。エミリーの担当医であるバンクスが妻と談笑している前にいきなり立ち、「5分でいいから時間をくれ」と頼んだ時の必死の表情。極端な動きのうなずき方。全てが病的で、あれを見て誰が彼女が病気を装っていると思うだろうか。あの表情は、本来患者にはポーカーフェイスを持って接しなければならない医者を慌てさせるに十分だと感じた。
また副作用の夢遊病のせいで歩き回り、そのまま夫を刺し殺した時の表情はほとんどホラーだ。眠ったまま音楽をつけ食事の用意をしていたところも鳥肌が立ったけれど、やはり一番は夫を刺し殺した時だと思う。
ただ野菜を切るようなあんな小さなナイフで、あんな大柄の夫があっさり死ぬだろうかとちょっと違和感は感じた。

ジュード・ロウのリアリティあふれる演技

エミリーの担当医バンクスをジュード・ロウが演じている。自分が処方した薬の副作用でエミリーは眠っているうちに動き回り夫を刺したとされ、バンクス自身も罪を問われる。もちろんエミリーは心神喪失が認められ無罪にはなったが、彼の経歴は台無しだ。家族も仕事も失いそうになりながらもあきらめずに、自ら調査を続けていく。その時、バンクスは決して嘆き悲しんだり荒れたりもせず、ただ必死でいろいろなことを整理し調べていた。それはまるで何もしなかったら何もかもが手からこぼれていってしまう焦りからのような、そんな悲壮感を感じた。そんなバンクスをジュード・ロウがとてもうまく演じている。
ジュード・ロウと言えば個人的に一番印象に残っている映画は「ガタカ」だ。ニヒルな下半身不随のエリートがうまくはまっていた。最後すべてをイーサン・ホーク演じるビンセントにすべてを託し、自ら死を選ぶところは彼の揺ぎ無いプライドを感じさせて、重い終わり方だ。
今回のこの役どころも、おそらくジュード・ロウにしかできないくらい完成度が高いと思う。バンクスが時折見せるシニカルな笑みは、まさにジュード・ロウにぴったりだし、何もかも失うかもしれないという焦りを怒りに変えるような表情も、彼らしいと感じた。

思いがけない展開だった女性同士の愛情

結局これさえもエミリーは利用していたのだけど、利用された以前の担当医シーバート博士を演じているのはキャサリン・ゼタ・ジョーンズだ。偶然前に見た「ブロークン・シティ」にも市長の妻として登場していて立て続けに彼女を見たわけだが、やはりこの人は美人だと思う。なんとなく和な印象を受けるしっとり美人だなと、見入ってしまった。俳優なのだから本来演技で評価しなければならないけど、それでもやはりこの人は美しい。
そんな彼女が女性同士のラブシーンを演じている。それが美しすぎてもはや芸術の域ではないかと思うほどだった。そのためその場面は逆にセクシーさが感じられなかったのは、気の毒なことかもしれない。
バンクスと出会い、彼に挑発的なことを言われた彼女は、バンクスの後を追いかけて彼の頭を持っていたカバンで一撃する。それはかなり重さがあるように見えるカバンで、あのリアクションはジュード・ロウのアドリブではないかと思うほどだった。今までずっと冷静だったシーバート博士が見せたその激しい感情は、とても印象に残っている。
最後、エミリーが持っていた盗聴器のために逮捕されたシーバート博士だったけれど、最後まで信じられないと言う表情だった。怒りでなく、哀しみが強調されたその表情に、彼女のエミリーへの愛が感じられ、すこし切なくなってしまった場面だ。
ストーリーには関係ないけど、シーバート博士は「10日間で男を上手にフル方法」でミシェルがニセ精神科医に扮した時によく似ている。シーバート博士を観た時はこれをミシェルが真似していたのかと思ったけど、上映はかなり「10日間~」の方が先なのが意外だった。

非協力的過ぎる妻

こういう映画にはなぜか非協力的な妻がつきものだ。無罪を勝ち取ろうとか、仕事に必死な刑事とか、そんな夫に妻はいつも家族をもっと見ろとか、現実を見ろと言い、いともあっさり別れを宣告する。
バンクスの妻も例に漏れず、かなり非協力的だ。彼の無実を信じるというよりは、収入が絶たれてしまうこと、精神科医という職を継続できなくなってしまうことばかりを気にしている。そして最終的に、誰も助けてくれないから自ら必死で調査するバンクスに別れを伝える。それはあまりに一方的で、愛情を感じないものだった。
職を失った自分の代わりに、血のつながらない息子の面倒を見て私学にまで入れている夫に、その態度はないだろうと憤りを感じてしまったところだ。
また、息子を学校に迎えに行くことを忘れたバンクスに妻が激しく詰め寄る場面があるけど、その時妻はなにをしていたのか、無職なのだから妻が行けばいいだろうにと、妙にバンクスに肩入れしてしまったのは言うまでもない。
この妻を演じているのはヴィネッサ・ショウ。「アイズ・ワイズ・シャット」や「3時10分、決断の時」で見た彼女だったけど、もともと知的美人系だ。その少し冷たい感じのする美しさが余計に彼女の行動に愛を感じさせなかったのかもしれない。もしこれが意図的なキャスティングならすごいなとは思う。
ラスト、全てを取り戻したバンクスは幸せそうに妻と息子と一緒に車で帰るシーンがあるけど、一回あんなこと言われた妻とまた幸せになれるのか、そこは疑問に思った。

副作用で制した魔性の女

結局バンクスの機転でエイミーはうつ病を装っているだけとばれる。全ては金儲けのために演技していたのだ。
ありもしない副作用を演じ人を殺した女性は、精神病棟に入れられ、皮肉にも薬による副作用で本当の病人のようになり、ラストを迎える。
意外にも勧善懲悪のストーリーではあったけど、抗うつ病薬に副作用があるというのは本当なんだと、少し後味の悪い作品だった。
ただ、エイミーが副作用で人を殺したとした抗うつ病薬の製薬会社が一度も出てこなかったのは少し違和感を感じた。でももしかして人が一人死んだくらいで大きな製薬会社は動かないのかもしれない。テレビのインタビューで一言コメント残すくらいが妥当なのだろう。
この映画はカメラワークも実直で、ソダーバーグ監督らしく無駄な動きがない。ストーリーとしてはそこそこの出来でも、余計な音楽がないこととカメラワークのシンプルさで最後まで目を離せない映画となっている。
ストーリーとは関係なく、そういうことも映画の大事な要因なんだなと感じさせてくれた映画だった。

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