作品がヒットした理由は何なのか?
青年誌の主人公とは思えない、主人公 柔の可憐さが読者の心を掴んでいる
連載されていたのは青年誌「ビッグコミックスピリッツ」でありながら、主人公は女子高校生。そして柔道の英才教育を受けてきた柔はとんでもなく強いのだが、柔は外見、性格どちらもいたって普通の女子高校生だ。
連載当初は、学校でアイドル的人気の男子生徒が好きというなかなかのミーハー。家の鏡で洋服を合わせたり、年上の風祭に恋をしている姿や、口うるさいおじいちゃんに反抗する姿など、本当に普通の女の子である。
そんな柔が、似つかわしくない柔道着を着れば、可愛いとしか言いようがない存在となる。
青年誌の読者はおそらく20代以降の男性が多いと思うのだが、その読者からすると、柔は可愛い以外の何者でもないだろう。青年誌の主人公には到底思えないこの柔の可憐さが、根底にある作品の人気の要因だと思われる。
作中で柔は、進学して女子大生になる。高校生の頃は割と怒りっぽかったり、おてんばなところがあったが、女子大生になると少し色気も出てきて、大学の女子柔道部ではキャピキャピとして楽しく過ごしている。
服装もタイトなミニスカートを履いたり、高校生のときよりもグッと大人っぽくなった柔は、男性読者の心を掴んで離さない存在になったはずだ。
その後、柔は就職して旅行代理店のOLに。書類作成や営業回りなど、これまた普通にOLとして働く柔を見て、こんな娘が会社にいればな….と読者は思わずにいられなかっただろう。
高校生の頃に比べると、ずいぶんとおしとやかな大人の女性になり、松田にご飯を作る姿なんかは、こんな嫁が欲しい、とどれだけの男性が思っただろうか。
作中では高校生から社会人までと、長く柔の成長が描かれており、読者によって好みの時期もそれぞれあるだろう。普通で可愛い女の子の部分が見事に描かれている事が、この作品のヒットの要因の一つである事は間違いないはずだ。
柔の一本背負いが、また見たくなる!
この作品は柔道を題材にしているので、スポーツ漫画とは言えるが、スポ根漫画では無い。
なぜなら主人公である柔は、周りから見れば地獄の様な柔道の稽古も、子供の頃からの習慣の為、必死にやらずともこなしてしまうからだ。そして強すぎる柔は対戦して負けた事が無い為、柔道において挫折した事もない。
連載当時、こんな展開のスポーツ漫画はかなり珍しかったと思う。当たり前の様に勝ち続けると、どうせ勝つから面白くない、などと言われてもおかしくない。しかし柔の勝つ姿は、作中の観客同様に読者を引き込み、その格好良さは誰もが憧れるはずだ。
その理由のひとつは作画の素晴らしさだろう。柔の十八番である一本背負いは、目にも留まらぬ速さが特徴であるが、柔が相手を投げる画は、一瞬の隙を突いて投げる俊敏さが物凄く伝わってくるのだ。相手は気がついたら投げられている、という驚いた表情で、柔は身体が勝手に動いている、といった感じだ。これは写真や映像には出せない躍動感だと思う。
この柔の一本背負いの画は、読んでいるこちらも清々しい気持ちになり、また柔が投げているところが見たい!という気持ちにさせてくれる。柔が相手を投げる爽快感がクセになる漫画とも言えるだろう。
華麗な技の画で読者を魅了し続けた事が、ヒットの要因の一つであると私は思う。
クセが強めの登場人物達が 物語を盛り上げている
主人公の柔は普通の女の子らしい性格なので、放っておけばとても平凡な物語が出来そうであるが、柔の周りのクセが強い人物達が、柔を巻き込みドラマチックな物語を作りあげていると思う。
まず、この作品の最重要人物と言えるのが、柔のおじいちゃんである猪熊滋悟郎だろう。漫画ならではのキャラクターの様に思えるが、実際のオリンピック選手の父親は、似たような人も多い。
柔に柔道を教え、オリンピックで金メダルを取らせて国民栄誉賞を受賞するように命じている。これはいわば滋悟郎の理想であり、柔の為を思って、という訳ではないだろう。性格は他者の意見は全く聞き入れない頑固じじい。柔の意思は完全に無視し、進路も勝手に決めようとする。作品の最初から最後まで、柔に怒鳴っている。
ぶっ飛んで口うるさいおじいちゃんだが、この自己中心的すぎる滋悟郎のおかげで、柔はスターになり、素晴らしい物語となったのだろう。
そしてもうひとり、この作品を盛り上げたのは本阿弥さやかだろう。彼女はこの作品において、最も現実には存在しなさそうなキャラクターだ。
登場当初は、金持ちお嬢様が柔道を始めるも、柔には全く歯が立たず、ライバルには到底なれないと思われたが、地道に修行を重ね、最終的には柔との名勝負を繰り広げた。派手さを捨て、寝技を磨きあげた執念は凄まじいものであった。柔との最後の試合での彼女は、柔と同じくらい格好良く、この試合でファンになった読者も多いだろう。
わがままなお嬢様ではあるが、芯の強い努力家である。彼女の頑張りがこの作品を盛り上げたのは間違いないだろう。
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