ピクニックというよりはマラソン
「夜のピクニック」を視聴した感想です。
この作品は、「歩行祭」という、1日を通して歩き続けるという学校の年中行事の中で、登場人物達の揺れ動く気持ちに焦点を当てた青春映画です。
ドロドロしたシーンや眉をひそめたくなるようなシーンは一切無く、思春期の高校生達のきれいな一面を切り取ったかのような印象を持ちました。
スポーツの行事の話ですが、全体的に叙情的で、詩的な雰囲気があったと思います。
また、高校生達のさわやかさや、かわいらしい雰囲気もありました。
岩井俊二監督の「花とアリス」に雰囲気的には似ていると思います。
花とアリスほど、女の子達の世界で完結はしていませんが、全体に流れるかわいらしい雰囲気は、近いものがあると思いました。
ただ、花とアリスと大きく違うのは、女の子の描き方ですよね。
花とアリスでは、オフショットのような映像で、「普段のありのままの姿」というような体で、女の子同士の雑談を撮っているのが印象的でした。
こう、内輪の世界というか、わちゃわちゃっとした感じですよね。
それが、夜のピクニックでは無かったのが良かったと思います。
正直、花とアリスだけではなく、思春期の女の子にフォーカスした作品は、そうした「ありのままの姿」を撮りました、みたいなシーンが結構あると思うんです。
しかし、女性の私は見ていて、何となく違和感を覚えてしまいます。
「女の子って、こんな感じだよね」とあたかも、分かっていますというような製作側のしたり顔を見るようで…。冷めた気持ちになってしまいます。
あまりそういったシーンに、「わたしも同年代の頃、こうだったな」と共感したことがありません。
ですので、そうした演出がなかったのは良かったですし、逆に高校生達にリアリティーがあったと思います。
この作品の監督は男性ですが、女の子を描くことがうまいと思いました。
主人公のタカコを始め、タカコの友人たちも本当にいそうな子に見え、自然でした。
変に女友達同士のイチャイチャを描くよりも、「こういう子たちはいるよね」と思えました。
高校時代を思い出すような、普通の日常を切り取ったかのような作品
また、キャラクターの表情の切り取り方も良かったと思います。
女子高生の大人と子供の狭間にある、清潔さや憂いが表れていました。
主人公のタカコを演じた多部未華子さんは、アイドルのような派手な容姿ではありませんが、不思議と視線がいってしまうような、存在感があったと思います。
清潔感があり、ふとした瞬間の表情が美しかったです。
まさに若さの中にある、凛とした美しさだと思いました。
それは、特別なものではなく、その年代に誰もが持っていた美しさだと思いますし、変に演出をつけるよりも、そこにフォーカスしたのは、良かったと思います。
自分の高校時代を思い出すような、「普通の日常の良さ」がありました。
多部未華子さんの不思議な魅力は、この作品の雰囲気にピッタリだったと思いました。
また、タカコの友人役の貫地谷しほりさんも、口達者な役どころでありながら、マンガのキャラクターのようにならず、自然な演技で本当の高校生に見えました。
セリフ回しが自然で、嫌味が無かったと思います。
貫地谷さんは関西の方だと思うのですが、標準語のイントネーションが完璧ですよね。うまいと思います。
貫地谷さんはムードメーカー的な存在で、わりと起伏のないストーリーの中で、面白さが際立っていたと思います。
どうにもアニメーションが入ってくる演出には、違和感を覚える
ただ、演出面では、個性的というか、観客がみんなノリに着いてこられるのか?と疑問に思うようなシーンもありました。
例えば冒頭でのアニメーションのシーンは、恐らく評価の分かれる所だと思います。
何の前触れもなく、いきなり劇場、アニメーションのシーンになってしまう。
タカコの想像したキャラクターが、タカコの心の内を暴こうとする…。
作品の雰囲気的にはアリな演出なのかもしれませんが、個人的には「何だこれ?」という違和感がありました。
わざわざアニメーションにする必要があるんですかね?
普通の映画を期待していた観客からすれば、困惑してしまうのではないでしょうか。
また、歩行祭という「ただ歩くだけ」のイベントを取り上げているので、全体的に起伏が無く、地味な印象もありました。
もちろんそうならないように、BGMを変えたり、ストーリーに人物描写を挟み込んだりする工夫は見えました。
しかしメインテーマが、「タカコとクラスメイトの西本が、実は異母兄弟の関係だった」という事実に悩むところであり、その繊細な心理の機微を描こうとしているので、それ自体も動きがあまりないわけです。
特に作中で派手な事件が起こるでもなく、観客はただ淡々と歩く彼らを見守ることになります。
ですので、この作品を、「落ち着いて見られる叙情的な作品」とるか、「地味で単調な作品」ととるかは、観客次第なのではないか、と感じてしまいました。
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