感情が真実になる。
『好きだ、』
『好きだ、』という題名、特に読点がついているという言葉のニュアンスに惹かれた。最後のシーンでユウ(永作博美さん)が、「好きだ、」というセリフを言っているのだが、私の予想してる感じと違っていた。私が予想していたのは、お腹で支えられた声なおかつ明るいイメージだったが、ユウ(永作博美さん)は、考える間も無く口から言葉が出てしまったような言い方だった。だからといって、悪かったとは感じななかった。どうしてこういう言い方なのかが気になった。作り手が何を思ってこういう言い方にしたのかを聞きたい。
この作品の紹介で、お互いに好きだけれど思いを伝えられない2人、という文章が書かれていた。物語の初めの方は高校生のユウとヨースケの時間が描かれている。ユウには姉がいて、私が思うにヨースケが好きなのは、ユウの姉としか思えない。だから、ユウの姉に次第にイライラしてきた。ヨースケがギターで弾いていたフレーズを、ユウの姉が口ずさむシーンは特にイライラする。みなさんは、どう感じましたか?
また、ユウとヨースケがお互いに好きであることは、伝わってこなかった。ユウがヨースケを好きだということしか伝わってこなかった。
しかし、最後までこの作品を観た後に、もう一度、高校生の時の2人の場面を観ると、2人のやりとりが胸に沁みる。
ヨースケは、口数が少ない。しかし、ユウに、ユウの姉のことを聞く時は、話しかけてくる。初めて2人のこのシーンを見たときは、なんでユウの姉の話をするんだろう?ヨースケは、ユウの姉のことが好きなんだと解釈した。
そして、この作品が終わった後にもう一度、巻き戻して、高校生の時の2人の場面を見る時には、「ヨースケはユウのことが好き」、という前提で観た。そうしたら、2人のやりとり、ユウの姉の話をしている時も、ヨースケはユウのことが好きなんだな、ユウとヨースケはお互いが好きなんだなと感じた。
この人は、きっとこの人のことが好きなんだなって分かりやすい人がいるけれど、ヨースケは分かりずらい人。それをふまえて、高校生の時のシーンを観るのがお気に入りである。
ユウがヨースケにキスをするシーン
このシーンが、一番好きである。初めて、好きな人とキスをする。
なぜかこのシーンで、涙がでできた。自分でも分からないけれど、好きな人と初めてキスをした時のことを思い出した。個人的な経験と感情だから、みんなが初めてのキスの時どういう気持ちだったかは分からない。ユウとヨースケの気持ちも分からない。
だけど、ユウがヨースケにキスをした瞬間、それが自分の経験と感情にリンクした。共有点のものがあった。
ユウとヨースケ
大人になってからのユウ(永作博美さん)を見ていると高校時代のユウも重なって見える。
ユウは変わらないように見えた。だけど、高校時代のユウに重ならない部分もあった。
大人のユウの中に、高校時代のままのユウと、その後で変わったユウがいて、それがすごくいい。
また、大人になってからのヨースケ(西島俊之さん)も、大人のヨースケの中に、高校時代のままのヨースケと、その後で変わったヨースケがいた。
1人の人物を高校時代と、大人になってからを別の人が演じているのに、重なって見えるのがすごいなあと思う。演技もそうだと思うが、演出も、そんなふうに感じさせる演出をどのようにしたのかが気になる。
作者のメッセージはなんだろう?
「好きという気持ちは、何が起こるか分からないんだから言った方がいい」というようなメッセージは感じられなかった。そんな押し付けがましいメッセージは嫌だ。
高校時代に、もし、ユウがヨースケに、好きだということを伝えていたら、どうなっていたんだろうと考えた。ヨースケは、自分も好きだと伝えるのかなあ。
好きな人に好きだということを言葉にして伝える。好きっていう気持ちは、相手に、言葉にして伝えた時に、やっと真実になると思う。
ヨースケは、きっと自分がユウを好きだということに確信を持っていなかった。だから、ユウとキスをした時に逃げてしまった。
大人になって、お互いに言葉にして伝えて、好きという気持ちが真実になった。
高校生の時に、友達との会話で「好きなのか分かんないんだよね」という話になった。感情はいつも曖昧で、自分も分からないし、モヤモヤする。その感情が「好き」というはっきりした感情だと分かるのようになるのはどうしてだろう。友達は、しばらくしてから、「やっぱり好きじゃなかったみたい」と言った。どうして好きではないということが分かったのかなあ。
この作品は、2人のやりとりを大切に観るのがいい。物語のシチュエーションや展開よりも、2人の表情を見ていると飽きない。初めて、この作品を観た時は、全然意味が分からないと思った。だけど、意味よりも、感じることに焦点をおく。頭で、シチュエーションと展開を理解しようとするよりも、感じながら見るのがいい。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)