万華鏡を覗いたように華麗なイメージの散乱が生と死、現実と幻想のめくるめく謎の渦をなしている「陽炎座」 - 陽炎座の感想

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陽炎座

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映像
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脚本
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キャスト
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音楽
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演出
4.00
感想数
1
観た人
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万華鏡を覗いたように華麗なイメージの散乱が生と死、現実と幻想のめくるめく謎の渦をなしている「陽炎座」

4.04.0
映像
4.0
脚本
4.0
キャスト
4.0
音楽
3.5
演出
4.0

鈴木清順監督の「陽炎座」の登場人物は、松田優作の主人公以外、ほとんど正体が定かではない。この主人公の青年文士は、美しい人妻とたびたび偶然に出会って魅かれ、三度目には肌を交えるが、彼女の心をつかめない。

彼女の誘いの手紙で東京から金沢まで出かけても、彼女は姿を見せず、やっと会ってみると、手紙など書かないと言うのだった。彼女は主人公の前で、スケッチブックに〇△▢と書き連ねるかと思えば、爛漫たる桜の大樹のてっぺんに立っていたりするのだった。

その間、彼女の夫が随所に現われ、二人のことをなにもかも知るかのようでありつつ、本当のところはわからない。そうかと思えば、死んだはずの女が何度も登場して、舟で川を流れたり、芝居小屋の中空を飛んだりする。

アナーキストらしき男や人形裏返し儀式の老人など、他にも多様な人々が出てくるが、行動の意味も言うことの真偽も定かではない。主人公以外の諸々の人物は、正体どころか、実は生死さえ不明であるということなのだろうか。

そうなると、描かれることのすべてが疑わしく思えてくる。わけのわからない人物が、荒唐無稽に出没するのにあわせて、建物はもちろん道や野原や川までが、作り物のセットのように見えはじめてくる。

大楠道代の人妻は、手紙など出していないと否定した後、主人公に言う。「そういえば----夢の中で手紙を書きました。そっくりあのとおりに書きました。----でも夢の中です。きっと私の夢を覗いていた人がいるんでしょう。その人が手紙を出したんですわ、夢のままに」。言うなれば主人公は、その美しい人妻に魅かれるままに、「夢の中」を「夢のままに」彷徨し続けるのだ。

恋のさすらいの中、やがて心中死ということが見え隠れする。そして、裏返すと心中直前の男女の性愛の姿が見える人形は打ち壊され、男と女の関係劇を繰り広げた芝居小屋は崩壊し、主人公の眼前で恋しい女は水中に沈み去って、一組の男女の心中死体が池に浮かぶ。

男はあの夫であるが、女のほうはその妻とも、死んだはずの前妻とも、あるいは別の女とも見え、はっきりしない。ラストにおいて、主人公は自己遊離の状態に陥って、あの人妻と心中直前の自分の姿を、少し離れたところに立って見つめている。

夢幻世界を彷徨することで、主人公は死をはらんだエロスを体験し、その結果、一種の眩暈の状態が起こるのであろうか。この映画を観ている者についても、まったく同じことが言え、これはいわば万華鏡を覗いたように華麗なイメージの散乱する映画で、そのイメージは生と死、現実と幻想の混淆から成り立ち、めくるめく謎の渦をなしているのだ。

それゆえ、この映画を観ることは、死を覗き見るようにして、生の躍動を感じる眩暈体験にほかならないのだ。

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