万華鏡を覗いたように華麗なイメージの散乱が生と死、現実と幻想のめくるめく謎の渦をなしている「陽炎座」
鈴木清順監督の「陽炎座」の登場人物は、松田優作の主人公以外、ほとんど正体が定かではない。この主人公の青年文士は、美しい人妻とたびたび偶然に出会って魅かれ、三度目には肌を交えるが、彼女の心をつかめない。彼女の誘いの手紙で東京から金沢まで出かけても、彼女は姿を見せず、やっと会ってみると、手紙など書かないと言うのだった。彼女は主人公の前で、スケッチブックに〇△▢と書き連ねるかと思えば、爛漫たる桜の大樹のてっぺんに立っていたりするのだった。その間、彼女の夫が随所に現われ、二人のことをなにもかも知るかのようでありつつ、本当のところはわからない。そうかと思えば、死んだはずの女が何度も登場して、舟で川を流れたり、芝居小屋の中空を飛んだりする。アナーキストらしき男や人形裏返し儀式の老人など、他にも多様な人々が出てくるが、行動の意味も言うことの真偽も定かではない。主人公以外の諸々の人物は、正体どころか、...この感想を読む
4.04.0
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