情景が目に浮かぶ、思い出アルバムのような本 - ももこの話の感想

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ももこの話

4.574.57
文章力
4.50
ストーリー
4.67
キャラクター
4.67
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演出
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情景が目に浮かぶ、思い出アルバムのような本

4.74.7
文章力
5.0
ストーリー
5.0
キャラクター
5.0
設定
5.0
演出
4.5

目次

あのエピソードの詳細がここに

あのころ、まる子だった、ももこの話シリーズの最終巻である。どの話も、原作を熟読し、アニメも見ている人には、既視感があるエピソードばかりだが、この話は実際はこんなオチだったのか、こんな過程があったのか、という、原作では描き切れなかった部分が満載な点に読み応えを感じる。

中でも圧巻なのが、中条きよしの「うそ」や、殿さまキングスの「なみだの操」といった、子供が歌いにはあまりにいわくありげな歌をまる子が風呂場でヒロシに特訓するシーンだ。

大筋ではあっているのだが、微妙に語尾や助詞を間違い、何度も歌詞が違うとまる子に切れられるシーンは、てっきりこういうことがあったのを、さくらさんがおぼろげに記憶していて、それを若干デフォルメしたのではないかと思っていたが、どうも何度も何度もこういう歌の練習を繰り返し、その旅に父ヒロシさんが同じところで間違え、その度に怒ることを繰り返したため、間違うところまで暗記してしまったようである。お説教についても、何度も怒られたので覚えているのだという描写があったので、なるほどと思った次第だ。

さくらさんにしては珍しい押しが強い主張

この作品では、喫煙していた父ヒロシさんとのタバコの思い出が語られているのと同時に、実はさくらさんがスモーカーで、喫煙のおかげがあるから、人の何倍も健康に気を使い、自分は元気でいられるとかなり強く主張している。さくらさんは比較的正直者であるし、物事を美化しないというポリシーがあるようなので、自分がヘビースモーカーであることも、あえて読者に隠すこともなかろうという事なのか、たばこの素晴らしさを語っている。

しかし、この3巻のシリーズの中では、この表現は唯一読者受けが真っ二つに割れそうな感じがする表現であると思う。確かに喫煙をしていても長生きをする人はいるが、一般的にタバコは百害あって一利なしと言われていて、今は嫌煙家の人の方が多い。漫画としても、コロコロとしたかわいいまるちゃんが、大人になったらヘビースモーカーになっていたという現実は、あまり知りたくなかったというファンもいるのではないだろうか。ウソをつく必要はないが、イメージのためにあえて言わなくていいことを言わないというのも一つの方法だと思うのだが、さくらさんは余りそうはお考えにならないようだ。

肺がんやその他の肺の病で身内を無くしたことがある人は、肺の病の人が亡くなる間際、どんなに苦しい思いをするかを知っているだけに、元気だと言ってられるのは今のうちだよ、タバコは止めた方がいいよと、さくらさんに言いたくなる人もいるに違いない。

昔は、お父さんがタバコを吸っているのはほぼ当たり前であったし、お父さんに灰皿などの喫煙グッズをプレゼントすることは、子供としては当たり前だった。タバコを吸うお父さんをカッコいいと思ったり、タバコの匂いが染みついた背広などは、そのままお父さんの匂いだったものだ。

さくらさんのエピソードも、ヒロシさんにあげた灰皿のことなど、そんな昭和のタバコに寛容だったころのノスタルジックな思い出を語りたかっただけなのかもしえないが、さくらさんのあまりの喫煙押しに、それでも今は違うんだから、マルちゃん禁煙した方がいいよと、たまちゃんのような口調でいいたくなってしまう。

よくペットが死んでしまう

さくらさんは生き物好きで、親に反対されつつも色々飼育経験があるようである。中には元々そう長く生きるようなものでもない、ザリガニやメダカなどもあるようだが、他のエッセイでもカブトムシの幼虫の死骸の始末をいとこのヒロちゃんに頼んだり、原作漫画でもせっかく買った小鳥を逃がしてしまうなど、ネコのミーコと犬のフジ以外は、どうも飼い方が大雑把なようである。

春の小川の思い出という話は、本来主題はまる子とたまちゃんが、それぞれの夢に向かって旅立つギリギリまで、仲良く遊んだことをリリカルに描いた作品なのだが、どうも序盤で幼いまる子が生き物を捕獲してきては死に絶え、また捕獲する行動を繰り返していたことが書かれているため、そのインパクトがかなり強く、リリカルな度合いが半分くらい暴落してしまっている感がある。

今は、虫や魚などを取って遊ぶということが、日常当たり前の子供の遊びではなくなってしまったため、死んでしまう生き物をわざわざ取ってきて飼うという事自体、何か悪いことをしているような、生き物の命を大事にしていないような錯覚に陥ってしまう。この回については、玉ちゃんとの友情以前に、生き物で遊ぶ遊びの価値観が違ってしまっている世代には、少し受け入れがたい部分があるかもしれない。しかし、そこら辺の川にメダカがいた時代では、これが当たり前だったのだ。

生き物との過ごし方の価値観が変わってきていることを、痛感する話である。

秀樹とケンタ

ちびまる子ちゃんには、実際に当時活躍していたアイドルがそのまま憧れの存在として出てくる。その上、偶然だがまる子の級友には、長谷川健太監督などのサッカー選手、放送作家の平岡君など、非常に知名度の高い有名人になっているのが驚きである。ケンタは元々有名であったが、ちびまる子ちゃんでさらに有名になったし、放送作家の平岡君も、その名がちびまる子ちゃんでより知られたことは否めない。また、山口百恵さんや、西城秀樹さん、にしきのあきらさん、桜田淳子さん、城みちるさん、山本リンダさんなどは、ちびまる子ちゃんが再ブームに火をつけたと言っても過言ではない。

この作品でも、フェスタしずおかに西城秀樹さん、城みちるさん、山本リンダさんが来たことが描かれている。そんな中、ミスターフェスタしずおかと言われた西城秀樹さんが2017年のフェスタしずおかに招待されたが、これはフェスタと言えば西城秀樹という強い印象を植え付けた、ちびまる子ちゃんの存在は大きいのではなかったろうか。西城秀樹さんは大病をされてそれを克服、歌手生活に尽力されているが、西城さんを奮起させる大きな力となったのは、ちびまる子ちゃんを通じたフェスタしずおかファンが西城秀樹さんの雄姿を見たいという強い気持ちがあったからではないかとも思う。

さくらさんとしても、自身の作品が、本当に当時憧れていたアイドルに大なり小なり影響を与え、また、世代を超えたファンを作ることになったのは、本望であろう。西城さんは以前、アニメのエンディングも担当されていたが、好きなことをして憧れていたアイドルともコラボができるのは、本当にうらやましいし、さくらさんが夢をかなえていく過程は凄いと感じる。同時に、ケンタといい、平岡君といい、願望達成能力の高さには脱帽する。

あんまりよくない思い出だった話も

この作品では、珍しく漫画では面白おかしく描かれたエピソードが、実は若干しょっぱいものだったという裏話も掲載されている。漫画では、書初めでおとし玉と書くところを、間違えて墨をこぼし、おどし王と書いてしまったことでお姉ちゃんに爆笑される。挙句お年玉袋の崩し字をお手本に書いて提出したら、クラスの男子に「なぜおとーむと書いてきたんだ」と突っ込まれたりしていたが、実際はお手本を無くして家族に呆れられ、適当に書いたうちから地味によくできているものを提出しただけのエピソードだったらしい。やきいもを食べたがるエピソードも、漫画ではお金が足りないのに何度も買いに来るまる子たちに、おじさんがおまけしてくれるという心温まるエピソードだが、この作品では焼き芋を食べたがってぐずっていたらよその親父に叱られたという悲惨なエピソードになっている。

事実の方がおかしいエピソードもあったり、凡庸なエピソードやショッキングなエピソードを、面白おかしくしたり、ハートウォーミングな話にできるのも、さくらさんの才能と、改めて感心する。

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