ある意味革命的だった
耽美的な世界
何もかもが斬新な演出でした。学校の一部が別世界になっていたり、空に巨大な城が浮かんでいたり、決闘の時にヒロインのウテナの衣装が僅かに変わりますが、従来の魔法少女作品と違い、そのシーンはかなり異質でした。最初はやたらと長い階段を上がって行くだけでしたが、中盤から檻をイメージしたかのようなエレベーターに乗り込みます。そして、「薔薇の花嫁」であるアンシーがウテナの身体をなぞると、その部分が変化していきます。このシーンのいちいちエロい事。更にアンシー(後にウテナ)の胸から「ディオスの剣」を抜き出す時も、指先の動きが妙にセクシー過ぎて、「テレビでやる演出にしては、かなり勇気がいるな」と思いました。そういう演出が『ウテナ』ではちょいちょい現れます。乱れた服装から、室内で何があったのかを視聴者に想像させたり、セリフの言い方が一歩間違えれば下ネタだったりと後半になるにつれ「なんでもアリ」の世界でした。特に驚いたのは樹璃の親友である枝織が彼女の目を両手で塞ぎ、彼女の恋人とキスをしている場面です。こんなシーン、放送しても良いんでしょうか。というシーンがこれでもかっ、というぐらい出てくるのが『ウテナ』です。訳の分からないシーンでも、『ウテナ』の世界なら何か納得してしまう。それが普通に思えてくるから面白いんです。でも、一つだけ気になるのは、あの「影絵少女」です。いつもいつも肝心な所で、「かしら、かしら、ご存知かしら」と思わせぶりな言葉を残して行くあの二人は一体何者だったのでしょう。
王子様になりたかった少女
1人ぼっちになってしまった女の子の前に、白馬に乗った王子様が現れます。王子様は泣いている少女に指輪を与えます。少女は自分を励ましてくれた王子様に恋心を抱くのではなく、なんと自分が王子様になる決意をしてしまうのです。なぜ?という疑問から始まるこの作品は、天上ウテナが親友の若葉の為に西園寺葵一と決闘する事から物語りは動き出します。この時、アンシーは西園寺の「薔薇の花嫁」でした。しかし、西園寺のアンシーに対する態度はひどく、ウテナはアンシーの為にも西園寺と勝負をしますが本物の剣と竹刀では勝負になりません。絶体絶命のその時、上空の城から王子様が舞い降り、ウテナと一体化します。結果はウテナの勝利なんですが、この後ですっ。負けた西園寺にアンシーがニッコリ笑って言うのです。「さようなら。西園寺、先輩」この一言はかなり効きます。なまじ笑っているだけに怖いですっ。そして、ウテナの前に現れたアンシーが言うのです。「私は薔薇の花嫁。今日から私はあなたの花です」何じゃそりゃーっ。というのが、ウテナと視聴者の心の本音でしょう。「薔薇の花嫁」であるアンシーを手に入れれば「世界を革命する力」が得られると、選ばれたデュエリスと達が戦います。そんな彼らを相手に、ウテナはアンシーを守る為に戦い続けました。しかし、アンシーの兄である鳳暁生に恋をしたり、アンシーに嫉妬したりとウテナの心は乱れます。しかし、暁生によって自由になれないアンシーを救うべく彼女は戦います。傷だらけになりながらやっとこじ開けた棺の中、アンシーを見つけます。手を差し伸べるウテナを拒むアンシーですが、傷だらけの指にやっと勇気を出します。互いの指を伸ばし、もうすぐでアンシーが出られると思った瞬間。彼女は棺ごと落下します。アンシーを助けられなかったウテナは、「世界」から弾き出されました。結局、この話って何が「革命」だったのでしょう?ウテナは「世界」から拒まれ、人々の記憶の中からも消えてしまいました。たった1人を除いては。アンシーは、やっと暁生の前から去る決意をします。自分の力でウテナを見つけて見せると微笑む彼女は、もう以前のアンシーではありませんでした。おそらく「革命」というのは、アンシーの心ではないでしょうか?一歩踏み出して「外の世界」へ行く勇気。それがこの作品のテーマではなかったのでしょうか。
愛のありか
この作品の中には様々な愛の形が存在します。例えば、生徒会長である桐生冬芽は幼い頃に出会ったウテナの姿が忘れられません。そして、そんな彼の妹である七実は実の兄である冬芽に密かな恋心を抱いています。有栖川樹璃は同性である親友の枝織に片想いをしている。薫幹は姫宮アンシーを美化し過ぎて、彼女を天使か女神のように崇拝しています。それぞれが誰かを愛しているのですが、その全てが報われない想いです。相手が同性だったり、肉親だったりと決して伝えられない想いもあります。そして、そんな望めない想いを叶える為に彼らは「世界を革命する力」を欲するのでしょうか?もし、本当に「世界を革命する力」を得られた時に彼らの愛は伝わるのでしょうか?この世界で1番難しいのは、相手に自分の気持ちを伝えるという簡単な事なのかもしれません。
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