どこから力が来るのか
いまも語られる
このレビューを書いている2016年時点で、ウテナがテレビ放映された1997年から20年ちかく経っていますがいま現在でもアニメ、映像、舞台系からミュージックシーンまで多岐にわたる分野において、この作品の名前を挙げたレビュー、コメントを目にすることがあります。私自身も最近、ロックバンドをしている友人から「絶対運命黙示録」ってどんな曲なの?と聞かれました。ヴィジュアル系バンドによるカバー曲がいまも発表されているようです。現在でもどこかでウテナというパワフルなコンテンツがあったことが影響を与えていて、まったくカテゴリー違いの人からウテナについて聞かれる事があるのは、ファンとしてはうれしい限りです。
薔薇のフレーム
私自身もテレビ放映時にリアルタイムで観ていましたが、ウテナの世界に対して子供すぎて、当時はなんだかわからないけど衝撃的でした。
同時代のアニメに知識があるわけではなく具体的に比較作品を出せるわけではないのですが、当時の時代にしては描かれる主人公やその周りの人物もかなり露悪的に描かれていたのではないのかと思います。王子様を待つお姫様の「おとぎ話」、「学園の生徒会」、「薔薇の花嫁」、「エンゲージ」「薔薇の刻印」などの少女漫画的な淫靡な単語に彩られたストーリーの中で次々に暴かれていく登場人物たちの本音がショッキングだったのは確かです。
そう、ウテナの世界は実に古典少女漫画的なモチーフに彩られた構成になっています。舞台となる鳳学園では生徒会メンバーに伝わるしきたりにより決闘が行われ、勝者は薔薇の花嫁の姫宮アンシーとエンゲージしているのです。世界の果ての意思により、薔薇の刻印により選ばれた生徒会のメンバーは掟を守って決闘広場の森で決闘することによって世界を革命する力を得られると信じています。しかし、それがどのような力なのかは明確には語られません。
第一話の決闘
少女革命ウテナの主人公は「天上ウテナ」と言う女の子です。このアニメのタイトルは彼女の名前を冠しています。そして、語頭に少女と冠しているように、女の子の葛藤を描く物語ですが、「少女革命ウテナ」はこれを「革命」しようとするウテナの物語になっています。
世界を革命する力を!
第一話で天上ウテナは、学園内で目撃したアンシーへのひどい扱いに対して憤り、自分が信じる理想の王子様たるために、薔薇の花嫁アンシーをめぐって決闘をし、勝利します。その後何度となく交わされる生徒会メンバーとの決闘の動機でも、ウテナの主張は一貫して決闘の賞品として扱われているアンシーを守ろうとしています。彼女は薔薇の刻印の掟を知らずにいたのに、アンシーへの人間らしい正義感から決闘を申し込み、図らずも薔薇の刻印の決闘の掟に組み込まれてしまうのです。
一方、薔薇の花嫁という業を背負ったアンシーはアニメの中で終盤になるまで、アンシー個人の人間らしい感情をあまり見せません。それに対して、ウテナは物語の初めから最終話まで一貫してアンシーに対してとても深い親愛の情を見せ、一人の人間として見ています。
彼女は一話において、西園寺莢一と決闘します。アンシーとエンゲージして「世界を革命する力」を得ている西園寺莢一との決闘で、幼き頃の約束の声「その気高さを忘れないで」によってウテナは勝利しているのです。
革命するために
第一話の冒頭で語られる「男の子の格好をした天上ウテナ」の人物と過去からは、彼女がすでにその「ウテナ」の世界を革命しようとしている存在として際立っていることがわかります。おとぎ話のように語られる彼女の過去の話には、両親を亡くした幼いお姫様だった彼女と彼女を深い悲しみから救ってくれた王子様が登場します。しかしウテナを救ってくれた王子さまは、彼女の悲しみに耐える強さ気高さを称え薔薇の刻印の指輪を残し彼女のもとを去ってしまったため、ウテナは自分が王子になりかわろうと、男の子の格好をするようになってしまったと明かされています。そのような悲劇の運命を背負いながら明るい性格を見せるウテナが、薔薇の掟の学園で決闘ゲームに巻き込まれていくうちに、自らの心の奥底に秘めていた王子とお姫様の葛藤に巻き込まれていくさまがアニメ全39話のなかで描かれています。ウテナの王子様とは何かの問答の答えとして、ラスボスのように学園の理事長である鳳暁生が配置されているのが、ウテナの内面心理と学園の設定がシンクロする舞台設定としてとても効果を挙げており、ウテナのストーリーの考察でもそのような見方をされているものがあるようです。わたしもこのアニメはそのように背景設定されて、主人公ウテナの内面心理を描き出し、かつ視聴者の少女の葛藤にも共感させることで成功したアニメだと思います。
学園において彼女は、お姫様としてあの時の王子様を求めながら、学ランを着て男の子の格好をして自分が王子様になろうとしています。天上ウテナは彼女自身がヒロインであることへの否定と、王子様を求めるヒロイン願望の両方を持ち合わせているのです。ストーリーの中で彼女は、自分が持つその二つの面にジレンマを抱えたり、自分を納得させ自己肯定したりします。王子の誘惑に屈服してしまう場面もありますが、彼女は最後の決闘を切り抜け、最終話では見ている人に主人公ウテナが敗北したわけではないと思わせるストーリーになっています。
この結末は、ウテナの心理に入り込んでしまった私にとっては、とても救われた結末だと思いました。
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