暗いうえに打ち切られるとつらすぎる
3人の男女はこうなる
大地震によって行き倒れていたソラトという存在。我藍が救い、さらには清らを加えて、3人は裏切らず協力することを誓い合う。だけど、男2人に女1人の組み合わせにおいて、2人が恋仲…とか言っている関係ならば絶対こじれる。これはもう定説だ。我藍は清らを許嫁として大切に想ってきたけれど、清らの心はソラトに向いていた。ソラトは自分の命を救ってくれた我藍の気持ちを差し置いて、清らの気持ちに応える気はない。しかも、清らに対しての恋の気持ちすら持ち合わせていないのだった。この場合、ハッピーエンドにする方法が非常に難しくて、誰かが必ず引かなくちゃならない。ソラトには恋する気持ちがないわけだし、ノエラとうまいこといけばいいな…と思ったけれど、まさか久彌さんがそういう理由で動いていたとは…ってことで、もはやソラトのお相手が思い浮かばない。
途中までの感じだと、ソラトがもしかしてメフィストセレス公(レイス)と…?っていう想像もよぎったが、我藍とレイスの間に生まれてしまった子ども乃々羽を救う方向へ。そして恋じゃなく、普通に友情優先だから、ソラトだけなんかしんみりで。一人でめっちゃがんばって、タウの紋章を司る鬼の子としての宿命も背負わなくてはならなかったソラトがかわいそうでしかたなかった。
ワルプルギスの夜とは、ドイツの伝承で魔女たちの集会で彼女たちが思うままに過ごす夜のことを言うらしい。それが恐怖の王を復活させる儀式を行う日として描かれているわけだが、なんかしっくりこないんだよなー…。別にそういうの考えずに読めばいいだけの話なんだけどね。
ソラトをもっと強くして
ソラトは時空を越えて、若干成長した姿で現代の日本での活動を始める。レイスと、乃々羽と、ソラト。まったく関係がないかに見えて、すべてはソラトの大事な我藍につながっている人物。乃々羽の存在が非常に異質なのだが、我藍の子ならソラトは絶対守ろうとするからね。
ソラトは鬼の血を引く者と言われながら、心は優しき男の子。こういうキャラクターの場合、どこかで何らかの覚醒が起こってしまうんじゃないかと想像するが、ソラトは息を吹き返したあのタイミング以外、人間らしいいい子だ。もう少し長く続けば、自分の中に流れる鬼の血、出生の秘密、あのときあの場所で我藍と出会ったことの運命めいたものを見せてくれたんじゃないだろうか。大事な主人公なのに、なんかこう綺麗すぎる面があり、せっかくのダークファンタジー感が微妙になる。彼はただ我藍を穏やかに見守って、静かに共に生きていきたかっただけだろう。それが一瞬で奪われたことの絶望と、そこからの再起、内なるものを秘めて行動していくストーリーはもっと腹黒いものとの葛藤だと思うんだ。
また、ソラトは我藍の一歩後ろを常に歩いてきた分、闘いにおける強さを爆発させてほしかった。でもなーんかレイス頼みでいまいち…人間の域を出ていない。鬼っぽくやってほしいのにさ、綺麗すぎるんだよね、やっぱり。
レイスと我藍
我藍とレイスの妖艶な関係って、もっと生々しくドロドロにしてほしかったなー…。どうせならね。囚われている感じがほしいなと思った。人と人ではない者の間で生まれてしまった何か。それは愛ではないとしても、もしかして愛か…?っていう絶妙な空気とか、行動とかがあったら、もう少しキャラクター愛を持てたと思う。
1巻のあのたった1回でレイスから我藍の子どもが生まれちゃったわけだけど、そこはファンタジーだしいいじゃん…ってことにしていいんかな。なんかレイスは人じゃないうえに女でも男でもない存在だと考えると、すっごい複雑な気持ちになるんだよ。それに、100年経って成長した我藍とレイスのラブシーンもあるんだが、我藍それでいいんかいって…仮にも愛しの清らが囚われることになった事件の協力者よ?レイスが久彌に捕まって身動きとれない状態であることが、我藍自身の境遇とよく重なってしまったのかもしれない。我藍が久彌に逆らえずにいたこと・今もその恐怖と闘っていることとね。ドロ沼の愛憎に絡みつかれて苦しいとき、光になるのがソラト…あらゆる呪縛から救ってくれる存在なんだよーってことがより強調されると思うね。
そして、乃々羽は2人から生まれた存在。我藍も、レイスも、どちらも彼女を愛していることがわかるから、やはり我藍はいい奴なんだろうなと思ってたよ。レイスもまた、どこまでが本心かはわからなくても、自分の娘への愛情の示し方は、お母さんだなって感じられる。
時空を越えちゃう無理矢理感
一番楽しかったのは、やはり1巻なんだと思う。あの異質な空気の中、バラバラになってしまった3人。ここからどうやって絆を取り戻していけるんだろう。そう思ってたら、2巻を開いたらいきなり時空を越えているっていう…。え?だった。時空を越える必要は果たしてあったかって考えてしまう。あの時代のまま、時間を重ねてもよかったんじゃないの?って。時代を越えて、結局は久彌も出てきて、なんだよみーんな登場人物同じじゃん。100年の時間が経っても経たなくても、取り巻くものが全然変わらないし、追加で登場するキャラも少なくて、何かが足りないなー…って思っていたら終わってしまったよ。6巻で終了とか、マジで打ち切りってことなの?
ダークファンタジーだからね、多少血生臭い状況になることや、正義と悪とがごちゃ混ぜになることは想像できたことなんだけど、時空越える意味をもう少し持たせたほうがよかったと思う。それこそ血のつながりが後世に残っているような話や、受け継がれた能力の行く末、単なる歪みと言う表現だけでは解決されない、その世界でなければ達成できないものを大きくしてくれたほうがよかった気がする。
また、ノエラとソラトの関係性を楽しくさせてほしかったのに、まさかの久彌とノエラっていう…おいおい、それじゃーソラトはどうすんの?って。ソラトは結局どこに行っても一人じゃん。そしてサメク、レシュ、ヴァウという分身とのエピソードが緩すぎる。ソラトが週末を呼ぶ鬼の子として、何を見せてくれるかが楽しみだったのにさ。
無理矢理いい話に
ソラトは乃々羽を、我藍は清らを、久彌はノエラを…みんながみんな、救おうとする命があったっていうことで。話は完全にいい話になり下がってしまった。そりゃー我藍、清ら、ソラトには、どんな形でもいいから幸せな時間を与えてほしかったと思うし、ああいう感じで締めくくられたことはハッピーエンドと言っていいと思う。それでも、6巻であれはないでしょう。せめて10巻でしょう…とは思う。レイスの裏切りが裏切りではなかったと知るのは、もっと後で良かったと思うよ。
個人的には、我藍のエツロウという状態が本当に気に食わない。あんなに清潔感あふれる男だったのが、ダークになるのはまぁアリとして、あの見た目はキモすぎる。どっちかというと、ソラトがそっち系になる可能性があっただろうに。だって音楽プロデューサーになんかなってさ、我藍がヒョウ柄の洋服を着てさ、うわーダサい。神秘的な、達観したような場所で、冷酷に笑っていてほしかったなーと思う。
いい感じに終わらせるのは早かったが、世界観は人気が高かった。作者さんはダークな物語を描くのがお上手な方だし、次に期待しますって言う人も多い。オチがなくぷっつり切れてはしまったけれど、レイスの立場はかなりおいしいものだったし、後々番外編なんかがあると嬉しい。
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