誰の心にも潜んでいるかもしれない。
女性の本能
女性なら誰もが心の奥底に隠し持っているであろう嫉妬と執着が忠実に描かれている作品の一つだと思います。一生懸命働くことや一生懸命恋をする事、全てに対して最も人間らしく進撃に立ち向かう女性像は、ある意味、悪魔そのものだとも感じます。
主人公 七々子に取り憑いた悪魔
表向きは平然を装い笑顔を浮かべる彼女の真の裏側を、読者が一定の距離を保ちながら覗き見ているような感覚に陥ります。実際に体験した事のない出来事もどこかしら納得できてしまうと言うところが他の作品を含めても作者の強みであり魅力です。嫉妬に塗れ行き場を失った主人公 七々子の思いが、いつしか少しずつ形を変えていく様を作中で「時には自分さえも裏切ってしまう」行為と表現している辺りは特に、女性ならではの芯の強さを感じました。
泥沼の中の美しさ
おそらく男性よりも女性の方が愛と恋の狭間を事細かく分解して線引きし決め事を作るのかもしれません。愛が柔らかく温かいものであるなら、書かれている通り恋には悪魔が取り憑き神経を狂わせる。それでも、かつては純粋であったはずの「好き」を忘れられないまま戻る事も出来ない。突き進む選択を選べばそれだけの過ちと憎しみが生まれ、最後は悪魔になるであろう。それでも人間らしくいられるのは、きっと、「出会わなければ良かった」と思える七々子の中に微かに残る純粋のカケラのおかげであると思いました。
七々子に限らず誰もが悪魔になりゆる可能性はあります。もちろん私自身も同じです。潜んでいるであろうその物体が目を覚ますか覚まさないかだけの問題です。きっかけは嫉妬や執着に不安を感じる純粋な時を経て、腑に落ちてしまった瞬間です。自分自身でも気付かないうちにそれは目覚めるのかもしれません。そして一度目覚めてしまったら後戻りは出来ない。自暴に走り他人を傷付け、いつしかガラス細工のように繊細で脆い人間へと形を変えていく。世間はそれを「どん底」だとも表現するのかもしれませんが、何とも美しく可憐に感じてしまいました。
彼女の偉大なる成果
七々子の執着は彼への恋心から始まりいつしか自分の最もすべき使命であるかのように変貌していきます。。些細な嘘から始まった略奪ですが、やっとの想いで射止めた彼への嫉妬、元カノへの怒り、とこまで行っても感じることの出来ない安心感。一緒にいても心が満たされない、こんなに好きなのに伝わらない。行き場を失った「思い」を、七々子というひとりの女性を通して、窮地に立ったその瞬間を鮮明に残し、彼女と共にその極面を味わう事ができます。彼女の残した成果は、荒れ果てた失恋だけではなく、同時に純粋な恋愛、仕事、生き方全てにおいて共通する「女性ならではの芯」の部分を自身が気付き出会えたことです。
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