マルセイユにおける異邦人ドイル刑事とフランスの警部との反撥と友情を軸に展開する、珍しくもおかしいアクション映画の快作 「フレンチ・コネクション2」 - フレンチ・コネクション2の感想

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マルセイユにおける異邦人ドイル刑事とフランスの警部との反撥と友情を軸に展開する、珍しくもおかしいアクション映画の快作 「フレンチ・コネクション2」

4.04.0
映像
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脚本
4.0
キャスト
4.0
音楽
4.0
演出
4.0

1971年度のアカデミー賞で作品賞・監督賞(ウィリアム・フリードキン)・主演男優賞(ジーン・ハックマン)、それに編集賞など主要な部門のほとんどをさらった傑作「フレンチ・コネクション」の続編である「フレンチ・コネクション2」は、ストーリーの上では全くその続編なのですが、でも中身はだいぶ違います。

なぜ違うことになったのか?  まず第一は、この映画が全編フランスのマルセイユでのオール・ロケで撮影されたことです。その土地的な制約は強烈で、監督が1作目のウィリアム・フリードキンからジョン・フランケンハイマーに交代したのも、フランケンハイマー監督がナチスへのレジスタンスの一側面を描いた「大列車作戦」で、フランスの土地と人間と言葉を熟知していたのが理由だと思われます。要するにこれは、フランスで作られたアメリカ映画なのです。

第二に、そういう外形が必然的に作品の内容も規制したということです。1作目と同じ主人公のニューヨーク警察のモーレツ刑事"ポパイ"ことドイル(ジーン・ハックマン)は、アメリカに密輸される麻薬の根源地であるフランスのマルセイユに単身派遣されて来るのですが、ここには切れ味鋭かった前作のハードボイルド的なスピード感と代わって、「巴里のアメリカ人」ならぬ"マルセイユのアメリカ人"といった小味な色彩も加味されているのです。

ジョン・フランケンハイマー監督といえば、アメリカでTVから映画へ進出して来た映像作家群のハシリのような俊英ですが、「終身犯」とか「フィクサー」に見られるように、じーっと人間を凝視するような重厚さが持ち味の一つだと思います。

その面が、マルセイユにおける異邦人ドイル刑事と、彼ほど単純でモーレツではないマルセイユ警察の警部バルテルミー(ベルナール・フレッソン)との反撥と友情のドラマに集約され、少なくとも人間の内面に足を踏み入れようとする点では興味深い点があります。前作での高架線を走る地下鉄の下を自動車で追跡するといった、文句なしのアクション・シーンでは及ばないにしても-------。

この映画のストーリーは、元来、実話に基づくものですが、前作でジーン・ハックマンとロイ・シャイダー扮する二人のニューヨークの刑事が、フランスの麻薬王シャルニエ(フェルナンド・レイ)を追いつめて押収したヘロインは、何百億という麻薬捜査史上最大のものでした。

続いて、これまた実話として、ニューヨーク市警に保存されたこの膨大な麻薬が、いつの間にか行方不明になっていた-------という事件も、当時の新聞で伝えられました。こうした事実を背景に、のうのうとマルセイユに帰って暮らしながら次なる大密輸を計画しているシャルニエを捕らえに、宿敵ドイルが単身アメリカから乗り込んで来た、というお話です。

映画の半分を過ぎるまで、ドイル刑事は全くいいとこなしの完敗の連続です。何しろ言葉が全く通じないし、警察官でも外国人はピストルを持ってはいかんと言われ、バルテルミー警部には「ここはマルセイユで、ニューヨークのハーレムでお前さんたちが黒人をぶん殴るようなマネはできんのだ」と説教される始末です。

手出しをしてはいけないと前もって言われた麻薬の手入れに同行して、逃げる黒人を見て我慢できずに痛めつけたら、これが実は潜入させてあった警官で、ついに死んでしまったのです。そして、バルテルミーはドイルがシャルニエの目に触れるとひどいことになると心配し、四六時中、ドイルに尾行をつけたのに、怒ったドイルは尾行をまいた上、シャルニエ一味に誘拐され、ホテルに監禁されて三週間にわたる麻薬の注射-------。

完全な麻薬中毒者になったドイルは、死の寸前の状態で車から警察の前にほうり出されます。バルテルミーたちの配慮でドイルがどうにか体力を回復し、いざシャルニエをやっつけようと共に立ち上がるのは、もう終わりの三分の一くらいのところまで来てからでした。やられやられて最後に-------という我が日本の東映の任侠映画の構成に通じていると思います。

フランケンハイマー監督の面目躍如たるところは、バルテルミーらによって地下室に軟禁されたドイルの中毒-------禁断症状のシーンに顕著に表われています。ヤクを欲しがって暴れるドイルに、せめて紛らせようとコニャックを飲ませて話し相手になるバルテルミー。

自制心を失って泣き笑いのドイルは、とめどもなく自分が昔プロ野球の選手になろうとしたことなどをしゃべります。ところが、バルテルミーは、ミッキー・マントルもウイリー・メイズも知らないし、フォード投手のところで、"最高のレフティ(サウスポー)"だと言うと、バルテルミーは「そいつはアカ(左翼)か?」と言うのです。

この絶望的なチンプンカンプンさは、ドイルが入った酒場で、言葉が通じないために、おごろうと思った娘たちにもふられ、バーボンも飲めず、あげくの果てに変なバーテンとメロメロになる-------というシークエンスにもよく表われていました。これも、当時のアメリカが味わっていた苦さなのかもしれません。

バーボン・ウイスキーの最高峰ジャック・ダニエルズと言っても通じない国、あるいはミッキー・マントルやウイリー・メイズを知らない人間がこの世界にはあるのだ-------ということを、ヴェトナムではないけれど、"マルセイユのアメリカ人"は思い知るという、珍しくもおかしいアメリカのアクション映画なのです。

もっともアクションも、最後の方は前半の不調を挽回するかのように大奮闘。ただ、いくら警官だといっても、敵のアジトらしいホテルを発見すると、いきなりガソリンをばら撒いて大火事にし、最後にヨットで逃げるシャルニエにようやく追いついた桟橋から、いきなり発砲するなんて、冒頭の警官殺しと共に、これでアメリカの刑事ドイルは、フランス国内法でどうなるのか? ------- なんてよそごとながら心配になります。

そして、この映画も前作同様、銃声で終わります。ヨット上のシャルニエは確かに胸に手をやってよろめいたが、前作のロード島で逃げるシャルニエと追うドイルが画面から消えて銃声一発、というストップ・モーションのラストに惑わされていただけに、今度は本当に死んだのかな?  という含みを持たせた終わり方になっています。

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