いつの間にかサスペンスから巧妙なバトルへ - ゴーン・ガールの感想

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いつの間にかサスペンスから巧妙なバトルへ

4.54.5
映像
4.0
脚本
5.0
キャスト
4.0
音楽
3.0
演出
4.5

目次

結婚記念日に妻が失踪する

物語は,ニックとエイミーという夫婦のお話である。実話を基にしていることもあって,話題性の高かった映画だ。何しろ,そのサスペンス疑いからのどんでん返し,ついには何とも言えないラストに至るまで,ノンストップで急展開していくので,面白すぎるのだ。

結婚して5年を迎えた夫婦。そりゃーいろいろあって当然だと思うのだが,突然妻が失踪する。しかも家の中には襲われたかのような痕跡だらけ。妻は攫われてしまったのか?それとももう殺されてしまったのか…?予告編の中で,水に沈んだエイミーが登場するため,多くの観客がエイミーは死んでいるのだろうと想像した。その状態でこの映画を見始めることになり,エイミーがどのようにして殺され,どこに今死体があるのかという点に焦点が絞られていく。しかも,ニックにとって不利な情報がどんどん流れ,マスコミたちもこぞって書き立てるようになり,結局ニックが不倫していたという事実も確かなことであったため,疑う余地がない。ここまでが1時間くらいでまとめられていて,やっぱりそういうサスペンスなのね,という空気が流れる。

ところがここからがすごいところで。後半の1時間は,エイミーの視点に移り,実はエイミーは生きていて,ニックの立場がどんどん悪くなっているのをしめしめと見て楽しんでいたのだった。あまりに用意周到で,練りに練られた計画の数々。警察やマスコミをうまく誘導し,自分の思い通りにニックを苦しめて楽しむエイミー…すごすぎる。エイミーとニックは外面がよかっただけで,実は経済的に困窮していたこともあり,夫婦仲は最悪だったらしい。夫婦の関係は愛だけでは語れない。それも暗に表現してくれているし,幸せそうな夫婦が幸せとは限らないということを,感じざるを得ない。

ニックにも罪があるけれど

ニックが妻を殺したわけではなく,妻のエイミーが自分自身を狂言によって殺したようにみせかけていたこの事件。いったいどこで終結させるのか?が難しいポイントだったと思う。エイミーがサイコパスってことがだんだんとわかってくるのだけれど,ニックが愛人を作ってしまったことが事の発端になっているのは間違いない。だから,もしかしてニックが他に愛人を作ったりしなければ,エイミーのこんな狂言は発動しなかったかもしれない。

ただ,エイミーはニックを精神的にも経済的にも困窮させて苦しめた後に,自分自身も命を絶とうとしていたことを考えると,ニックが何かしでかさなくてもエイミーはニックを殺しに来ていたかもしれないな…と感じられる。

彼女の中での「結婚」というものはとても重いものであり,憎み合おうとも共に存在しなければならない契約のもののように考えていた。だからこそ,妻という役割を完璧に演じてきたし,それを裏切ったニックが許せなかったわけだ。確かに気持ちはわからなくはないし,復讐してやろうっていうのも当たり前と言えば当たり前の感情。しかし,「そこまでやる?」って思うのは確か。そこまでやらなくても,不倫したのはニックなんだし,弁護士を活用していかようにも自分に有利な進め方もできそうだけどね。気に食わない相手をとことん貶める。それがサイコパスなんだと思う。

愛されて当然だと考えている

エイミーは,母親メアリーベスが執筆した「完璧なエイミー」というベストセラーの主人公。それほどまでに,エイミーは美しく,何でもでき,器量が良く,完璧だったのだろう。それを自覚し,よりそうであろうと努力し,自分を着飾って,完璧なエイミーであろうとした。完璧な自分は愛されて当然だし,愛されないのは相手に問題があるのだと考えている思考を,結局は母親が作り出してしまったのかもしれない。

元カレのトミーなんて,レイプ犯にでっち上げられた過去があり,「いつか彼女は殺人者もでっち上げるんじゃないかって思っていた」と証言をしている。逃亡中に有り金を失うことになったエイミーは,元カレのデジーを利用し,別荘で匿ってもらってニックの落ちぶれぶりを楽しんでいた。なのに,ニックの立場が好転したところで,デジーののどを掻っ切って殺害。そのまま車を運転してニックの元へと舞い戻る…自己中そのものの彼女。自分が幸せであればそれでいいらしい。デジーを誘惑して性行為をしている最中にぶっ殺すからね。自分の活用の仕方がわかっているあたり,怖すぎる。

これからニックと一緒に幸せな生活が送れるとは到底思えないのだけれど,彼女は浮気したりはしないのか?ニックと一緒に生きていく生活の中で,彼女のほしいものが手に入るのか?そう考えてみると,彼女がほしいのは「完璧なエイミー」であり,有名になった自分にはこれからも安泰な人生が待っていると確信しているのだろう。それに巻き込まれ,離れることも許されないまま,ニックはどんな一生を過ごしていくだろうか?

役割を演じるということ

エイミーは,「完璧なエイミー」を演じ,演じることが当たり前になる。だから,それが悪いことかどうかも,正しいことかどうかも,わからない。彼女が求めることは自分が輝き続けることであり,それ以上でも以下でもないし,そのための努力はこれからも惜しまないだろう。

人生いろいろある中で,「本当の自分」などというものに振り回されるより,役割を決めて演じるほうが楽かもしれない…と思うときもある。家族の前で見せる自分が,何より本来の自分であることに近く,それが許されることはきっと幸せであろうとは思うが,それができないことのほうがもしかしたら自然なことかもしれない。全部を分かり合えることはきっとなくて,それでも共に生きていくことを選び,2人だからこそ得られるものに感謝して生きていくことが,本当に幸せなことと表現されることもあるだろう。

明らかにはたから見ていたらおかしな状況で,さっさと暴露して別れてしまえばいいのに,精子バンクに預けていたニックの精子でエイミーが妊娠していることが発覚して…もしここで別れれば,ニックがますます印象悪くなるって脅されてそのまま結婚生活を継続することになる…弁護士が呆れて離れていくのもうなずけるよね。いや,そこは印象がどうなろうと別れた方がいいと思うよ?そして暴露本でも出してみればいいんじゃない?事実,不倫はしたけど人殺しをしたわけではないんだからさ…。

この先彼に安寧はあるのか

エイミーの本性を知り,それからニックはどんな選択をするんだろうか?続きはないからわからないけれど,実話として公表されているってことは,それなりに暴露されてエイミーに罰が下った形にはなっているのかな?もしくは,少し脚色されているだろうから,今でもエイミーとニックは夫婦生活を営んでいる…?

ずっと苦しみ続ける関係なのに,一緒に暮らさなくてはならない。そして,新たに授かった命を育てていくときに,その子がエイミーのような子供になる可能性だって否定できない。そんな状況で生きていくことが苦しくなったら,ニックは自殺してしまうかもね。ニックがエイミーを殺したらそれこそ思うツボで,むしろエイミーは死してなお輝き続けることになるだろう。そんなことをしたくなければ,さっさと見切りをつけて離れることだ。

ニックもさ,愛人なんか作らなきゃよかったのにね。そうすりゃまだよかったはず。要は,何か後ろ暗いところがあるからどうにもできないんだよ。最初からまっとうに,正面切って頑張れば,少しはできることがあったかもしれないじゃない。夫婦関係の成れの果てはひどく恐ろしいものであると,考えさせてくれる映画だった。

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