童話よりもパワフルな女性を描く - エバー・アフターの感想

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童話よりもパワフルな女性を描く

4.54.5
映像
3.5
脚本
3.5
キャスト
4.0
音楽
4.0
演出
4.5

目次

強き女性のシンデレラストーリー

童話のシンデレラをモチーフにしたこの物語。似たような物語はたくさんあるのだが、ここで登場するシンデレラのダニエルは、むしろ灰をかぶっているのがよく似合うほどおてんばな女の子だった。おてんばで、でも知的好奇心がしっかりとあり、自由に育てたお父さんの人柄がうかがい知れる。母はいなくても、お父さんが愛情いっぱいに育ててくれて、使用人たちが愛してくれて、本当に幸せな日々だっただろうなー…って思う。そこから、お父さんが女を見る目がなかったばっかりに、ロドミラなんて連れてきて…幸せだった時間よりも長い10年もの間、ダニエルは使用人として使われる日々を送ることになっている。

お父さんとの幸せな日々、特にあのダニエルが眠りにつくときのシーンを思い出して、こっちが悲しくなった。何気に一番好きなシーンで、子どものころのダニエルがすっごくかわいらしくて、お父さんの笑顔がくすぐったくなるくらいに愛にあふれていて、「早くお仕事から帰ってきてね!」っていうダニエルが萌えすぎだった。そのあとのお父さんが死ぬシーンがとてもはっきりと描かれていて、衝撃的で、童話のシンデレラに忠実な流れなんだけど、より深刻に響いた。

ダニエルはもともとの気の強さと、一生懸命な性格から、継母のロドミラとマルガリートからの仕打ちに耐えながら自分を見失っていない。また、馬泥棒をした王子にリンゴを投げつけて落馬させるという演出はなかなかコメディーっぽくて好きだ。王子とキスするときは、どちらかというとダニエルのほうからキスしているように見えるし、そこが他のシンデレラモチーフの作品と全然違うなーって思うね。

王子が王子らしくない

とにかく王子が王子っぽくない。王子であることにフラストレーションを抱き、自分が王になってどんな国にしていきたいかとかも考えることができていないような、ちょっとダメ男だった。リンゴをぶつけられて落馬するっていうアホっぽいところもあるしね。剣術や馬術に長けた王子なら、飛んできたリンゴを華麗に避けて切ってやるくらいのことはしてもいい気がするけど、そうしないのがまた…ダニエルとの差が良く出ている。

このストーリーの中では、ダニエルが常にリードする立場と考えたほうがしっくりくる。王子はダニエルに少しずつ心を開き、ダニエルが見せるものに影響を受けて、国の政治に興味を持ち始めるくらい、王子は一人では生きていけないタイプ。ダニエルのように、突き進んでいってくれる相手がお似合いだ。

ダニエルが嘘をついていた…!って知ったときも、その絶望具合と言ったらダサかった。もういいや、スペイン王女と結婚しちまえ!って投げやりな王子…こんな人が王様になるなんて無理…。国はダニエルが支えていくこと間違いなしだよね。

少し気に食わないところと言えば、若干長髪っぽくて、日本の俳優の江口洋介さんみたいな髪の分け方をしているってこと。…完全に好みの問題なんだが、やっぱりここも王子っぽくないよね。せめて見た目くらいは短髪で、凛々しい面持ちであるほうが王子らしいし、清潔感も感じられる。そこを敢えてこういう見た目にしているのも、ダメ男っぽさとダニエルとの距離の近さが表現されているのかもしれない。

継母たちがどこまでも腐っている

基本的に、悪い役どころの人にも少しは愛情をもって見てやりたいと思っているのだが、この人たちに関しては本当に腐っているので、安心して非難ができる。とにかく自分たちの私利私欲のため、金のため、人を売るわ家財を売るわ、何でもかんでも自分たちのやりたい放題。やっていることはクズなのに、見た目だけはお綺麗だから、騙されちゃう人がいるのも確かで、本当にやりきれない気持ちにさせてくる。

少し人らしいかもしれない…と思ったのは、ダニエルが大事にしていた亡き母のドレスをマルガリートに使おうとしたとき、物色しているのがばれて少し気まずそうだったこと。あ、そこは人並みに反応するんだっていうね。散々人を人と思わぬ所業をしているのに、盗むようなマネは下等なことだとわかっていらっしゃるらしい。

ダニエルがロドミラたちにだまってヘンリー王子と逢瀬を重ねていたことがばれてから、ドレスを取り上げるわ、父からの大事な本を焼き払うわ、鞭でダニエルを打ちまくるわ…どう考えても、嫌な人間。擁護するところが一つも見当たらないキャラクターって逆に安心するんだよね。どうぞラストで華麗に散ってくださいって思う。

結局ダニエルが人として何枚も上手で、お城の洗濯婦としてロドミラたちを雇うことにするのは、なんか拍子抜けした。流刑にでもしてやればいいのに、そうはしない。「目には目を歯には歯を」というような古い罰は与えないのが、知的なダニエルなのである。

そういえば、たいてい継母と姉妹は結託しているものなのに、姉のマルガリートばかり愛されて、妹のほうは音沙汰がなかった。これについては、どこかで妹がダニエルを助けるような大逆転もあるのかなーって思っていたんだけど、そうでもなくて。じゃーこの際妹はいらなかったんじゃないかと考えるのだが、そこはやはり必要だったのだろうか?

一度破局をみせて

ダニエルの嘘がばれて、ヘンリー王子も身分が違うことで王の怒りを買ってしまうこととなった。ロドミラの思惑通りにマルガリートとヘンリー王子が結婚するような話にはならなかったけれど、やっぱり王子もヘタレだよなー…。むしろスペイン王女が教えてくれたよね。真実の愛ってやつを。ダ・ヴィンチが言っても全然響かなかったのに、目の前で嘆き悲しむ人を見て気づくっていう…この人を夫として大丈夫か?ダニエルの苦労が目に見えて心配で仕方がなかった。そういうちょっとダメなところが、ダニエルの母性をくすぐるのかもしれない。

ダニエルは、売り飛ばされた先でも、自分自身の力で逃げ出していた。…強いよね。ヘンリー王子はどこまでも後手に回っていて、ここまでくると若干かわいそうなくらい。ダニエルなしでは国政も回らないような、そんなひどい状態にならないことを願うばかりだ。ダニエルと共に成長し、少年らしい心も残しつつ、立派な王になってほしいなーって思う。

一度うまくいくかに見せて、一度別れを選択する流れって、盛り上がるよね。この演出はアメリカ映画っぽいところだ。

きらびやかな衣装が合ってない気もする

少し残念なところといえば、衣装がなんか…ダサいことだよね。母親の形見のドレスはいったいなぜ羽が生えているのか、とても疑問。そんな恰好で結婚式やったの?普段のドレスが異様に肩パット入っているのは、シンデレラの時代の流行なんだってわかるけど、羽を生やす意味が謎。また、シンデレラと言えばガラスの靴。ダニエルが残して去ったガラスの靴を、ヘンリー王子が受け取らずにただただ拗ねているのもまたコメディーだよね。いや、そこはがっついて早く助けに行けよ!

なぜかレオナルドダヴィンチが2人の恋のキューピッドになってくれているのだが、彼はなぜレオナルドである必要があったんだろう…。画家であり、科学者でもあり、発明家でもある彼が、2人の愛を手助けする役目を担っていたというのは、脇役のカラーを際立たせるにはいい効果だった。要は、魔法使いではなく、レオナルドダヴィンチがその変わりだったってことだ。彼くらいの天才なら、魔法使いみたいなこともできたのかもしれないね。

パワフルなダニエルと、心優しきレオナルドダヴィンチ、使用人たちの奮闘が若干コメディーで、楽しい要素。ロドミラたちの憎たらしさ、王子のヘタレぶりの楽しめる、いい仕上がりだったと思う。

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エバーアフター

この映画は一言で言うと、「シンデレラ(努力バージョン)」であった。ドリューバリモア演じる主人公はシンデレラをモデルにした女性(名前はダニエル、だが)。彼女は私のイメージしていた、か弱いが、毎日一生懸命生きていて同情を誘うようなシンデレラではなかった。かなり強い!たくましい!継母や継姉と日々闘っている!私はそんな勝気なシンデレラ像に一気に虜になった。そして、一方で王子様は若干か弱い、、、。それはダニエルがすごくたくましい女性だったから余計そう感じたのだと思うが、ラストのシーンで、王子様ではなくダニエル自らが悪人を退治して自分の身を守ったところなんて、同じ女性としてとても誇りに思った!しかし、高い身分だと嘘を付いていたダニエルを許し、ありのままのダニエルを愛して求婚した王子様もなんたる人格者!ドリューバリモアの初々しい姿を観れるのもこの映画のいいところだと思う。ジプシーの村で王子様と語らうダニ...この感想を読む

3.53.5
  • hearlohearlo
  • 150view
  • 521文字

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