天国に行ってまで人間模様にもまれる
生き返りたいなら死ぬな
まったく同じ日に死んでしまったという8人のメンバー。途中から茜も加えて9人となり、この中で恋愛して成就させなければならないというゲームを神様から課された。しかも、成就した最初の2人だけが生き返り、それ以外は死ぬのだという。こんなおいしい条件つけられたら、そりゃー生き返りたいよね。みんな、死にたくて死んだわけじゃない。凜だって、逃れたくて自ら死んだけれど、それが望みだったわけじゃない。悲しいことが無かったら、生きていたかったと思うんだ。
2人しか生き返れないということで、派手なバトルロワイヤルでも起きるのかなーと当初は予想させる。絵的にも、首が飛んでもおかしくない気がした。しかし、意外にも話は本当にいい話。それぞれが持つ、死んだ理由。そして今持っている感情。ここで出会い、包み隠さず本心をさらして一緒にいれること。生きている間には得られなかったものが、この場で得られたのだ。だからこそ、殺しあうより話し合う。分かり合う。凜なんて、生き返りたくないからここにいるとか言ってるし、おせっかいだけど、仲間意識で救ってあげたくなるじゃないか。
9人それぞれにいいところ、ダメなところを持っていて、死んだ原因は様々だが、それぞれが持っている9通りの心の弱さが読者の心を打つ。そうだよね、こうしたかったよねって共感させるエピソードが満載だ。映画化もされているが、これは漫画原作を読んでから見るほうがいいだろう。
神様の集めたメンバーは特殊だなと思うが、敢えてそういうメンバー構成にしたのだろう。誰でも良かったと言いながら、実に個性的で、人間らしくて、切ない。そんな人たちを集めている。もう一度やり直させてあげたい。そんなの、誰に対しても思うことかもしれないが、この9人は本当にいい奴ばかりだった。
ラブゲームをもっと勃発させて
恋愛させて、シオンを生き返らせることが目的だという神様。揺さぶりをかけてきたり、嘘を言ったり、神とは思えぬ所業ばかりする神だった。その中で、人間たちの方がずいぶんと冷静で、なかなかラブゲームは白熱しない。茜を投入したところで状況は変わらなかった。
神であろうと、心をコントロールすることは許されていない。それくらい、人の感情って怖いものなんだと思う。壊れやすいようで強く頑固で、大きくできたり小さくできたり…それ一つで命を延ばすことも、縮めることもできてしまう。いきなり恋愛しろと言われてできるものでもなく、関わっていくうちに始まるもの。他人が干渉できるのは、出会いだけだ。
その中でシオンは凛に傾いていき、凛はまだまだ恋ができない状況。茜はシオンから簡単に弘に心変わり。もちろん、凛とシオンのことはかなり応援していたが、大樹と静江に関してはかなり切ない状況だった。体の関係性は持ってしまったけれど、下界に遺してきた家族のいる大樹と自分では一緒にはなれないって思う静江が切なくて…いい味が出ていた。アリエルと真の関係のほうがシチュエーション的にもすごく燃えるのだが、カツラ野郎がいてうまくはいかなかったな…。
ラブゲームと言えど、がつがつ攻めることはなく、理解と尊重、そして前進を覚えるためのゲームになっていた。文字通り血みどろの争いでも見てみたかったけれど、これはこれで心に響く、いいお話だ。
最重要危険人物は神様
ラブゲームを始めた神はシオンの双子の兄弟である本当のユアン。彼はシオンを生き返らせて、自分の死を背負って苦しみながら生きていくことを望んでいる、と言った。シオン以外はすべてその引き立て役。たまたま選ばれたメンバーなのだと。シオンさえパートナーと結ばれれば、誰でもよかった。神様って…そんなもんなの?茜とどうしてもくっつけたかった神は、弘と茜を引き裂くために弘が自らブラックホールへ飛び込みたくなるように悪意あるメッセージを伝えた…
しかし、やはりどんな世界にも独断はよろしくないようで、ラブゲームの神のさらに上位にあたるマザーが鉄槌を下す。そうだよね、神だってこんなもんなんだと思われたら、神をあがめる人なんか消え失せるわ。何にも干渉されず、干渉せず、ただそこにいて、見守っていてくれるような、そんな温かさで十分なのに、誰かを貶めて苦しめるような存在なのだとしたら…死ぬことも生きることもしたくないわ。
ただね、もしかしたら、ユアンは敢えて悪役をかって出たのかもしれないとも思う。彼がそうやってシオンを引き留めてチャンスを与えてくれなかったら、恨みと憎しみのまま命が亡くなることになっていた。私利私欲でもいいから、兄弟を助けようとして、こんな行動に出たのだと考えると、とても愛のある行動であると言えるのではないだろうか。だからと言って、他人の命をもてあそんでまでやっていいことではない。マザーが清算してくれて助かったけれど、きっとユアンは完全に消えたかも…シオンのために、この時のために、待っていたのかもしれないね。
女心は秋の空
とにかく一瞬で変わるんだ、女って。シオンのことを大好きすぎて死んだくせに、天国では弘とよろしくやってる。シオンに望みがない・人殺しだってレッテルがついたら、もう手のひら返しだった。そこで凛がちゃんとシオンを見ようとしてくれたこと、本当にうれしかったね。
どういう相手を選ぶかは、人によって千差万別。デブは嫌という人もいれば、デブがいいという人もいる。イケメンが好きだという人もいれば、B級が好きだと言う人もいる。共鳴するものがあれば一足飛びに決まるが、共通点が1つもないことが魅力になることだってある。分けるとすれば、追いかけたいか、追いかけられたいか、という2択だろう。追いかけるのはつらいけれど、少しの楽しいことを励みにがんばることができる。追いかけられるのはもしかしたら楽しいかもしれないが、相手に流され自分で決断する力が鈍るかもしれない。茜は追いかけたい人だったけれど、ただそこにいてくれる弘に安心感を抱き、恋だと気づいた。自分で思っているほど、自分の事は理解できていないものだし、曖昧なものなんだなと改めて気づかされるのだ。
ユアンが起こしてくれたラストの奇跡
9人全員幸せに死ぬのか、それとも2人生き返ってあとは死ぬのか?ゲームの結末はなんと全員が生き返りに成功するというものだった。全員天国での出来事すべての記憶がとばされてしまったが、もう一度やり直すにあたり、心の持ちようはちゃんと変わっていた。前向きに、そしてまた現世で愛する人と再会することを予感させつつ、物語は幕を閉じる。
全員死ななくて本当によかったけれど、それからどうやって出会ったかな、うまくいったかなって心配で…みんな、元気だろうか。幸福すぎる終わりになったが、はじめからいい話ばかりだったし、幸せに死ぬなんていう終わりは最初から用意されていなかったのかもしれない。
きっとユアンが引き合わせてくれて、そしてチャンスをくれた。それは間違いない。そして、ユアンが人の命をもてあそんだと思われることも正しいだろう。特定の人のためにがんばったことは、やっぱり神としては罪なんだろうから。
グロさもなく、ハートフルで、迷える人の応援をしてくれているような、そんな仕上がりだった。死んでしまってから気づくことはできないのだから、生きているうちにめいっぱい想像して、考えて、がんばって逝けるようにしたいものだ。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)