登場人物一人一人に愛着が湧くやり直しストーリー
生き返るためのラブゲーム
ある日目を覚ましたら、そこは天国でした。
同じ日に死んだという8人(後から9人になるが)。同じ場所に集められ、そこで恋愛をし、成就したら生き返れるというこのゲーム。別にやりたくもなかったけど、恋愛の神様のなすがまま、生き返るために「あいのり」状態になっていく。
画の感じから、カオスな殺し合いにでもなるんだろうかと、アリエルと同じような想像をしてしまったのですが、物語はわりとハートフル。間違いをして、傷つきながら、それでも生きているべきだった・死にたかったわけじゃないと気づいていくストーリーなんですよね。映画にもなったくらい、すごいイイ話だと思います。
漫画のいいところは、1人1人にしっかりとスポットを当て、細かな心理描写も動き一つで伝わってくるところですよね。キャスティングによっては、漫画ではこんなにおもしろいのに…!というところを表現しきれないことがあると思うので、やっぱり原作を読むべきだなーって思いました。恋愛って、どう始まるかわからない。嘘なのか、恋なのか、ただの憧れなのか、自分で気づけないことがいっぱいある。こういう恋愛のあれこれは、やっぱりこのくらい人数がいて初めて活きてくるんでしょうね。2人だけじゃ気づけなかったり、失敗してしまうことが多い。
それにしても、神様はなぜこうも特殊なメンツばかりをそろえてしまったのやら…同性愛、過食症、急性アルコール中毒、セックス依存症、事故死に見せかけられた他殺、火の不始末による事故死…毎回紐解かれていく1人1人の生きざまが、本当に切なく、そしてそれを振り返ってもう間違えないと心を改めていく姿に、うっかり感動してしまいます。早くに死ぬ人というとは、それぞれにいろいろな何かを抱えているのかもしれません。
死にたくないけど皆憎めない
主人公は凛ですけど、どのキャラクターも本当に憎めない。それぞれが抱えていたものを、ちょっとずつみんなに打ち明けて、ちょっとずつ仲良くなって。生き返りたいと思うけど、みんなのことも大切に想ってる。そんな中でちゃんと恋愛は芽吹いていきます。女ならだれでもいいとは言えないけど、妙に男性陣は冷静でしたね。気が多いわけでもなく、ちゃんと相手を選ぼうと努力している。ユアン(シオン)だけは別物ですが。
何かと静江、大樹がピックアップされているように思うのですが、できればアリエルと真をもっと深めてほしかったなーって思いました。絶対お似合いだ…確かに、アリエルが太っているから、日本語がわからないから、自分のコンプレックスとどこか重ねて見下していたのかもしれない。真の黒い部分、すごく共感できるんですよ。自分が頼られることが1つでもあることの喜び、それが失われてしまう悲しみ…そんな真を傷つけるのも支えてくれるのも、やっぱり人なわけで。それぞれに満足のいく死に方はしていない。だからこそ、ここでなら、なんだって理解してあげられるよ。自分たちの恥ずかしいところ、すべてさらけ出してなお今ここに一緒にいるのだから。死後の世界に、こんな世界が広がっていてくれたらなー…って、淡い期待すら抱きます。取り返しのつかない失敗をしたけれど、また生き返るチャンスを与えられた9人。どうかみんな生きて…!と願わずにはいられませんでしたね。
神様すら私利私欲
結局、神様の上にちゃんとマザーの神様がいた。このラブゲームを始めた神様は、なんとシオンの双子の兄弟である本当のユアンだった…生き返って、苦しみながら生きていけ。これがユアンの願い。よくもまーそんな願いを押し付けるために、他の死んでしまった魂たちを引き留めてこんなゲームをやってくれるよね。そして、結局はシオンとシオンが選んだパートナーだけが生き返り、他はどうでもいいとか…期待させといてどん底突き落とすとか…おーい、神様もそんな欲まみれでいいのですかー公平じゃなーーい!!弘、どうしてくれるんだよ!!怒らずにはいられませんでしたね。弘がブラックホールに飛び込んで…死んでからまたも死の恐怖を与えるなんて…ひどすぎる。
でも、それを良しとしないマザーがいてくれて本当に良かったですよ。これで神様なんてこんなもん、って言われたら、もう絶対生き返る道ないか、なんとしても生き返るための壮絶な闘いが始まる…!的な流れになってしまい、ハートフルだった物語がバトル漫画へと変貌する恐れがありましたから。茜を入れたのだって、シオンとくっつけるための私利私欲のルール変更だったわけですから、恐ろしいものです。茜は絶対にシオンを好きだからって選んだんでしょうね。でもね、神様。恋はどうなるかが誰にもわからないものなんですよ。茜は弘にどんどん惹かれていく。女の気持ちは神様にだってわからないものだってこと、暗に表現している気がしますね。心の動きは誰にもわからないからこそ怖いし、期待できるものでもあるのかもしれません。
茜の変わり身に驚く
それにしても、茜が…あれだけシオンのことを好きだと言っておきながら、弘を好きになるんですからね。「好き」という気持ちがいかに危ういものなのか、考えさせられますよ。しかも、シオンは凛の方を向いていたからね…そのことを踏まえても、心の安寧の方を優先する女の子だったというわけですね、茜は。
女性の恋愛では、心の落ち着ける相手を選ぶパターンか、反対にどうしても手に入らないような人を手に入れようとして恋い焦がれていくパターンか、大きく分けるとこの2つがキーになっていると思うんですよね。で、追いかける恋は、たいていがつらい道のりです。凛とシオン、弘と茜は、それぞれに似ている・共鳴する部分があって惹かれあっているので、このまま暮らしていれば、わりとすんなりカップルになっただろうなー…
読んでいる途中から、もう9人は死ぬの?死なないの?ということより、どんな人間模様が繰り広げられていくか、どんな答えを出すかだけが気になるようになっていきます。後半に入るにつれ神様の横暴が炸裂してくるため、こりゃー不利な終わり方はしないんじゃないだろうかと。みんなでブラックホールに落ちるっていうダークな展開も、進め方によってはありかもしれないし、生き返る2人と生き返らない7人がいても納得できるような終わりになるかもなーって想像もできました。
最後は物足りないハッピーエンド
いろいろ妄想していたけれど、なんと全員が生き返る…!!それぞれが現世でまた出会うことを予感させながら…
記憶全部とばしてるんだね…そりゃ仕方ないかもしれないのですが、これほど物悲しい気持ちになったのは久しぶりですよ。もう続きが出てほしいと思うような終わり方になってしまいました。全員死ぬことなくやり直すことができて、本当にハッピーなんですよ?天国であった出来事、仲間がいたからこそ、気持ち新たにやり直すことができている、本当に幸福な9人。これ、絶対キャラクター全員に情が湧きすぎて、殺せなくなっちゃったパターンじゃないだろうか。
すごーーく深読みしてみると、実はユアンはみんなを消してしまうつもりなんてなかったのかなとか、考えてしまいます。本当ならやり直せたかもしれない人ばかり選んで、自分を殺してしまったことに悔いているシオンを気遣って、わざと悪者になってくれた、優しい人だったんじゃないかなって…ユアンの独断がなければ、9人は間違いなく命がなかったのだから。こんなチャンスを与えてくれた彼に、感謝せずにはいられませんね。そういうあたりをもうちょっとたくさん見れたら、本当にハートフルだったんですけどね…惜しい。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)