勝手に生きていけばいいけど振り回すのはおかしいだろう
運命ってなんだろう
男にフラれて傷心旅行にローマにやってきた香純。いいなー女一人旅!フォロロマーノって聞くだけで気分が上がってくるよ!そこで、発掘作業のアルバイトをしているという考古学ラブな由貴に強烈に惹かれ、お互い一晩だけって気持ちで体を重ねた。
運命ってこのことを言うのね…!って盛り上がる気持ちはわかるが、由貴には彼女の恭子がいて…香純と由貴がお互いフリーだったらただの恋愛漫画だったし、由貴に恭子がいたとしてもそれはそれでドロドロ劇になる。この漫画はそこにさらに香純と由貴が血のつながった姉弟という設定を加え、よりドロッドロにしている。お互いの素性を知らずにすでに体も重ねており、もうほっとけばいいのではないだろうかと思ってしまったが、周りがとにかく黙ってない。もはやどっちが罪深いのか、わからないくらいになる。
最初、もし由貴が恭子さんのことを一番に愛していたとしたら、こんなことにはなってない。浮気なんかするからめんどくさいことになっている。由貴はしょせん恭子さんを見ていたのではなく、その父親の教授・考古学を極められる環境に恋しちゃってたんだろう。序盤においては、香純に対して多少の同情はできるし、相手に女がいるとか知ったこっちゃないって感じだと思う。“運命”って言えば妙に納得させられてしまう響きがあるが、これは単純に欲望にすぎない。
抑えられない恋の衝動って、一番シンプルなようで一番めんどくさい感情である。そのために全部投げ出してもいいとか言い出す。あなたさえいれば…そんな出会いは万人に平等に落ちてくるものなのだろうか。
ところでいったい一目惚れってどうすればできるんだろう?相手の素性が知れないうちは、怖くて全然関われないよ…カッコいい人だな~かわいい人だな~くらいで限界だよ!そんで、一夜限りってどうやるの?もっと自分を大事にしておくれよ!
血が繋がってないとか繋がってるとか
傷心旅行の一夜限りを楽しんでしまった香純が帰国して、まさか由貴に再会するとは…思わないよね。しかも姉弟として。せっかく出会えたあの人と、結ばれることは許されない…
でも結局無理矢理お互いを求めあうこの欲望。欲しいものを欲しがって何が悪い。そんな声が聞こえてくる。
ちょっとめんどくさいのが、途中で血が繋がってないフラグを立てて、しばらくその方向に進み始めたこと。結局血は繋がっていてただ絶望を味合わせただけになり、この回り道はいったい何だったんだろう…と悲しくなった。血が繋がってないですって言ったら罪にならないし、最初からそのつもりで作品を描いていたのだろうとは思うが、じゃああのめんどくさいやり取りいらなかった…!ってがっくりきたのが忘れられない。
また、親と横から奪い去りたい女もまた嫌なものだった。もはやね、子どもなんかいらないから、ただ一緒にいさせて、愛し合わせてほしいの…っていう願いくらいは許してやってもいいんじゃないの?と言いたくなる。どいつもこいつもうるさい。すでにもう手遅れなんだよローマの時点で。
さらに言えば、香純も由貴も、寂しいときは誰かに抱かれてあっためられて。軽いなー…と言いたい。そんな都合いい事なんてないのに、甘えまくりで、どうなっているんだ!寂しいときに選ぶ選択肢がそればっかりだと思われるのは良くないと思うわ。オトナの判断こそ、欲望まみれだなーと思う今日この頃である。
愛しているのか憎んでいるのか
恭子は恐ろしすぎる。私が愛しているのはあなただし、あなたも私を愛しているはずだって断言するのがすごい。自分に自信ありすぎる。考古学なかったら絶対選ばれてないと思うよ…。確かに、相手が由貴の実の姉だなんて、なんかどうやったって勝てる気がしないのはわかる。でも最後の最後までしがみついているのはキモすぎる。ここまでくるともはや違う生き物のように思えてならない。しかも、相手を徹底的にいじめて苦しめ、由貴すらも苦しめてカゴの鳥状態に追い込み、一緒に死のうとするからね。そうまでして手に入れたい男なの?と問いたい。
かわいそうなのは和樹だ。ただずっと、香純のことを愛してきただけだった。そりゃー1回無理矢理体を奪ってみたけれど、それでも香純の心に隙間ができているときに絶妙に登場し、隙間を埋めてがんばってきたんだよ。支えてやってたと思うし、彼なりにがんばっていた。香純たちの母親にリークしたことも、100譲って仕方なかったと言ってやってもいい。罪な女の呪縛から逃れることができずに、最後には香純をかばって事故で死んでしまう。いや、むしろ恭子が逝けばよかったんじゃないの?と言いたい。和樹は、まだいい人だった。彼は戻ってこれたと思うのに…いい人って早死にするよね。
香純が無理矢理和樹に体を…っていうのも、由貴を思い浮かべながら…という悲しきものだった。どこまでいっても、和樹にとっていいことがなかったね。恭子も和樹も、もはやその気持ちは愛しているのか憎んでいるのかわからなかった。それほどまでに求めるって…恋って、なんだろうね。
怖すぎるのは母親と安藤
母親はね、まーわかるよ。自分が腹をいためて生んだ子が、なぜかお互いに恋愛感情を抱き共に生きたいという。なんで?って思うだろうよそりゃーね。血が繋がってるんだもの、って思ってたのに、全然安心じゃなかった。ただ、そういう状況を作り出したのは間違いなく母親であるあんたと父親が離婚したからなんだよ!ということだけは言いたい。あんたらが一緒に暮らさなくなったから、香純と由貴は血のつながりなんて関係のない出会いをしてしまったんだよ。一緒に暮らしていたら、どうなったかはわからないけれど、姉弟としてここまでこじれることなく生きていったと思う。香純と由貴を離れ離れにさせることを考えてばかりいないで、自分たちの過ちと真摯に向き合ってほしかった。それも最後までなかったから非常に残念。
最も恐怖なのは、安藤。香純と由貴の母親が好きなら、そっちへ走ればいいじゃない。なのに、わざわざ香純に走るって…なに?血のつながりだけでも持ちたいの?マジでキモいんですけど。それを頼む母親もキチガイだ。さらには、香純自体も、和樹を失い、由貴ともなんだかうまくいかなくて、愛のない安藤とのつながりだけを楽しんじゃって…もう全員キモすぎる。罪とか思ってないじゃん。みんな自分の事が一番かわいそうだと思ってるじゃん!!許せないわーこいつら。どっかでこの苦しみが断ち切られる、マシなエンディングを待っていたけど、結局誰一人として心を改心する人がいなかった。人って…そんなもんか。
本当に気が滅入るほどに愛しちゃってるんだね
倫理的にはアウトなんだろう。でも、もう誰も自分たちを知らないところにいって、勝手に生きりゃ―いいんじゃないですか?と序盤からずっと言いたかった。でもそれを許されなくて、苦しんで、苦しみぬいて、そしたらなぜか神様のいたずらが発生。由貴がなぜか死んだ扱いになってしまい、悲しみにくれてもう一度ローマに行ってみたら、まさかの再会を果たすというオチ。パスポートなんだからもっと丁重に扱ってほしい…。愛の逃避行を許されてしまった香純と由貴なのであった。もうこれからは、誰にも邪魔されずに、静かに生きていけるね。よかったね。
最後まで誰にも祝福されない物語だったけれど、最終的にお互いの望む形になってよかったということにしよう。たくさんの人が無駄に苦しんだとしか言えないが、香純と由貴はわざわざ子どもをつくることはしないと思うし、むしろ養子とか引き取って育てて、幸せに暮らしていくんじゃないかな。めんどくさいなーと思いながら、結局はオチが見たくてラストまで読んでしまった物語だった。
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