民族内の階級的対立と闘争が貴族階級の没落によって終わるという、ひとつの時代の終焉を美しくも切なく描いた「大いなる幻影」 - 大いなる幻影の感想

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民族内の階級的対立と闘争が貴族階級の没落によって終わるという、ひとつの時代の終焉を美しくも切なく描いた「大いなる幻影」

4.54.5
映像
4.0
脚本
4.5
キャスト
4.5
音楽
4.0
演出
4.5

第一次世界大戦中、フランス軍のボアルデュ大尉とマレシャル中尉は、ドイツ軍の捕虜となり収容所へと送られる。だが、仲間たちと脱走計画を実行しようとする寸前に別の収容所へ移されることになる。

そこの所長フォン・ラウフェンシュタイン大尉は、同じ貴族階級であるボアルデュ大尉に親近感を抱くが、捕虜たちの脱走計画は静かに進められているのであった-------。

このジャン・ルノワール監督、ジャン・ギャバン主演の映画史に残る「大いなる幻影」は、第一次世界大戦中のドイツ軍捕虜収容所を舞台に、"時代の変遷"というものを凝視した名作中の名作だ。数々の素晴らしい場面がある中で、この作品の核をなすのはドイツ軍将校フォン・ラウフェンシュタインとフランス軍将校ボアルデュという二人の貴族階級出身者だ。

彼らの有する貴族的なるものの"気品と階級意識へのこだわり"が、美しくさえあるのは、戦争の名のもとに貴族も庶民も同一民族という枠内に収められてしまっている時代を見つめ、民族内の階級的対立と闘争が、貴族階級の没落によって終わるというひとつの時代の終焉を感じる彼らの姿に、時の流れとともに終わりゆくありとあらゆるものの存在が、オーバーラップするからかも知れない。

二人のフランス兵が、脱走の最中に一度だけ英語でやりとりする場面や、ボアルデュ大尉が息を引き取る前に二人が会話を交わす場面のセリフなどに滲み出る、貴族階級へのこだわりとその終焉の覚悟には、同時にひとつの時代の終焉までもが見えて来て、ためいきが出るほどに美しい。

しかし、映画はそこで終わらない。時代は常に、次に来るものを迎え入れるのです。民族内の闘争が、完全なる終わりを告げた後に時代はどうなるのか?  まさしくこの作品は、それを予言するかのごとく、脱走に成功した庶民階級である二人のフランス兵の国境越えを、クライマックスとするのである。

この映画を締めくくる、あまりにも有名な「もう戦争はやめて欲しいぜ」「それは君の幻影さ」というセリフが、彼らによって吐かれるのも、階級的な対立闘争が終わった後に待ち構える、より大きな民族的対立、すなわち「第二次世界大戦」を予言していたからである。

その第二次世界大戦が終わってから久しい現在も、民族的対立の終焉は見えて来ない。戦争の永遠の終焉が「幻影」と呼ばれ続けるしかないのだろうかという疑問が僅かでも残るうちは、この名作の持つ意味合いは、製作当時そのままに変わることはないのだ。

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