「お父さんがウザい」という娘の永遠のテーマ
デビュー作がヒット作に
キャプテン翼の高橋陽一氏や、こちら葛飾区亀有公園前派出所の秋本治氏のように、デビュー作が人生で最大のヒット作になってしまう漫画家というのは、私は本当にデビューの時点でたぐいまれな才能があったのだと感心してしまう。
岡田あ~みん氏の作品というと、復刊されたルナティック雑技団の方が記憶に新しい人もいると思うが、連載の長さや実写ドラマ化された経緯を考えると、数字的な意味での最大のヒット作はこの「お父さんは心配症」である。しかも、この作品がデビュー作だという点に、やはり才能を感じてしまうのである。
始めてこの作品がりぼんに掲載された際、とても新人が描いたと思えぬくらい笑ったし、翌月からでもいいので連載を始めてほしいと思ったほどである。
過干渉な父親に迷惑するというのはよくある思春期の女の子の悩みなので感情移入しやすい上に、深刻な話にせず、程よくシリアスに、思いっきり笑いにしている点が共感を呼んだのであろう。
忘れられないセリフの数々
岡田あ~みん氏の作品の特徴に、作中のセリフにインパクトがありすぎて忘れられない言葉やシーンが多く、忘れられないファンが多いという点がある。
もう30年近く前の作品なのにもかかわらず、いまだにツイッターなどでも、多くのファンがこのシーンのこのセリフが良かったなどつぶやいているのが散見されるほどである。
色々なギャグ作家がいる中で、ここまで作中の登場人物のセリフに力を込め、30年近くたった今でもファンの心に強く焼き付けることができる作家というのは滅多にいるものではない。
中でも人気なのが、彼氏の北野が典子に「サザンの力は認めざるを得ないよね」と、ジャパニーズロックのうんちくを披露するシーンであるが、たったこれだけの一見他愛もないシーンなのにもかかわらず、ネットで「サザンの力は認めざるを得ないよね」という単語を検索すると、数えきれないほど、岡田あ~みん関連の記事や書き込みがヒットするほどなのだ。
うぬぼれていい気になっている北野を、その後典子の父である光太郎が知ったかぶるなと言わんばかりに皮肉り、北野を非常に気まずくしてしまうのだが、なんとなく北野の気まずさもお父さんの皮肉りたい気持ちもわかってしまう、妙なシンパシーがあるのが、インパクトの原因になっているのだろう。
名前に「静」が付く妻が亡くなる共通点
お父さんは心配症では、典子の母静子は、病気で亡くなっており、光太郎が男手一つで典子を育てている。よくよく岡田作品を読んでみると、こいつら100%伝説の忍者の先生の妻、お静も、病気で先生より先に亡くなっている。
妙な共通点といえるが、なにか岡田氏にこだわりがあるのかどうかは全く定かでない。岡田氏本人は自分の母親のことをおまけページで面白おかしく描くこともあるので、特に自身の経験を投影しているとか、そういった背景はないようである。
登場人物の名前のリンクや自己の別作品の登場人物とのリンクは、SF漫画で有名な松本零士氏がよく行っている手法であるが、岡田氏もこいつら100%伝説の危脳丸の子孫が、ルナティック雑技団の愛咲ルイであるという設定になっている。静子とお静のリンクも、どこか貞淑な妻のイメージとして、岡田氏が考えている女性像になっているのかもしれない。
娘の心配だけではない。会社での立場も描かれている
この作品を読んだことがある妻子持ちのサラリーマン男性もいると思われるが、妙にシンパシーを感じてしまうことがあったのではないだろうか。
この作品の連載当時の岡田氏はまだ20代と若かったが、妻子ある中年の見栄だったり、親一人子一人で暮らす父親としての健康不安だったり、会社での恐ろしい失敗だったりを、ギャグに取り入れている。話としては笑ってしまうものになっているが、土台として中年男性の心情を良くとらえていて、それを大袈裟にデフォルメすることで、心配「性」なのではなく心配「症」な父親を見事に描いている。
娘の前で見栄を張りたくなるのは、どんな父親でも多少はあるのではないだろうか。また、光太郎が会社の資金の運び屋に抜擢された際、ドジを踏んでお金を盗まれてしまうのだが、いつもは殺す勢いで憎んでいる北野に素直にすがって助けてもらっているのも何だか憎めない。
普段散々な目に遭っているのに、なんだかんだで典子の父を助けてしまう北野の優しさも、お人よしを通り越して温かささえ感じてしまう。
かなり苦労した連載
岡田氏のおまけのページなどのちょっとした暴露話を見ると、カラーページなどが入った別冊読み切りなどがぶつかった月などは、相当作品を仕上げるのに苦労していた様子がうかがえる。
特にアシスタントを雇っていたという記述もないので、一話完結型の読み切りギャグ作品を描き続けることは、本当に大変だったろうと推察される。自分がどんどん描くペースが遅くなった原因として、読み切りの依頼が来た際、自分の作品が面白いから依頼が来たのかと思いきや、編集部で「あ~みんは描くのは速いから」と言われていただけと知ってモチベーションが低下したためというかなりきわどい告白もしている。一体この情報を編集の誰から聞いたのか定かでないが、こういうことも包み隠さずファンに公表してしまうあ~みん氏にも、同時の編集者にも、少女雑誌にしては冒険心を感じ、同時にいい時代だったとも思えるのだ。
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