常識に対しても常に疑問を持ちたくなる物語
小さな問題だろうが学級会で徹底的に論じ合う
主人公は小学生たち。だけどこれは「見た目は子ども・頭脳は大人」状態である。裁判をテーマとして取り上げた漫画にもいろいろあるが、全員小学生(裁判官は幼稚園児)という設定はなかなかない。弁護士も検事も小学生。その裁判の結果には法的拘束力もある…とは言っているが、巻き起こる事件とその判決はかわいらしいものばかり。血の学級会との差がありすぎて、異様にシュールなギャグの響が漂っている。
だいたい弁護する人には天才的な人が配置されるのが定説。この作品の中でもアバクはそのポジションにある。一度も負けたことがないってわけではなくて、ロースクールに通わずに独学で司法試験を突破した、というところと、血の学級会の生き残りだという面で恐れられている弁護士だ。無理に特殊能力を付けたりはしていないので、そこだけは変に現実的な仕様になっている。
小学校の時間割にある「学」の時間は学級会の時間。昔だと学活とか総合的学習の時間みたいなものだったと思うんだが、そこを学糾会と変えているのは考えられた名前だなーと思う。クラスで問題が起きると、必ず弁護士と検事になる転校生が現れるらしいが、そんなめんどくさいことやってたら、弁護士と検事さん忙しすぎて発狂しそう。週に1回そんな裁判されてたら、身が持たないと思うんだけど…そりゃーベビーも中年になりさがるわ。アバクたちは血の学級会の解決の糸口がこの学校にあるとふんでしばらく残ることを決めてたけど、弁護士と検事全体の数はとんでもなく多そうだ。小学生でも試験に合格しさえすれば権利を与える、という世界はまさに最近の世界やなーと思う。
壮大に人の闇を絡めていくストーリー
ストーリーはだんだんおもしろくなくなっていく。5年前の「血の学糾会」の話を早く出しすぎたんだと思う。生徒35名・教師1名の命を奪った大変な事件。その解決にむけて動いていると言うには早すぎた。長く滞在することになったこの学校で、巻き起こる事件は同じクラスばかり。少しは違うクラスでも起こしたら?と思うのだが、学級に1人ずつ派遣されるというルールを守っているためか全部アバクとパインの対決になっている。それじゃーつまらないわ…クラスで起きる事件の種類も低レベルなものが多くて、血の学級会との差がありすぎるんだよね。
そして三舌がこの学校にそろうもの早すぎた。もうこれは早く終わらせるために全部前倒しで出してきていた可能性すら感じるね。アバクと同じ体験をして、そこから弁護士へ這い上がったメンバー。そのすごさは神がかってないと納得できない。
それならと「血の学糾会」の謎解きが始まり、怪しい雰囲気だったてんとが案の定グルになっていて、そこには政府の陰謀も絡んでいた。しかも、オトナの都合で発生し、そしてオトナの都合で葬り去られようとした結果だったことがわかったこの事件。どこまでも子どもを使おうとするこいつらには本当にヘドが出そうだったよ。解決は至ってシンプルで、終わってからは三舌は自由になって旅立っていく。こんなもんでよかったのだろうか…と思ってしまうラストだったし、感動できるものはむしろ普段の学糾会のほうが持っていた。それだけデカいものをたかが学校の生徒たちに押し付けようとする、最低の描写には腹が立った。
画力は違いすぎるでしょ
なぜこの漫画が期待されたかというと、「DEATH NOTE」や「ヒカルの碁」を描いた小畑さんがイラストを描いていると言われたからだ。確かに、アバクたちだけじゃなく一人一人の登場人物たち、そして校内まで、細かなところも描いていたように思う。ただ、小学生っていう設定であること、舞台が学校のみであることなどから、全然絵が際立ってなかった気がする。きれいな漫画のほうが得意なんだと思うんだ。かわいい系はジャンプっぽくはなるけど、おこちゃま用だよね。なぜこの漫画に起用されたの?と疑問視される声も聞かれていたし、もったいなかった。ネット上にはこの漫画に関するコメントが全然ないし、もはや忘れたい過去レベルの漫画になっているのかもしれない。
パインとか、「ふたりエッチ」を思い出させる雰囲気もあって、嫌いじゃなかったんだけどね。小学生だからさー子どもっぽくするのが難しかったんだろう。何より、主人公のアバクの見た目といいキャラといい、あまり応援したくなるようなキャラではないことが問題だ。抜群の特殊能力の1つでもあれば違ったのかもしれないが、「論破が趣味です」って宣言するよりも、あるスイッチが入ると論破する人間に変わるとか、二重人格的な立ち位置がよかったのではないだろうか。推理・謎解きを楽しめたのはもはや第1話だけだったんじゃないだろうかと思っている。推理・謎解きを楽しみたいならほかにもいい漫画たくさんあるからね。
深く考えるとエグさも兼ね備えている
まず第1話で小学生じゃなく担任教師が裁かれる。この時点でインパクトがでかいのではないだろうか。刑は大したことないのでわからないかもしれないが、最初から大人をオトしにかかるのはなかなかシビア。そして、盗撮、命、問題児と言う名の大人つけたレッテルなど、サラッと重苦しいテーマを載せている。きっちり向き合ったとしたら、かなりエグいことになっただろう。それを、裁かれても死ぬわけではなく、学校に貢献する形の刑にまとまるし、アバクすごい!となるわけでもなく。解決してもスルーされているとしか思えないようなつくりになっているから、おもしろくなくなってるんだと思う。中途半端に語るくらいなら、もっとライトな事件を徐々に重ねて、最後に大きく「血の学糾会」を出せばよかったんじゃないかなー。
小学生でも検事・弁護士になれるっていうのは、ただのファンタジー設定だとは思うけど、もしかしたら小学生でもできるんじゃないの?っていうメッセージもあるかもしれないよね。年齢関係なく、むしろ子どものほうが公平な判断をするかもしれない。幼稚園児が裁判官やってるのも、さらに助長するような風刺になっている気がする。ただおもしろくしようとしただけかもしれないけど、そんな文句もつまってそうだ。
てんとに関しては、実は「血の学糾会」の生き残りだってことで…で?って感じだよ。あれを生き延びてどうしたのか、何を選択したのか、そこに至るまでに何があったのかがあいまいで全然おもしろくない。
まだこれからどうなるかわからない第1巻がよかった
「食育」をテーマにした裁判は、小学生にとっても勉強になるテーマだったのではないだろうか。育てて食べるということでありがたみを知ろうとして、育てることで愛情が生まれることも知る。…いい話題だよね。そして、てんとは確かに魚を殺していないけれど何も言えなかった理由、脅迫状の存在、入れ替えテクニックなどなど…思いつかなかったなーというものもあった。最終的にはアバクたちにつけ入るための作戦だったのだろうが、てんとの行動は上手かった。
ただ、これだけは言いたいのだけれど、入れ替えて結局別の同じ種類の魚は殺したんだろう?自分たちの育てたやつは守って、知らない奴は殺してしまっても何の感情も生まれない。これまた注目してみるとシビアな要素だよね。綺麗に着飾ってはいるが、実に疑問も残す。
3巻でさようならしてしまったが、先行きは常に怪しかった。仕方ないなーと思う。次はもっと作り込まれたストーリーに、きれいなイラストが組み合わさってくれたら嬉しい。
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