社会問題を小学生レベルに落として批判
小学校で巻き起こる謎を裁判で裁く
あれ?何かに似ている…?とネットで言われたのが「ダンガンロンパ」や「逆転裁判」のシリーズですね。確かに似ている気もするけど、裁判をテーマにすればこんな感じにはなってしまうんじゃないですかね。弁護士も検事も、被告人を有罪とするか無罪とするかを決めるために、自分の持ちうる知識と証拠をもってして相手を論破することが仕事なわけですから。たいがい、一度も弁護で負けたことがないとか、いつも負け試合だと思われるものをひっくり返すとか、ものすごい経歴がついてくるストーリーが多いと思いますが、この「学糾裁判」では、アバクもそれなりに負けている過去があるようだし、弁護人も選んでいる気がするし。リアルなんじゃないですかね。
で、それを小学校の普通のクラスの時間でやるっていうところがかなり新しかったと思っています。必ず検事と弁護士一人ずつがクラスに転校してきて、その都度裁判を開き、問題になっている被告人を裁く。裁判官は幼稚園児(ストレスに見た目だけが中年オヤジの子ども)。キャラクター設定としてはおもしろく、クラスで巻き起こる事件も食育やいじめ、恋、教師などなど…大人でテーマとするには難しいものを、敢えて小学生が起こしたものとして裁くことで、わかりやすく余計なことなしで単純に考えられる気がしますね。
小学生でも試験に合格すれば検事や弁護士になれる世界。鬼ヶ島小学校という監獄から出て、クラスのみんなを殺した鬼を殺すために弁護士になったアバク。これからどんなふうに犯人を追い詰めていくんだろう…?ワクワクしてきますよね。
政府も絡む壮大すぎるストーリー
ただ、話がマンネリ化した気もします。アバクが5年前に被害にあった生徒35名、教師1名の惨殺事件である「血の学級会」。そこの解決を目指して、犯人と思しき人物が潜伏するこの学校へ赴任して長期間とどまることを選択したアバク。とすると、その間巻き起こる事件はクラスで起こるものばかり。生徒たちの数・事件の規模を考えると、長くはない気がするな~と思っていました。三舌(さんぜつ)と呼ばれる、アバクと同じ体験をした優秀弁護士も早々に集まりましたしね。「血の学級会」っていうのを、最初からネタバレしてたのが良くなかったのでしょうか?もう少し後から明らかになってくれば、もうちょっと長続きしたのかもしれません。
で、途中から早々に怪しい雰囲気を醸し出したてんとがやっぱり政府のグル。実は生き残りは40人学級で4人いた…残りのひとりがてんと、君だったのね。そこからはもうね、わけが分からん感じで、結局は「大人の都合で起きた事件を、子どもを使って隠ぺいしようとした」ということ…かな?そして最後は鬼の呪縛から解き放たれた4人が、これからを生きていくっていう感じで…終わっていいのだろうか。まじで東出君とか、パインとか、何だったんだろう。脇役もいいところで、何か感動できそうなものが芽生えるでもなく、ただいただけじゃん。深ーい話も全然なく…走り去って終わってしまった…政府の差し金とか、余計なの入れなくてよかったのにね。奇怪な人物がいたってことじゃなくて、結局裏で動く大人たちのせいだなんて言われたら、これから小学生はどう生きていったらいいのかわからないじゃないか。
今までとは違った画力
「ヒカルの碁」「DEATH NOTE」「バクマン。」など、数々のヒット作を手掛けてきた小畑先生。といっても、原作は他の作家さんで、イラストが小畑さんが主流というスタイル。今回も同じような形でしたが、相変わらず絵のうまさは光ってました。でも、今までがかなり綺麗な線で描かれる登場人物が多かったのに比べ、今回は小学生が主人公ということもあってかわいい系におさまっています。そして早々に打ち切りになってしまったので、ネット上では小畑の無駄遣いだと騒がれていたのを目撃しました…「バクマン。」以来の小畑先生の作品ということで、前評判はすごかったんですけどね…ネタバレもふくめ、ネット上では全然情報が載ってませんから、相当人気なかったんだろうな…
パインはかわいかったですよ?あと、表紙とかはインパクトある画でした。やっぱり小学生ってのがネックだったのかな。アバクがあんまりかっこよくないので、応援できないんですよねあんまり。三舌のすごさもビシッとは伝わってこないし、キャラクターの個性を考えたらもっと爆発的な印象がないと何とも…いや、個性的なキャラクターを楽しむ漫画ではなく、推理・謎解きを楽しむ物語ではあると思うんですけどね。アバクの暴き方にもっと特徴的な何かがあればまたそれを楽しみにすることもできたのでしょうけれど、まくし立ててしゃべる意外に良さがないもの。そりゃー微妙になっちゃってもしょうがないんじゃないでしょうか。
内容的にシビアすぎた?
扱っている内容が、時代の風刺だったりするのも危うかったのかもしれない、とは思います。教師が人でなしだったり、盗撮や、命を扱うということ、問題児の寄せ集めをする大人、学級崩壊というメッセージなど、「学校」を取り巻く問題がある意味はっきりと描かれているんですよね。小学校という舞台で、刑の生ぬるさで気づかないかもしれないけど、けっこうエグイところがある。それならそのままエグさを出してくれればもっと楽しめたのかもしれないけど、裁きが下ったとしても結局いい話系に持っていくので全然感動もしないのです。裁かれた人間が消えるわけでもなく、別にアバクに感謝するでもなく、恐れるわけでもなく、中途半端に解決してよかったね~で済まされれると物足りないんですよ。もうちょっとなんかあったんじゃないの?って思ってしまうわけです。
小学生でも実力さえあれば検事・弁護士になれるという設定は、年齢関係なく実力主義になってきている時代の風潮である気がします。そしてそれと年功序列の対峙。真面目な目線で見ると、けっこうシビアなんじゃないですかね。
そこに「血の学級会」、そしてその犯人捜しをするという少しダークな雰囲気。だけどこれも結局大人の身勝手が影響しているという、ひねりがあまりない展開。てんとのことを掘り下げきれてないこの残念さ。うーんちょっとずつズレてしまって、面白くなくなってる気がしてならないんです。
これはよかった!というのが1巻だった
ここまで物足りなさを語ってきたわけですが、てんとが食育のために飼っていた魚を殺したんだ…!という濡れ衣に遭った最初に関して言えば、これはなかなかにひねられていたと思うんですよ。てんとが魚を殺していないけど何も言えなかった理由。教師からの脅迫状。実は巧みに入れ替えしていた事実。必死に守るために入れかえたんだね…ってホロリとくるかと思いきや、いや、結局別の魚は殺したんだよね…?っていう矛盾と、実はそれすらもアバクたちの懐に入り込むための巧みな手段だったというもの…最後にこれをつなげてきたのは相当かわしかたが上手いと言えると思います。だから最後まで読んでいったのに、恋やら妬みやら、その他の事件はぱっと見て割とすぐわかってしまう展開だったし、全然ひねりの感じられない展開に…これは悲しかった。
よく言えば、ここらで引いといてくれて助かった、ともいえるかな。今回は残念な気持ちになりましたけど、小畑先生の作品にはいつも期待しているので、どんどん描いてほしいなって思っています。
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