つくることへの愛情が人の心を揺さぶる 人生に爪痕が残るドラマ
類い稀なる良質なドラマ 脚本が秀逸
重版出来という言葉を、このドラマ(原作)で初めて知ったという人も少なくないと思う。出版業界の裏方にスポットをあて、漫画業界の裏事情が満載のこのドラマは、視聴率もそこそこだったらしいけれど、ツイッターではかなりの盛り上がりだったことから、リアルタイムでの視聴率で判断されることが惜しいというか、なんなのそれ意味あるの?と言いたくなるくらい、良質のドラマだ。脚本家は、『逃げ恥』や『掟上今日子の備忘録』などの野木亜紀子さん。原作を丁寧に再現しながらも、要所において原作をさらに深めるような一手が加わって、やわらかく仕上がった『重版出来』。野木さんは『重版出来』と『逃げ恥』で年間脚本賞を受賞されている。『逃げ恥』ブームの割に、『重版出来』があまり脚光を浴びれていないように思う。原作ありきではあるが、漫画ではコマ割りの隙間に、読み手の主観が入る。そこをドラマでどのように演出と脚本で繋いで、しかも説明しすぎず視聴者を誘っていく塩梅どころが見事だった。脚本の功名さと、キャスト、演出、照明さんの職人魂までもが見て感じられる、ドラマチームの愛と努力が結晶化した類い稀なる作品となっている。
ハマり役のキャスト陣 それを支えるスタッフ陣
五百旗頭敬(いおきべけい)役の俳優オダギリジョーさんが、打ち上げパー ティで漏らしたという『やっぱり僕にはあまりドラマは向いていないというか。良いものを作っても数字だけで評価されてしまうんで、それがちょっと合わない です』という発言。会場は一瞬で凍ったというが、オダギリジョーさんがどれだけ熱意をこめていたかを伺い、胸が熱くすらなった。それを言わずにおれなかっ た気持ちも、本当に良い物を皆で作れたからという信念がないと言えない一言だと思う。オダギリジョーさんが演じた五百旗頭役は、仕事への熱さを表には出さず後輩の面倒を見る優しい兄貴役でありながら、濃厚なキャラひしめくなかで柔軟剤の役割でもあった。そんな五 百旗頭がハマり役だったオダジョーに、ドハマりする視聴者たち。オダジョーの魅力だけでなく、主役の黒木華さんの魅力も存分に引き出されていた。1回のド ラマを見ただけで、誰か一人のヒーロー役にライトがあたるでなく、脇役全員がひきたっていて尚カオスとならず見事なバランスで見ていて心地よかったのは、 現場においてキャストも裏方スタッフも全員が一丸となって、ひとつのゴールに向かっている真摯さが滲み溢れているからだと思う。
誰もが心のどこかに潜める闇
毎週、誰かが主人公になるような展開が、毎回新しいドラマを見ているようで楽しめる。ユウレイ君と呼ばれる冴えない営業マン。大御所漫画家に、新進気鋭の漫画家。10年選手の有名漫画のアシスタント。皮肉家でヒール役の先輩編集者。時代の移ろいを見つめながら、現代を生き抜く暑苦しい編集長。会社のために己の運を全部貯めている出版会社社長。などなど、自分では到底そのキャリアになることはないだろう人を通して、どこか学べる要素があったり、自己投影できたり、なぜか毎回ひきこまれて、ドラマを見終わる頃には、励まされたり、癒されたり、勇気が出る。それはどんな職種、どんなキャリアを持つ人にも、人としての感情、事情があり、それはどうしようもなく愚かで愛しいものだったりする。そんな誰の心のなかにも潜む闇を、重苦しくなく愛情たっぷりに引き出されていることに、きっと視聴者の琴線は揺れるんだろう。自分でも気付かなかった(認められなかった)本音に、向き合いたくなるような勇気をこのドラマはくれる。
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