IGLOOシリーズ連邦編! 本作は何を訴えたか?
IGLOO2はファンタジー?
MS IGLOO2である。
第一期:一年戦争秘録、第二期:黙示録0079とジオン公国側の人々を中心に描いたが、本作では地球連邦軍からの目線で、地球圏の話を書いている。
舞台を地上にしたことで、第一期のリアルな戦場モノに寄せているようだが、見ていくほどに違ったテイストが効いていることがわかる。
名もなき兵士たち(便宜上名前はあるが)たちの戦い、戦場の悲哀はたっぷりと描いているが、ガンダムというよりは松本零士の戦場ロマンシリーズを思わせる、男のロマンとか死神というファンタジックな要素も絡んでいるのだ。
第一話では死に魅入られた古参兵、という比喩表現として美しい女性の姿の死神を描いているのか、と思ったが、二話ではスラー軍曹がヤンデル中尉の背後の死神をビジョンとして見ている。
まあ100歩譲ってそこまでもイメージシーンと言えなくはない。
しかし、第3話では死神が実在していなければ成り立たない会話があり、明らかにファンタジーに分類される作品になっている。
本作の評価は、この死神を受け入れるかどうかに寄って大きく分かれるだろう。
個人的な意見ではあるが、私は否定派である。
別作品なら演出の方法として何の問題もないが、ガンダムの一年戦争を扱う作品、しかもリアル志向のこのIGLOOでやるべきこととは、私には全く思えないのだ。
以下で詳細に語る。
今西監督のガンダムへの認識に疑問を呈する
前述したように、死神は戦場に魅入られたキャラクターたちが見る幻影なのか、という雰囲気で一話は進む。
しかし第3話では具体的にアリーヌが知りえない第三者の情報を死神が告げているので、合理的に考えれば死神が実在(?)するか、アリーヌが精神を病んでいて他の人物からの情報なのに死神が話していると錯覚しているか、のどちらかでしかない。
そのどちらでもないとすれば、本作は合理性を考えない、何でもアリの作品ということだ。
今西隆志監督は本作第3話の発売直前のインタビューで死神の存在について以下のように答えている。
URLを表示しておくので詳細は本文を見てほしい。
http://www.msigloo2.net/special/director-interview2.html
実はファースト・ガンダムにだって、異質な要素は内包されてましたからね。ニュータイプなんかその最たるもので、ララァは明らかに霊界通信してますから。
いやいや、そうじゃないだろ、と私はツッコミたい。
ファースト・ガンダムのニュータイプは、それが発生する過程として戦争を背景に描いたのであって、作中で説明されているハードなSFガジェットである。
これがSFだ
実現可能かどうかは別として、ひとつの前提があって科学的に考えうる可能性である、という姿勢を示すのが真の意味のSF:サイエンスフィクションだ。
サイエンスフィクション=科学的創作であり、その科学的説明が無いのものはファンタジーと分類される。
誤解が無いように書いておくが、理化学研究所とかネイチャー誌が納得するような論文が必要と言っているのではない。
フィクションなので作り話には間違いないのだが、視聴者に対して説明している科学的設定が話の核になるのが本来のSFなのだ。
宇宙に行けばSFとか、未来を描けばSFとか考えている人も多いかと思うが、この考察ではそれらはSFではないという前提で話すのでご理解いただきたい。
この前提で言えば、ハリーポッターはもちろんSFではないし、スターウォーズもSFではない。スターウォーズのフォースは何の説明もない不思議力だし、フォースが無くても話は成り立つからだ。(基本的にはEp4~6は御家再興時代劇の宇宙版、1~3は禁断の恋と悪堕ちがテーマ、話のメインにSF性はゼロ)
一方ドラえもんの基本的ストーリーはSFだ。
のび太の不幸な未来を変えるため、その子孫が過去にアンドロイドを送り込んで未来を変える、という設定、これはターミネーターと同じSF的なものだ。(四次元ポケットから出てくる小道具たちはSFなものとファンタジックなものにわかれるので全編がSFとは言い難いのだが…)
そんなわけでIGLOO2はファンタジーでありガンダムの世界に馴染まない
本作の死神は、存在そのものが何の説明もないのに、存在していないと話が成り立たない。
それなのに死神についてはなんの説明もないので、いわゆる魔法っ子メグちゃんとか、妖怪ウォッチのジバニャンと同じ、ファンタジーな存在に他ならない。
それでも本作は戦争のリアルを1stガンダム以上に書いているし、話も面白いし、設定も十分考え込んでいるじゃないか、という人もいるだろう。
私もそれは認めるし、本作の全てを否定するつもりは無い。
実際、このIGLOOシリーズはメカのディテールなどは1stとは比較にならないほど練り込まれており、その点ではよくできた作品だ。
ガンダム=ちょっと不思議な部分がある戦争アニメという捉え方をすれば、本作もアリだろう。
しかし、基本的には1stガンダムは人類の革新=ニュータイプへの覚醒がテーマであって、戦争はそれを生み出す背景に過ぎない、と私は捉えている。
もちろん、人類の革新というにはララァはその範囲を逸脱している。
死後何十年も人々の心に問いかけ続けるという点において、現状の人類を超越しすぎており、行き過ぎた演出ではあるだろう。
しかし、そこは物語の枝葉の演出であって、何の脈絡もなく、何でもアリでいい、というものとは明らかに違う。
本作の死神をイメージとして描くのであれば、全く問題は無い。
戦場とは死と隣り合わせの極限の世界であり、幻や、狂気を描く作品は多々あるだろう。
だがそれは比喩表現であって、死神が存在しなければ知り得なかった事実を実在のキャラクターが知ると言うのは物理的な行為なので、少なくともガンダムの世界では、その死神を存在可能なものとして説明するか、それが嫌ならそのような不思議演出をやらないか、その二者択一だと思う。
ララァが不思議な事やってるから何やってもいい、という理屈は明らかな逃げだ。
例えて言うなら戦争によって技術は発達するのだから、戦争があるのは悪くない、と言っているのと同じだと思う。
技術の進歩は戦争という全体の中の枝葉であって、戦争の絶大な被害を肯定する理由にはならない。
ララァの死後の演出は確かにニュータイプの理論の中で説明されていないが、ニュータイプそのものは概ね説明されている。
死神は何一つ説明されていない。
例えば、トライダーG7や勇者ライディーンのように、最初からリアルを追及していないロボットアニメなら死神を出しても問題ないだろう。
それらの作品なら、面白ければ少々のことは許されるのだ。(死神が活躍するトライダーG7が面白いかは別問題であるが…)
しかし、ガンダムはそうではない。
枝葉の部分では説明不可能な部分はもちろんある。
例えば、ガンダムがジャンプしただけでモビルスーツが飛んだぁぁっ! と驚いている時代に、ハロは推進機関が見当たらないのに重力下でぷかぷか浮いている。
ホワイトベースの大気圏突入時、戦闘で外壁に穴が開くほどダメージを受けているのに応急処置のみでそのまま突入している。
そのように不備やアラは無限にあるのだが、富野氏をはじめとする初期のメインスタッフは説明できるところはしようとする姿勢があるし、間違いや無理な設定は素直詫びを入れる真摯さもある。
ましてIGLOOは一定のリアルを求めてきたのではなかったのか?
脇のちょっとした設定なら気にもしないで流すが、本作では全三話を通じて出てくる需要なキャラだからこそ指摘している。
なにもザクのコクピットのゲージが○○なはずがない、とか宇宙世紀年表と▽▽が1日ずれているとかいうような重箱の隅を突いている訳ではない。
思えば今西監督はガンダムシリーズの0083STARDUST MEMORYにも監督として参加しているが、ここでも意図的にニュータイプは一切触れていない。
それは当時のプロデューサー上田益郎氏の意向であると言われているが、もしかすると今西氏はニュータイプを理解していないのかもしれない。
もちろん本作には良い点もある
画像の美しさは過去2作のIGLOOをはるかに上回っており、動作も滑らかになっている。
日進月歩と言われるCGの世界、前作から2年の歳月を経ての作品なので、技術の進歩によるものだろう。
演出上ではザクの巨大感が半端ない。
戦車や歩兵の目線から見る18mの巨体は圧倒的な恐怖だ、というのが実感できる。
第一話で敵がザク三機と聞いた時の兵士の衝撃が印象的だ。
他のガンダムシリーズなら、1stの前半を除けばザク三機なら大した敵ではない、と安心する所だろう。
しかし、彼らは生身の状態でザクを待ち伏せし、手持ちの発射装置からミサイルを撃つという仕事をしなければならない。
あらゆる動物の本能として、見下ろされるという状態はストレスでしかなく、それが自分自身の10倍もあるものであれば言語を絶するプレッシャーだろう。
ホワイトオーガーやガンタンクなど比較的個性を出したMSも迫力があった。
第3話のガンタンクは少々無双し過ぎる気はしたが、この時点ではもはやリアル路線は捨てていたのは明白なので、画面の面白さを優先したのだろう。
総括すると、IGLOOは戦争描写に関してはリアルを目指したのではなく、リアルっぽいファン受けする画像を目指した。
細かいシーンや演出も、戦場にまつわる話ならこんなのもありそうだよね、という、戦争っぽいものを描いた。
ガンダムは戦争アニメという解釈であり、ニュータイプという概念には関心が無く、彼らからすればニュータイプこそが枝葉である。
そういうスタイルの作品なのだろう。
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