ドライで大人なガンダム 映画としてはテーマの絞り込み不足感あり - 機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKYの感想

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機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY

4.254.25
映像
4.75
ストーリー
3.75
キャラクター
3.75
声優
4.50
音楽
4.25
感想数
2
観た人
3

ドライで大人なガンダム 映画としてはテーマの絞り込み不足感あり

3.53.5
映像
4.5
ストーリー
3.0
キャラクター
3.0
声優
4.0
音楽
3.5

目次

ドライでリアルな戦争を追求した作品?

ガンダムを冠しているが、これまでのガンダムの中で最も大人向けで、ある意味ガンダムらしくないドライな作品、と言えるだろう。

地球連邦軍、ジオン公国軍、両方のエースとその周辺の人々を、片側に寄らず、平等に丁寧に書き、正しい戦争などない、双方に言い分がある、というスタンスで70分が進む。

とはいえガンダム要素を全て排してしまえば、本作は話として成り立つのか? と問うならば、答えは微妙である。戦争の悲哀や狂気は既に語りつくされたジャンルとも言えるからだ。 

戦争のリアルをガンダムで描く矛盾

戦災により、義手や義足が必要な体となっても戦う兵士たち。

補充されるのは年端も行かぬ少年兵ばかり。

殺されたから殺すという憎しみの連鎖。

恐怖とストレスを和らげるための音楽。

戦争を憎みながらも、戦争で人を狩る喜びに魅入られていく狂気。

和平と戦闘の境目が無く、果てしなく続く戦闘行為。

ストレスから逃げるためにドラッグに頼る。

捕虜への尋問と言う名の虐待。

どのシーンも上手く描けているが、全てどっかの映画で見たことがある要素ばかりだ。

本作は基本的には戦争モノである。

ストーリーの骨子はガンダム沿っていながら、ガンダムには関係ない。

新しい解釈など何もなく、ガンダムワールドを借りた戦争悲哀モノという同人誌的作品と言って間違いないだろう。

サイコミュなどのSF的小道具を扱っているがSFでもない。

1stガンダムは戦争という背景から人類がニュータイプに目覚めていく、というテーマがあり、お話の解決も戦争の勝敗よりもホワイトベースのクルーのほとんどが覚醒し、人類の新しい未来が始まる、と予感させる。

戦争はニュータイプの覚醒を描くための背景であり、テーマはあくまでも人類の変革を描くSFである。

SFとはSF的手段で話が解決しなけれならないのであって、SFっぽい小道具を並べることではない。(同じ意味でスターウォーズはSFではなく、御家再興時代劇の宇宙版である)

つまり本作は、ガンダムというジャンルに依存していながらもガンダムではなく、SFっぽいがSFでもない、ありふれた戦争モノ、としてとらえるべきだと思われる。 

そもそもガンダムというジャンルは非常に大きな矛盾を含みやすい。

戦争の悲哀を語る一方、メインスポンサーであるバンダイの意向で、ガンプラが売れる演出をしなければならないからだ。

通常の戦争モノは象徴的に戦車や戦闘機を憧れの対象にしたりはするが、その兵器の凄さを、限られた尺の何割もを使って描いたりはしない。

最終的に戦争モノであるなら、兵器は恐怖の対象でなければならないのだ。

しかし、ガンダムやザクはかっこよさの象徴であり、恐怖は生まない。

その意味では、やっぱりガンダムはどうやっても戦争の悲哀を描ききれないのだと思う。そのガンダムというジャンルで戦争の悲哀を描くのは、どうしても矛盾した行為である、と私は思う。

演出上、秀逸と思う部分

舞台は回想シーンとイメージシーン以外は全て宇宙であり、しかもコロニーではなく、宇宙空間か戦艦内部であるため、どうしても画面が暗くなりがちである。

そこに海のイメージシーンなどを効果的に入れて、画面をリフレッシュさせる演出はシンプルで上手い。

白いガンダムと赤いザクが双方にとってのラスボスであり、これを倒すことが勝利を表す、という展開もガンダムファンの興奮を誘う。

流血シーンが多いのは好みではないが、本作のようなノアール性が高い作品としては必要な演出か。

Gアーマーとサイコミュ搭載高機動ザクの戦いはちょっと冗長かな、とは思うが、まあ許せるファンサービスであろう。

いや、ファンサービスと言うより、単にガンプラの購買促進映像に過ぎないとすれば、スポンサーへのサービスか。

なにしろ戦闘描写は全体に秀逸だ。

同時期に制作された安彦良和のTHE ORIGINよりもモビルスーツの動きが重厚でリアル感が強い。フルCGのORIGINはキレイではあるが何とも軽くて味気ないので、私はどうにも好きになれない。

文句を言いたくなる演出もあり…

最後のジオング量産シーン、本作の中で最大に残念なシーンだ。

サンダーボルトの作品の流れとしては、この後は地上編になるようだ。

仮に次のエピソードがジオング中心に進むのならこれもありかもしれないが、そうでないのなら、サイコザクがジオングに進化発展しましたとさ、という昔話オチにしかなりえず、なんとも同人誌的だ。

せっかく戦争のリアルを書いた意味が、このエンドロールの後の1シーンで見事に失われている。

入れる意味が全く分からない、コツコツ描いた戦争のリアルをぶち壊す、残念な演出であると言える。

単なるガンダムサーガの1シーンとしたいのかもしれないが、もし入れるなら戦争の狂気を物語る映像でもいれた方が良かったのではないだろうか。

例えば手足を切断する兵士が量産されるとか、手柄を立てるために自ら手足を切って志願する兵がいるとかもいいかもしれない。

捕虜になったイオとダリルがついにノーマルスーツなしで顔を合わせる場面で、イオが言う「俺たちは戦い続ける宿命なのさ。戦争は、まだ、終わらない」のセリフで幕引き、これで十分ではないか。

前半でイオが奪取したリックドムを破壊しようとしない、ダリルたちの行動はちょっと理解不能だ。劇中で説明は無かったように思うが、ドライさとリアルな戦争にこだわるこのドラマ作りであれば迷わず破壊すべきだったと思う。

フルアーマーガンダムとサイコザクが、ちょっとスーパーロボット的に強すぎるのも気になる。そのあたりも戦争のリアルとは矛盾する微妙なところだ。

そのかっこよさ=高揚感がイオが言うような「戦争に魅せられていく」という事なのかもしれないが、MS戦はシャープに描かれるだけで、スマートでスタイリッシュなので「狂気」という感覚は薄い。キャラだけが狂気を放っていて、ドラマシーンと戦闘シーンは別の番組を見ているようにすら思える。

要約するならば、モビルスーツ戦はかっよく、何でもありのスーパーロボット的演出をチョイスした痛快作品。

人間ドラマは泥臭く悲惨さを訴えかける戦争映画をチョイスしたリアル思考。

全体の作りとしてはガンダム宇宙世紀シリーズの枠を逸脱しない程度のサイドストーリー、それが本作のスタイルであろう。

結局のところ、絞り込み不足を否定できない仕上がりだ。 

70分とは思えない、見ごたえたっぷり 2ndシーズンも続けてみたい作品

原作は一度読んだだけで読み込んでいないので、どこをどう切って、何をふやしたのかはわからないが、予備知識なしでも十分楽しめる。

(ただし、前述したようにガンダムサーガの一部ではあるので、予備知識なしというのはサンダーボルトについてであって、1stガンダムのアウトラインは知っていないと楽しめない、ということは明記しておこう。

1stを知らなかったらあのラストのジオングは100%謎シーンでしかないだろう)

悪い部分もいろいろ書いたが、70分の中にいろいろと書きこまれており、満足感は高い。

展開が早いので2時間程度見たような中身があり、それでいて主要キャラの関係性などを端折りすぎたとか、書き込み不足の感は無い。

僭越ながら本作に点数を付けるとすれば、70点というところか。

作画面においては概ね原点は無いが、テーマの絞り込みやブラッシュアップ不足がマイナス30点をたたき出すほど残念だった。

若干厳しい採点かもしれないが、2ndシーズンも見るか見ないか、と問われれば見るだろう、という期待感はある。

シリーズ全体でテーマ性を集約して、盛り返すチャンスはまだまだあるだろうから。

今後に期待したい作品であることは間違いない。

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子供も惚れるぞ、大人すぎるガンダム。

見渡す限り、大人大人大人――。テレビシリーズのガンダムは特殊な例を除けば少年が主人公で、大人が主人公のガンダムは劇場版かOVA作品に任せている。主人公以外でも、ギリギリを攻めるゴア表現や、モビルスーツの製造競争といった子供には伝わりにくい物語など、テレビ作品でないことを有意に捉えている。この辺りは、サンダーボルトを見るほどの大人なガンダムファンなら分かりきっている筈だ。このサンダーボルトもOVAから始まったアニメ作品であり、大人向けに属する。それゆえに、出てくる登場人物はみんな大人だ。若い人物も出てくるが、それは1年戦争終盤に出てくるモブキャラの少年兵達くらいだ。1stガンダムを見たことがある人なら、少年兵と聞けば嫌な鳥肌が立つことだろう。先述の通り、劇場版・OVA作品にはゴア表現がある。サンダーボルトでそれを象徴するのが、主人公の一人であるダリル。彼が腕を失くすシーンは、成人を迎えている自分か...この感想を読む

5.05.0
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