子供も惚れるぞ、大人すぎるガンダム。 - 機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKYの感想

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機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY

4.254.25
映像
4.75
ストーリー
3.75
キャラクター
3.75
声優
4.50
音楽
4.25
感想数
2
観た人
3

子供も惚れるぞ、大人すぎるガンダム。

5.05.0
映像
5.0
ストーリー
4.5
キャラクター
4.5
声優
5.0
音楽
5.0

目次

見渡す限り、大人大人大人――。

テレビシリーズのガンダムは特殊な例を除けば少年が主人公で、大人が主人公のガンダムは劇場版かOVA作品に任せている。主人公以外でも、ギリギリを攻めるゴア表現や、モビルスーツの製造競争といった子供には伝わりにくい物語など、テレビ作品でないことを有意に捉えている。この辺りは、サンダーボルトを見るほどの大人なガンダムファンなら分かりきっている筈だ。

このサンダーボルトもOVAから始まったアニメ作品であり、大人向けに属する。それゆえに、出てくる登場人物はみんな大人だ。若い人物も出てくるが、それは1年戦争終盤に出てくるモブキャラの少年兵達くらいだ。1stガンダムを見たことがある人なら、少年兵と聞けば嫌な鳥肌が立つことだろう。

先述の通り、劇場版・OVA作品にはゴア表現がある。サンダーボルトでそれを象徴するのが、主人公の一人であるダリル。彼が腕を失くすシーンは、成人を迎えている自分から見てもショッキングなものであった。

考えてみよう。仮にこの作品の主要人物にアムロやフラウ・ボゥがいれば、このような展開があっただろうか。ジオンを勝たせるために自軍の兵士の腕を切断して、戦闘に向かわせようという惨い展開が。正直、冷静に聞いていても気が狂いそうな話だ。

ガンダムシリーズは、普通の少年が戦争に巻き込まれる展開が多く見られる。しかしサンダーボルトにそんな人物は出てこない。ゆえに、まともな感覚が抜けきってしまっている兵士や上官達だけが残っているこの舞台では、とても恐ろしいことがいとも容易く行われてしまう。少年というセーブ役がいないとはそういうことだ。

子供がいないのであれば容赦はしない。サンダーボルトはそういう作品だ。戦争が正しい行為なのかどうかは関係ない。主人公のイオもダリルも、相手を殺すことを主に考えている。倫理の問題を提示されると少々困るが、子供の出てこないこの作品で綺麗事を述べる輩がいきなり出てきても逆に違和感が残る。

寧ろこの作品は、子供がハマる可能性も大いに残されている。偏見が含まれているかもしれないが、現実の子供は綺麗事を忌み嫌う傾向があったりする。そんな子供が比較的現実的なサンダーボルトを見つけようものなら、すっかりこの作品の世界にのめり込むようになるのではないだろうか。

音楽から違う。醸し出される大人の雰囲気

大人向けのガンダム作品は数あれど、他のシリーズ作とは明らかに違う要素がこの作品にはある。

作品を彩るジャズだ。イオはジャズが大好きで、戦闘中でも所かまわず音楽を流し続けている。それは本編内のBGMにも取り入れられ、これまでのガンダムシリーズには無い異色さを見せている。これまで戦闘中にジャズが流れたガンダムがあっただろうか。自分はシリーズを全部見るほどガンダムが好きなのだが、それゆえに全てをすぐには思い返せない。とにかく、戦闘中のジャズと聞けば真っ先に思い出すようになったのはこのサンダーボルトのみだ。エンディングもジャズで締めくくるというだけあり、どれだけジャズにこだわっているのかがよく分かる。

ジャズだけではない。女性ボーカルのポップスラブソングも頭の中で鳴り響いて止まない。こちらはダリルがよく聞いている曲。この作品で印象に残る曲は、とにかく大人な曲なのだ。

では、これらの曲が子供を敬遠させるのか、というとそうでもないように思える。人間とは、未知の領域に足を踏み入れたくなる生き物だ。子どもの好奇心が、これまで見ていたアニメ作品とは違う、異様な雰囲気に食いついてくことだろう。

戦いは終わらない。それは歓喜か、恐怖か。

ディセンバースカイで、主人公同士の戦いはジオン側のダリルの勝利で一応の決着はつく。だが皮肉にも、戦争に勝利したのは地球連邦であった。

捕虜となっていたイオも無事に脱走する。四肢が欠損しているダリルに負けて絶望していたイオも、ダリルとの再戦という野望を内に秘めて歓喜する。

一方のダリルは、宿敵に勝って報われるどころか、ジオンの敗北という最悪の事態に見舞われることに。両者に待っていたのは、両極端な結末であった。

この二人を見て、自分には二つの感情が芽生えた。「まだ二人の戦いが見れる」という喜びと、「戦争は終わったのにまだ続く」という恐怖だ。どこか二人の主人公の感情とシンクロしているように思える。

サンダーボルトの戦闘シーンのクオリティは凄まじかった。サンライズの第一スタジオが作っているということもあり、歴代ガンダムシリーズの中でもトップクラスに値する。なので続きを予感させる終わり方は期待に胸が膨らんだし、実際続編の製作が決定してとても嬉しかった。

一方で、人為的な四肢欠損兵器という驚異的なまでに惨い描写をやりきったサンダーボルトだ。続きがあるということは、更なる惨い描写が待ち構えていることを覚悟しなければならない。次は誰が絶望して、誰が血を流すのか。怖いもの見たさ半分で楽しみである。

最後のイオとダリルの表情を見て、子供はどう思うだろうか。「いいぞ、もっと戦え!」なのか、「戦争って怖い……」なのか。

いずれにしても、子供にそのような感情を抱かせられた場合は、製作陣も想いが高ぶる筈だ。サンダーボルトのモビルスーツとパイロットは、ガンダムのゲーム作品に既に参戦している。ここから興味を持った子供達がサンダーボルトの世界にのめり込んでくれると、自分としても嬉しい。

サンダーボルトは、大人の要素を追求した結果、子供も惚れるほどの極上作品に仕上がった。もっとこの作品の知名度が上がって欲しい次第である。

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3.53.5
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