モヤモヤの残るラスト
ハラハラ読ませるが、ラストが残念
内容は一人の男性朔也を軸にした、妻の英利子と愛人美月の物語です。
序盤から中盤までは、先の展開が気になり、非常に面白く読めました。平凡な主婦の英利子の、平坦な日常への膿んだ気持ちや、夫に対して小さく我慢を重ねている心理もよく描写されており、感情移入して読むことができました。
また、愛人である美月の、不倫をいけないことだと分かっていながらやめられない気持ちや、友人の結婚を目の当たりにして焦る気持ち、年齢からくる将来への不安感もよく描けていて、もう一人の主人公として成立していたと思います。
二人の間に挟まれた朔也は、どちらにもいい顔をしようとする、典型的な不倫男として描かれており、その心理描写はセリフ以外で一切描かれないため、読者としてはその行動にイライラ、ハラハラさせられ通しでした。
中盤では、朔也と美月の不倫が原因で、英利子は離婚することになります。
正直ここまではストーリーに説得力があり、面白いと思います。
しかし、終盤への畳み方がご都合主義的で、なんともモヤモヤの残るラストだったと感じてしまいました。
不倫した側に有利な最後
ラストのモヤモヤ感の原因は、離婚原因である朔也と美月の不倫への制裁がほとんど無いことだと思います。
朔也が不倫を告白、離婚を言い渡すまで、英利子に妻として落ち度らしい落ち度はありません。
確かに家庭は冷えているかのようですが、それも夫である朔也が深夜まで帰って来ないことが原因です。しかも、後から発覚しますが、それも仕事と偽っての不倫でした。
また、英利子は過干渉な義母から、出産や義実家との同居についてのプレッシャーを与えられており、それに堪える一面も見せています。
それを英利子が訴えても、朔也は我関せずの態度で全く妻を守りませんでした。
また、離婚の話し合いの席で、「子供を作ろうと思っていたのに、拒まれた」と朔也が主張しますが、新婚当初、それを拒んでいたのは朔也の方だったことも明らかになっています。
つまり、日常生活で我慢を強いられていたのは英利子の方であり、何も悪くないのです。
しかし、夫は若い女と不倫をし、離婚を迫ります。
これはもう読者としては、夫にも愛人にも、それなりの制裁が下ることを期待してしまいます。
しかし、結論としてはあまりスッキリしないラストとなってしまいました。
離婚後に英利子が夫に請求したのはたった200万円。愛人の美月に至っては「ネイル代」の2万千円のみです。マンションも手に入れることはできませんでした。
社内不倫ですし、英利子との結婚の仲人は部長なので、人事的に制裁されるのかと思いきや、おとがめなし。出世コースを朔也が外されることも、美月が同僚から浮くこともありませんでした。
また、過干渉な義母との今後や、結婚してすぐに予定された義実家との同居に暗雲が立ち込めるのかと思いきや、特に波乱もなく。
これでは美月は不倫略奪婚して、義実家に家まで立ててもらったラッキーガールではありませんか。
まだ英利子と朔也の生活が決定的に破綻していれば納得がいくのですが、そういった描写もここまでないので、妻側に感情移入した読者としては、後味の悪いラストだと思ってしまいました。
旦那のキャラクターに整合性がない
もう一つこの作品の読後感が良くなかった原因は、朔也のキャラクターが序盤と終盤で違うように思えてしまうことです。
朔也は序盤では、妻に対してはコミュニケーションをあまり取らず、家にも深夜に帰宅するような夫として描かれています。
義実家と妻が折り合いの悪いことを知っていながら、妻を援護することもなく、面倒事はごめんというスタンスを取ります。
また、知人との会食を勝手に決めてしまったりと、妻のパーソナリティーを尊重する夫では決してありません。
一方不倫相手の美月にとっては、甘い言葉を上っ面だけ囁くものの、結婚にも離婚にもはっきりとした行動をとりません。
不倫相手の美月には、おいしい所だけを求めて、それ以上の関係に発展することには、曖昧な態度を取ります。
そうした、妻にとってはコミュニケーションの取れない夫、愛人にとってはズルいどっち付かずな男として、朔也は描かれています。
ところが、終盤で美月の妊娠が発覚するや否や、朔也は急に美月との結婚を決めてしまいます。
そして五年後の後日談では、意外にも子煩悩ないい父親になっていたり、偶然再会した元妻の英利子をイベントに招き、謝罪をしたりします。
なんだか序盤でグダグダやってた、人の気持ちが分からないこの男の急な変わり様に、正直「キャラクターが変わっている…」と強引なものを感じてしまいました。
五年の時を経て改心したんでしょうか…。しかし、30歳を過ぎた大人が、急にいい人になる訳がないし、まして義実家にいたら緊張感はもっと無いんじゃないでしょうか。
序盤では少なくとも義実家同居に向くような夫には書かれていませんし、最後だけ都合よい夫になっていて、モヤモヤしました。
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