命のリセット
戦争
佐藤は、人の命をゲームのように、躊躇も容赦もなく殺しまくります。まるでゲームのように。それが大量殺人であればあるほど、佐藤のテンションは上がり笑いが止まらない。残虐だけれど、私は佐藤の時折見せる子供っぽさが好きです。佐藤にとっては、全てがゲームで、そのゲームに勝つ事しか目標がない。最初は亜人の人体実験に怒っていたのかも知れないけれど、どんどん大掛かりな仕掛けをして殺していく内に、そんな恨みつらみは消え、ただひとつ「この国を統治する」目標だけに絞られ、戦い、殺していくのに、突然「疲れちゃったよ」と言って戦うのをやめたり、ある程度手応えを感じた時に戦う事に飽き、現場を放置して田中に丸投げする所や、突然キレる所は、究極のアダルトチルドレンだと思う。そして、永井との決戦だけを楽しみにして、待っている時のセリフ「永井君、来るかなぁ......」。まるで友達を待っている子供のようなセリフです。佐藤の残虐さと、子供っぽさはこの上ない、見応えのあるキャラクターだと思う。おじいちゃんなのに、恰好良く、頭が良く、強く、冷静で言葉は優しいけれど、恐ろしい男。私は永井よりも佐藤が好きです。
テーマ
登場人物の様々な性格が、現代社会そのもののように、私の目には映りました。大きな敵には、手も足も出ない警察。特殊部隊も意味がなく、様々な連携を取っても佐藤には歯が立たない。冷静な永井もムードメーカーで頭の悪い中野も、その辺に居そうな人物。永井の亜人がよく言う「あぁめんどくさいなぁ」。これが、誰しもが心に思っている日々の出来事に対しての本心だろうと思う。生きる事を面倒くさがっている人は現実的にどのくらい隠れてるだろう。
口にする言葉と、心の中で思っている事の違い、そして、亜人が本当の本音で、人間は結局の所、自分さえ良ければ良くて、暴れたくて、誰の言うことも聞きたくないのかも知れない。人間の裏の部分を上手く描いているなと思う。田中のように、佐藤側に付いていても、わずかな良心が顔を出したり、奥村のように、どちらに付けば自分がお得なのかを計算している人。佐藤のように、現実とゲームが一緒になり、おかしくなってしまう人。作者様は、この現代社会を考えながら人の醜い部分を上手くテーマにして描いていると思いました。
リセット
当然の事ながら、人間は死んだらおしまいです。人生や命にリセットは効きません。そして、死んでも死なない亜人。それはそれで苦しいと思います。死ぬ苦痛から、また目覚めて生きてしまうのですから、死ねない恐怖との戦いです。もしかしたら、佐藤をあれだけ強くしたのは、恐怖心からかも知れません。ピンチになったら、躊躇なく自分の頭を撃ち抜いてリセット。死ぬ練習を何回したのでしょう。首吊りは楽だとか、水死は苦しいだとか、痛みや死に対する恐怖が無くなるまでとなると、どれほどの練習が必要なのか。死に対する恐怖を克服した人間は、最も強いんだと思いました。だから、人間は亜人に勝てない。でも私は不死身なんて絶対に嫌なので、相手が佐藤なら真っ先に殺されたいと思いました。私はリセットなんて、いらないです。
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