静かに忍び寄る恐怖
ヒッチコックの「鳥」
まず「鳥」というシンプルで直球なタイトルに惹かれます。ダフネ・デュ・モーリアの同名短編小説を、ヒッチコックが良く映画化にしたと感心しますし、動物パニック映画のパイオニアとして、非常に重要な立ち位置の映画でもありますね。
初めて「鳥」を観た時は、複雑な人間模様は個人的に要らないかなと感じていました。ですが気になる男性を落とそうとするメラニーと、子離れしない母親リディアの関係性、鳥が人を襲うのはメラニーのせいだと考えるレストランにいた子連れの母親など、人間が持つ心の弱さなどが、鳥という生物から次第に垣間見られる物語は少し怖かったです。鳥が人を襲うのは、そういった他人の迷惑を考えず、自分勝手に行動する人たちを「鳥」という自然の驚異で懲らしめたいというヒッチコックの思惑があったのではと思ってしまいました
ミニマムな世界観からの世界終焉を予感させる
この物語は1つの田舎町で起こる恐怖を、淡々と描いている点を評価したいです。BGMも全く無い珍しい映画で、逆にBGMが無い方が恐怖を想像で掻き立てることに成功しています。鳥の襲撃から一軒家に立て籠もり、ラジオなどで状況を確認する閉鎖的な環境は、外の状況を映さないことにより、緊張感を上手く演出していました。この演出方法は、さすがサスペンスの神様と言われるヒッチコックだから出来たと思います。
小さな世界観だから恐ろしくない訳ではなく、カラスが1羽また1羽と静かに集まるシーンや、子供からお年寄りまで無差別に襲撃する鳥たちは非常に不気味で、画面を覆い尽くす鳥たちの映像は、1963年制作の映画とは考えられません。
最大の恐怖は理由が分からないこと
鳥が人間を襲う理由が全く分からないことも怖いです。一応原作では、鳥の食糧難という原因があるのですが、映画では最後まで理由が語られずに終了します。
また人間を襲うにしても、鳥たちが決死の覚悟で襲っている点にも注目で、血だらけになってもガラスを突き破ろうとする鳥など、そこまで命を顧みない鳥たちは、やはり人間に何か恨みがあるのではと感じています。
劇中で、アマチュアの鳥類学者が世界には千億以上の鳥が生息していると語っていましたが、もしその千億羽の鳥たちが、一斉に人間を襲うことがあれば大変なことになります。もしかしたら生態系のトップが人間ならば、人間の位置が鳥に変わることもありえる大変考えさせられる映画でした。
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