じわじわおもしろくなってくる戦争への問題提起
はじめは全然おもしろくない
1巻を読み始めてみた当初は、全然おもしろくないんですよ。よくわからないが、ヨナという戦地に生きるしかない少年を、武器商人として世界中を飛び回り武器を売りさばくココが拾い、一緒に生きていこうとするわけです。恋人とかそういうのではなくて、人間として、お互いを気に入っていく。様々な商談があり、1つ1つ、常に命の危険にさらされている仕事。うまくいっても、決裂しても、どちらにしても殺し合いをしています。ココの仲間の素性も知れないし、これ最後まで読めるんだろうか…?って不安でしたよ。画もうまいんだか下手なんだか…という気がしてなりませんでした。ところが…3巻くらいから、妙に楽しくなってきます。大きくは、「戦争というものに対しての反乱がこれから起こることが予期できた」ということと、「ヨナとココたちが家族になっていく様子に温かみが感じられた」ことの2つが大きかったと思っています。
武器によって家族を、仲間だった子どもたちを殺されてしまったヨナ。彼は、武器を憎み、戦争を憎み、それでも世界を好きだと考えていた。なぜなのかわからない、というのが子どもらしくて、知らないからこそ期待をしないこともできるし、無限に期待することもできるんだよなーって考えさせられました。一方のココは、大嫌いな世界を変えたいとの狂気にも似た気持ちを持ち、武器商人として確実に金をパイプを作りながら、「ヨルムンガンド計画」へと着々と計画を進めていきます。今までの商談1つ1つがこの計画につながっていたことが明かされたときの衝撃ね…ココが殺しの場で見せる笑顔は、人を殺す喜びや、自分の命が危険にさらされることへの快楽でもなく、1歩1歩世界平和への道を歩んでいることを確かめながら生きているからこそ、にじみ出るものだったのかもしれませんね。
「武器」を売る人間の立場から戦争を考える
戦争っていうものをテーマにするとき、たいていは自分の国と相手の国、味方か敵かの二択しか与えられていない。そして、そのどちらが正しいのかとも言えずに、自分を正義と信じて戦っていくわけです。戦隊モノのヒーローのように、人情味あふれる主人公がいたりすると、なぜかそういう優しい国を応援したくなる。まったく違う見方が出来れば、もしかしたら悪は自分であったかもしれないのに、信じる道・信じてきた道を曲げられずに最後まで貫くわけです。ただ平和で、幸せでありたいと願っただけなのにね…一度始まってしまったら、許すことも、引くこともできない。引いたら隙を狙われるに違いない。疑心暗鬼の渦にのまれていく、哀れな人間です。
そういう姿を客観的にみれるのが、この物語に登場するような第三者、武器商人のような人です。どちらの側にも必要で、恨みと恨みの間にいる人間。とんでもない金を持つことのできる唯一の存在。彼らにとっては、ご飯を食べていくために戦争はなくてはならないわけです。戦争があるからこそ、武器が売れる。武器なしに生きていくことなど、もはやこの世界においては考えられないのだから…ここにメスを入れようとした、ココはすごいと思います。自分の損得ではないんです。そもそも戦争をなくしてしまいたい。そう願って行動を起こした彼女は、間違っているって言えないんですよ。殺しの連鎖を断つための殺し。矛盾しているのかもしれない。なのに、希望も見いだせてしまうんです。もはやそれしか方法はないのかも…とすら考えてしまいます。
「子ども」であるヨナがヨルムンガンド計画を受け入れるまで
でもヨナはこの計画に賛同できなかった。自分が生きるためにあれだけたくさんの人を殺してきたというのに、彼はまだ迷っていたんですね。今までの殺しは、ココという自分を拾い上げてくれた人、居場所をくれた仲間を守るためだったと正当化できた。だけど、ヨルムンガンド計画は、70万人の犠牲の上に完成される世界平和…もはやスケールが違う。大人たちは、それが誰かの命を奪うとしても、その後の希望につながるはずだと信じて迷わない。だけどヨナは、武器が死ぬほど憎いのにそれなしには生きられず、それなしにはココたちには出会えなかった少年。どちらかといえば、今までの殺しを正当化してきた子ども。今までココたちが彼に見せてくれた世界は、どんなに血みどろでも最後は笑いがあった。だからヨナはそこにいるために行動してきたんだと思うんですよ。罪なき人の命は奪っていないっていうプライドが絶対にあったはず。敵の中に子どもが居たりすると、逃がしたりもしてたしね。優しいのよ、ヨナは。
ココの計画に賛同してしまったら、自分が守っているつもりになっていた人を、殺すことになる。それが子ども心にずっしりきちゃったんだろうなーと思います。いったんココたちのグループから抜け、キャスパーのもとで2年働き始める…このあたりの演出、おもしろいですよね。はいそうですかって返事一つで決めちゃえるような簡単な問題じゃないんです。その2年で…ヨナはわかってしまったんですよね。武器が完全に悪であると。ココたちを信じたい気持ちもあっただろうし、2年で目の当たりにしてきたものが本当にひどいものだったのだろうし、もはやヨルムンガンド計画が希望に見えたのでしょう。
何かを犠牲にして何かを生む
「鋼の錬金術師」みたいだけど、等価交換の法則ってやつは本当だなって思います。何かを得るために、時間を犠牲にして努力することもそう。お金でモノを得ることもそう。人は太古の昔から物々交換をし続けてきたわけです。価値あるものを模索し続けてきた。ただ、人の命だけは同等のものがないと言い聞かせた。愛だけは、プライスレスだと信じた。そうでなければ、なぜか人間が人間ではないような気がしてきますから。しかし戦争においては、兵士の命の犠牲の上に、勝利国の安全・名声・金が保証されるんです。矛盾のかたまりだよね、人間って。
この漫画の中に登場する日本は、やっぱり「安全」な場所として描かれています。戦争に直接参加しない国。なのに技術と、お金を持った国。核戦争により、戦争の恐ろしさを身に染みて感じているが、戦争がお好きな国々に守られた場所…とても不謹慎だけれど、私たちは、日本に生まれて本当によかったなーと痛感するよね。そりゃー恨みつらみと欲望の果てに人殺しする人はいるんだけど、国をあげて人殺ししようってことは起きてない。平和ボケした豊かな国。これから日本は戦争するのかな…?って考えただけでこえーわ。今のところ、兵士になろうとする日本人はとても少ないと思う。「お国のために~!!」「国の誇りが~!!」とかマジでくだらない。世の中個人主義だ。
その後の世界は…
2年の間、ヨナが戻ってくるのを待っていたココ。そしてヨナは戻ってきます。ヨルムンガンド計画がスイッチ一つで発動されるんですね。しかし、その後の世界は描かれていません。結果、振り返ってみれば、この漫画はヨナがこの計画を認めるに至るまでを丁寧に語った作品でした。ヨナの笑顔はみれたけど、嬉しい気持ちにはなれなかった。どちらかといえば、そうするしかなかったことが悲しかった。読者に虚無を残す物語だったのではないでしょうか。
もちろん、アクション漫画としてはかなりのクオリティだったように思います。戦闘シーンは白熱してましたし、ココ率いる精鋭たちは手練ればかりでかっこよかった。ここはおもしろいと思います。序盤の背景情報の少なさ、武器商人という世界観の難しさは難解でしたが、最終的にはかなり深みのある話でしたね。いろいろ考えさせられる物語だったし、いろいろな人の考えが入っているヨルムンガンド。共感できることは、ココやヨナが願ったように、この世から武器がなくなればいいなということですね。
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