そのラストは衝撃的であり、謎の深い映画
非現実なテーマながらあふれるリアリティ
独特のあのオープニングが好きだ。「12モンキーズ」は昔に観た覚えがあるのだけど、最近ドラマでリメイクされているのを観て、もう一度観たくなって借りてみた。
古い映画を観てよく思うことがある。映画には最先端の映像技術やトリックなど必要ないということ。もちろんそれで壮大な映像を楽しめるし、それはそれでいいのだけど、だからといってその映画が本当に心に残るのかと言えば違うと思う。この映画もそう思った映画だった。人類滅亡とかウィルスを撒くとかそういうSFサスペンスの要素もあるのだけど(パッケージの裏はそういう文字が躍っていて、若干の安さは否めなかった)、そういった血なまぐさい映像はほとんどない。にもかかわらず、最後までどうなるのか気が抜けずに観られるということは、SFやタイムトラベルといった非現実なテーマながらリアリティが感じられ、テーマの軸がぶれていないからこそだと思う。
ブラッド・ピットの狂気の演技
私自身ブラッド・ピットにさほど思いいれがあるわけではないのだけど、彼の出ている映画はよく観ている。「リバー・ランズ・スル・ーイット」や「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」その他様々な映画があったけど、やはり一番印象に残っているのは「セブン」の彼だと思う。同じような時期にこの「12モンキーズ」を観たはずなのにあまり覚えていないのはどうしてなのかさっぱりわからない。この映画の彼の演技は他とは全く違い、精神の安定しない狂気の中に生きる男ジェフリーを演じている。この狂気の演技は、瞬きも少なく瞳孔の開いたような瞳が印象的で、こういう演技もできるのかと思った。でもあのようないわば特徴のある演技は、演じる方からしたら楽しいのかもしれない。むしろ平凡な人間を演じる方が難しいだろう。そういう意味では、ブルース・ウィリス演じるジェームズのほうが難しいのかもしれない。
まるで狂気が伝染していくような
冒頭のあたりは特にブラッド・ピット演じるジェフリーの狂気が特徴的に描かれている。しかしストーリーが進んでいくうちに、タイムスリップした先々での経験から自らの正気を疑いだしたジェームズの狂気の描写になり、それから、初めは何も信用していなかった精神科医キャサリンのジェフリーの話を信用せざるを得なくなっていく様の狂気となり、まるで次々にそれが伝染していくような感じを受けた。ジェフリーと一緒に入院していた時のジェームズはなにか普通で、どちらかと言えばジェフリーの存在感に圧倒されているような感じだったけど、彼から離れた途端ブルース・ウィリスの演技がどんどんキレが良くなってくる。誰も信用できなくなっていくところや、地下に住んでいるからこそ感じる空気のおいしさや音楽に対しての異常な執着、その全てを違和感なく演じている。
しかしこの映画ではブルース・ウィリスは正直あまり素敵ではない。がっしりではなくぽっちゃりしているし、頬の肉も垂れている。この映画の後の「フィフス・エレメント」ではやっぱりブルース・ウィリスかっこいいなと思える体型と顔立ちだったので、今回のこれは役作りだったのかもしれない。
そして正直、精神科医のキャサリンを演じたマデリーン・ストウは前半あまり存在感を感じなかった。ブラッド・ピットとブルース・ウィリスという2人の大俳優に挟まれて、正直大抜擢でないかと思ったくらいだった。しかしそれが後半、彼女もまた狂気の様を見せていく演技は素晴らしかった。また最後の、ジェームズが息を引き取る時に子供時代の彼を見つけた時の表情は、役柄を完全に自分のものにしていないと出来ないものだと思う。泣くでなく微笑むでなく、なにか聖母のような清らかな優しさを感じた表情だった。
デヴィッド・モースの素晴らしい演技
この映画での彼の演技は、肝になっていると思う。私は「コンタクト」での父親としての彼のような、優しさにあふれた演技ばかり覚えていて、このような演技をしているところを知らなかった。キャサリンの講演にサインをしてもらいに顔を出した時に、状況を気にせず得々と自分の考えを語るところとか、博士と話しているときの表情とか、全てが見事に気持ち悪い怖さがある。この気持ち悪さを感じたのは、「ゆれる」の香川照之と、「LOST」のウィリアム・メイポーザー、ちょっと違うけど「セブン」のケヴィン・スペイシーとか色々いるけれど、このリストに是非彼も加えたいところだ。空港のエックススキャンをうまくすりぬけ、生体(ウィルス)の入っている器を保安検査場で働く人の鼻先で開く時の表情とかが、少し鳥肌がたったくらいだった。ブラッド・ピッドの狂気の演技も良いけれど、彼に比べたら若干分かりやすい演技なのかもしれない。それくらい彼の演技も印象的だった。
分かりにくかったところとラストの謎
何回も観ている映画でない以上、どうしてもわからなかったところも多い。まず、キャサリンがジェームズが未来から来たことを信用せざるを得なくなる写真がある。あのような写真をいつどこで手に入れたのかということ。そして壁にたくさん貼り付けられた写真の謎(そこからジェームズの写真を取り出していたので、すべて関係性のある写真でないかと思ったのだけど)や、たくさんの本の意味。ジェームズのために調べていたのか、それなら何を調べようとしていたのか、それまでにその描写がなかったので、いつそれをやっていたのだろうと疑問に思った(とはいえ展開のテンポがよすぎて、そのような疑問に気付くのは観終わったあとなのだけど)。
あとジェームズが何度も繰り返し見ていた空港での夢。夢ではジェフリーだったけれど、実際にはドクター・ピータースだった。これは彼のことを知らなかったからというだけの理由でないと思う。ジェフリーに出会うまでもその夢を見ていたのだから。ただの夢だからそこまで追求しなくてもいいのかもだけど、変装したキャサリンも出てきたので、そこには何かしら込められた意味があるはずだと思う。そのあたりがどうしてもわからなかった。
この映画で面白いのは、ジェームスがタイムスリップするのは「ウィルスを止める」のが目的でなく、「ウィルスがどこから発生するのか」を突き止めることということにあると思う。タイムスリップして未来を変えるというような設定ではない(そのあたりになにかリアリティを感じた)。だから、最後ジェームスは殺されてしまったけど、それを持つ犯人は特定されたので結果的に未来をそれを情報として伝えることができ、任務は成功なのだろう。でもそこで犯人は逃げ切って飛行機に搭乗してしまう。その時隣に座っていたのは、ジェームズを未来に送り込んだ研究者の一人だった。そして彼女はドクター・ピータースに、「救済保険業よ」と自己紹介している。ここが分かりたくて分からなかった一番大きな謎のひとつだった。彼女もまたドクター・ピータースを止めるために未来から送り込まれたのかもしれない。でも既に空港保安員の鼻先でウィルスの入った蓋はすでに開けられている。ここからは絶対ウィルスが蔓延するだろうし、空港とあったら拡散は防ぎようはない。だからどの道人類滅亡の道は避けられないのではないか、それともなにか私の気付かない伏線があったのだろうか。気になったのだけど、結局分からないままだった。
タイトルにもなっている12モンキーズがウィルス拡散とは無関係という大どんでん返しには驚いたけど、この気になるラストのせいでもう一度観てみようかという気になった映画だった。
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