キレイなテリーギリアム作品
珍しく美しい(だけ)のテリーギリアム作品です
映画には主演俳優の名前で呼ばれる作品と監督の名前で呼ばれる作品がありますが、これは断然監督の作品です。ええ、ブラッドピットとかブルースウィルスとかマデリーンストウとかビッグネームが出ているにもかかわらず、です。ギリアム作品といえば、モンティパイソンとかバンデットQとか未来世紀ブラジルとか、美しいと悪趣味のぎりぎり一歩あっち側の画面をみせるのが上手なのですが、この作品はこっち側。荒廃した未来も、荒廃した過去も、荒廃した現代も、全てがもの悲しく美しく、廃墟として見せてくれます。(不思議なことに、パーティ会場ですら廃墟に見える)物語も美しく、滑稽で、とてももの悲しい。
みんな死にます。ブルースウィルスですら。
いや、ブルースウィルスっていったらダイハード(なかなか死なない)の人じゃないですか。実際、アクション映画が多いくせにあまり作中で死なない(と、いっても本作含めて――4作でお亡くなりになってますかね)けど、死にます。(ああ、死なないイメージがある人が作中で死ぬことの効果は計算したのかも)人が世界で生きる大半の人も、死にます。ブルースウィルス演じるコールは、どうにか過去を変えようとしたのですが、結局なにひとつ変わらず、変えようともがいたことすらすべてが歴史の歯車の中で、その結果だけが果実として他者の手に落ちていく。なんというか、無情ですね。ああ、こういうところはたしかにテリーギリアムだなって思います。でも、もしかしたら、その果実を手にした人間すらも、さらに別の人間の手に果実を落とすだけの駒かもしれませんね。(原作のモノクロ実験映画ラジュテにはさらに未来の人間ってものがでてきましたっけ)
おまえ、別人だったのかい!
しかし、全ての元凶だったはずのブラピ演ずるゴインズが人違いだったとか、もう泣けてきます。なんの溜めにみんなが苦しみ、争ってきたのか。人違いと、勘違いと、狂気が交錯して、本当の悲劇が訪れる。ああ、確かにこれはギリアムだなって思います。(この政府や社会への徹底した不信感ってなんだかとってもイギリス的じゃないですか。いや、ギリアムはアメリカ生まれだけど)
おまえ、だったんだな。
結局、コールが少年の時に見た空港で射殺される男は、彼自身でした。そこで少年コールがみた、涙を流す美しいひとが、マデリーンストウ演じるキャサリンだった訳です。ここで、彼女の流す涙が、コール少年がこれからたどる数奇で哀しい人生への同情と、たった今死んでしまった哀れなタイムトラベラーへの哀悼と、自分のたった今行き先を無くしてしまった心の哀惜になっているのがなんとも哀しく美しい。
ところで、本当にこれで人類助かったんだろうな?
これだけやらかして、駄目だったらどうなんだろう。確かめる方法なんかないけど。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)