百舌の叫びは止んだのか
百舌の叫びは止んだのか
ゼロ出身の公安のエース・倉木尚武(西島秀俊)はある時同じく元公安の妻・倉木千尋(石田ゆり子)を白昼のテロにより死亡したその死の真相を探る為に自ら捜査を始める、そして大杉警部補(香川照之)も倉木警部と共に爆弾テロ事件を追う。その頃公安部の明星巡査部長(真木よう子)はプロの殺し屋・新谷和彦(池松壮亮)を追っていた。数年前に妻・倉木千尋が参加していたグラークα作戦、都市伝説となっている人の夢の中に現れる「ダルマ」この事件はあまりに闇が深すぎる…。倉木警部は真実まで辿り着けるのか、そしてその真実は望んでいたものなのか…。
映像化不可能と言われた逢坂剛氏のハードボイルド小説「百舌の叫ぶ夜」を原作にTBSとWOWOWの共同制作により連ドラ化、そして劇場版へと続く同作品の連ドラはシーズン1、2と制作されたちょっとした大作、2012年に二週に渡って放送された香港映画「インファイナル・アフェア」の日本リメイク「ダブルフェイス」のキャスト陣の他、監督も今作にかかわっている。ドラマの方では謎が残ったままの終わりだったので映画で全ての謎が解かれることを期待していました。
混沌で混乱、無秩序な世界…誰もが皆狂ってる
「MOZU」ではやはり登場人物がどれも魅力的なキャラクターが多い、主人公の倉木警部は一生を添い遂げる決めた妻・千尋と結ばれ娘も生まれそれなりに普通の幸せを手に入れた筈だった、でもそれは次第に崩れはじめ精神は病んでいく妻を目の前に見る辛さ、実は愛する娘は自分の子ではなく千尋が別の男と作った子どもだった裏切り、そして爆弾を手に入れ白昼の賑わう街中でスイッチを入れ大勢を巻き込み死んだ妻。倉木警部は本当はどこかで全部を分かっていて真実から目を背けていたのにそれが本当だと知っていくうちに倉木警部も狂気に取りつかれていく様は見ていてついにやけてしまう。
そして私が好きなのは東和夫(長谷川博己)はじめこそその狂気は見えないけれど次第に完全に常軌を逸した東はこのドラマで一番魅力的で大好きなキャラクター、決め台詞の「チャオ」は台本にはなかったようで長谷川さん自らが「東ならこんなことを言う」と考えて言みたところいつの間にか「チャオ」と言うようになったそう。劇場版で少しだけ明かされた東の過去、「悪夢も慣れれば最高の快楽になる」そう語り倉木警部は「良心を取り戻すことを怖がっている、別人になりすますことで痛みから逃げ本当の自分は意識の奥に眠ってる」そしてその言葉に東は「お前も俺と同じ考えに辿り着いたようだな」と少し嬉しそう、倉木警部と東の関係は勿論敵だけれどどこかでお互い似ていて持っている狂気も考えも似ている。ドラマでも劇場版でも時に東は倉木を助け情報を与えて協力もするが敵対もする、大杉警部補が倉木警部の相棒のような立ち位置に次第になっていくけれど東と倉木警部も相棒とは少し違う仲間意識のようなものをお互い感じている様が気に入っています。
他にも池松壮亮さんが一人二役で女装して演じる子どもの頃から殺人の衝動を持ち、アイスピックでの殺人を好む殺し屋・新谷宏美という頭のぶっ飛んだキャラクター、その宏美ちゃんを崇拝する権藤剛(松坂桃李)「ダルマ」の忠実なしもべの高柳(伊勢谷友介)そして「ダルマ」はビートたけしが演じる、豪華キャストを集め登場人物は全員狂っている。息が詰まるような重い展開の中で唯一息抜き出来るシーンは伊藤淳史さん演じる交番勤務のお巡りさん・鳴宮と大杉警部補のシーン。この二人が相棒となったスピンオフドラマも前編・後編と制作されていてそちらのスピンオフも私は大好きです、狂った混沌とした世界観の中、この鳴宮が出て来るだけでほっと出来て癒される、登場回数は全体を見れば少ないけれど好きなキャラクターです
解かれなかった謎、明かされなかった真実
この「MOZU」では多くの謎があり劇場版で全てが解かれることを期待していたのですが、まだ未回収の謎が残った終わりで見終わった後は物足りなさを感じました。まずはやはり一番気になるラストシーン、大杉警部補と明星と倉木警部が食事をする約束をしていたのか時間になっても倉木警部は来ない、二人とも絶対電話はしないというやりとりは可愛いけれどその頃倉木警部は行きつけのバーを出て誰かと待ち合わせ、そしてかかってきた電話ににやと笑って「倉木だ」そう電話に出て終わる。
『この電話は誰だったのか?』
まず倉木警部は多分二人との食事を忘れていた、そして別の誰かと何かの約束をしていた、これは東だった?東はダルマが乗り込んだヘリコプターを操縦していた、そしてそのヘリは東京湾に墜落、身元不明遺体が三体見つかったというニュースが流れる場面がある、東・ダルマとあと一人は?ダルマに忠実に仕えていた高柳(伊勢谷友介)は倉木警部に喉を掻き切られて死んだ、あと一人は誰だったのか、そして「倉木だ」と出た声も私はどうしても西島さんの声に聞こえなかった、誰か別の声に聞こえた、歯車から外れ東と同じ考えに辿り着いてしまった倉木警部はもしかしたら、本当に狂ってしまったのかもしれない…。
そして他にも東和夫が公安を辞めた明確な理由が分からない、どうして本当の自分を意識の奥に閉じ込めて狂人を演じなければならなくなったのか、倉木警部曰く「お前は奴らに何をされた、何を失った、いや何を奪われた」そう聞いた台詞から東にもかつては何か大事なもの、人がいたのかもしれない、奪われたことが原因で狂ったと考えられる。それが何だったのか是非知りたい、もしかしてまた東を主人公にしたスピンオフでも制作つもりなのかとも期待しています。
まだ残る謎は明星の家にかかってくる無言電話、初めはスパイだった明星の父がかけてきていたと明星は考えていたけれどのちに明星の父は秘密と共に死んでいく、でもその後も電話は鳴り続けた…。これは実は父親は生きているという意味なのか元から無言電話は父親からのものじゃなかったのか、この「MOZU」シリーズは多くの謎が散りばめられていて結局劇場版でも解かれることなく隠されたままのものも残ってる、そんな終わり方も良いけれどやっぱり全部納得がいくように真実を教えてほしかった、百舌の叫びは止んだのか?
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)