BASARAが魅せる人間たち - BASARAの感想

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漫画レビュー数 3,136件

BASARA

4.754.75
画力
3.88
ストーリー
5.00
キャラクター
4.63
設定
4.75
演出
4.13
感想数
4
読んだ人
6

BASARAが魅せる人間たち

4.54.5
画力
4.0
ストーリー
5.0
キャラクター
5.0
設定
4.0
演出
4.0

目次

朱里の成長物語

物語冒頭から赤の王は残虐非道な人物として描かれる。白虎の村を焼き、逆らう村人は勿論、自身が気に食わない者も好き勝手に殺す。

そんな赤の王だが“ただの朱里”として趣味の温泉に通う時には残虐な面は影を潜め、動物に優しく、女の子とも会話する普通の男になる。更紗との初対面の場面でもまだお互い恋愛感情が生まれる前の場面であるにも関わらず、普通に会話している。二重人格と言っても良い程の変貌ぶりである。そんな朱里の変化が分かりやすく表れているのは2回目に更紗と出会った直後のシーンであろう。更紗に会いに来たと言いキスをする軽い男であるが、彼女が去った直後、ひとたびマントを羽織るとその瞬間、彼はただの朱里から赤の王へと変貌する。

残虐性と優しさ、赤の王と朱里という二面性を持った彼であるが、実は赤の王として優しさを発揮している部分もある。彼が統治する周防の都の様子を見れば一目瞭然であるが、砂漠の街であるにも関わらず街には物が溢れ、活気があり、人々は赤の王を慕っている。彼自身が真摯に取り組んでいる街づくりの為に発揮された惜しみない愛情が人々に伝わっているのであろう。

結局彼は残虐な男なのか、そうとは言い切れない優しさを垣間見て読者は混乱するが、そんなアンバランスな彼が芯の通った男になる大きなきっかけが2つある。1つは亜相を中心とした軍によるクーデター、そしてもう1つは浅葱により奴隷に売られた経験である。

沖縄で彼はユウナや今帰仁を通して沖縄の国の在り方を知る。沖縄では、選挙という今まで考えもしなかったシステムで国を運営しており、国民は自身が選んだ国のリーダーに政治を任せていた。また、その後奴隷に売られた事により支配する側から支配される側となり、今まで自身が虐げてきた人々を深く知る事になった。牢の中で出会ったたつみの死に涙を流した。

沖縄編と奴隷編、このとき“赤の王”、“朱里”どちらの立場と言えるだろうか。どちらでもあっただろうと感じる。沖縄で畑仕事をしていた時は朱里であっただろうし、幽霊船事件では赤の王として振舞っている。また、奴隷に売られ何もかも無くしたが王としての矜持は無くしていない様に見受けられる。このような経験により“王家を倒す”という目標に辿り着いた彼は、支配する赤の王としてではなく、“己のために生きる”新しい国を目指す一員として成長したと言えるだろう。

浅葱と朱里

浅葱は初登場時、蒼の王の親衛隊長として登場するが、実は真の蒼の王であると後に発覚する。真偽はともかく、この“蒼の王”という立場が浅葱のアイデンティティを支えているのは間違いないだろう。浅葱は子供のまま成長してしまった青年の様に見える。親衛隊長としての彼はまるで子供の様に残虐な行為に手を染める。単純に揚羽を慕う。朱里を憎む。その根底には幼い頃姉である白の王に愛されたいと渇望していながら叶わず、同じく弟である朱里ばかり愛されていた経験がある。タタラ(更紗)に近づいたのも最初は蒼の王と同じく寄生してしまおうという目的があったが、近づくにつれ彼はタタラに恋する様になる。ここで思うのは朱里に関しては更紗を愛しているが、浅葱に関してはタタラに恋しているという事だろう。幼い頃得られなかった愛情を求めるかのように浅葱はタタラを求める。しかしそれは淡路島でのセリフからも分かる様にタタラを守って生きていく、ではなく共に白の王の庇護下に入る事を求めている。朱里と決定的に違うのは“愛しているが故に自身で守る”ではなく、“好きだから一緒にいたい、誰かに守ってもらいたい”という所だろう。

そんな浅葱が変わったのは、タタラ軍との日々は勿論の事、腕を切られながらも懸命に立ち上がる朱里を見た事が大きな理由だろう。朱里を憎んでいると言いながら腕を切られた際には誰よりも絶叫する。誰よりも朱里に憧れていたのは浅葱ではなかったのだろうか。最後の王として自身が討たれる覚悟をし、信用できないとタタラやタタラ軍に思われていた彼が最終決戦に於いてタタラに「まかせた」と言われるまでに成長したのは、幼い頃から憎んできた朱里が大きく影響していたと言えるだろう。

更紗と朱里

更紗と朱里は互いの身分を隠して温泉で出会う。その後、数回の邂逅を経て恋仲となり結ばれるが、直後に互いが敵同士である事を知り、絶望する。敵同士だと分かった後の2人は互いに葛藤し、共闘し、最後には共に討たれる事を望む。さながら戦うロミオとジュリエットの様である。最期の覚悟を決めた2人の表情が印象的である。

田村先生はこの2人の関係をとても魅力的に描いている。何も知らなかった頃の2人は単純に幸せそうだ。芭蕉先生の言う様に沖縄のシーンが一番それを表しているだろう。読者も幸せな気分に読めるが、同時にいつ発覚するんだろうという読者だけに分かる不安が付き纏う。中盤からはお互い正体を知ってしまった為に単純に幸せなシーンはないが、互いに想い合っているシーンが所々に挿入される。読者としてはどのように決着を付けるのか気になるところである。終盤では共闘するシーンが出てくる。戦う版ロミジュリとしてはこの共闘シーンはやっと来たか!と言えるところ。更紗と朱里の物語を見てきた読者としては、そこからの赤の王を糾弾する流れには許してあげてという気持ちが強くなるが、実際に赤の王の被害にあった人々からしたらこの糾弾は尤もである。最後は今までタタラが出会ってきた人々が庇い、2人はひっそりと生きていく事になる。番外編で皆には会えないと2人の子供たちの口から語られるが、それでもこの双子を見ていれば2人が今幸せである事が見てとれる。読者としても幸せな気持ちで物語の終りを迎える事が出来るのである。

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他のレビュアーの感想・評価

私たちは中性化している。

圧巻の、歴史エンタメとしての実力。壮大である!その取材力と構成力には声も出ない。過去で言えば、ベルサイユのばらなどは史実を丹念に調べて描かれているそうだ。なるほど資料ドレスや時代風景など、フランスに行けば見られそうなものが多数。しかし、BSARAはオリジナルである。仮想の未来で起こる戦国時代。もちろん、全ての創作物にはモデルがある。作者もきっと、西洋問わず平安でない時代の資料を検証しまくったであろう。しかし、オリジナルなのである。そして、圧倒的説得力を持つ。例えば砂漠の街で、水を止めることを城攻略のミッションとする。例えば寒い国で、監獄に流れ込む水が恐怖と死の対象となる。そこにいたのか!?と思わせるような、湿度、気温、環境を前提とした設定作り。五感から派生する特色や風俗はオーディエンスに共感をもたらす。その上、それ自体が話の山場になってるんだから面白くないわけがない。文化の使い方で、ニヤリと...この感想を読む

4.54.5
  • 中山今中山今
  • 500view
  • 3062文字
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人生で読んだ中でベスト3に入ります。

人に、「おすすめの漫画は?」と聞かれると必ず挙げるのがこのBASARA。全巻持っていますが、生涯この本は手放さないでしょう。(以下少しだけネタバレあります)物語の舞台は、現文明が滅びた遠い未来の日本という設定。そんな日本を統治するのは三百年続く王族の血統。しかし、その政治は乱れ、腐敗し貧困の差が激しい国になっています。高名な預言者に「運命の少年」と謳われたタタラが、ある日国王の息子である赤の王に殺されます。人々が絶望に打ちひしがれるなか、そのタタラの代わりに立ち上がったのが双子の妹であり主人公でもある更紗。更紗はみんなの希望である運命の少年のふりをして、タタラとして生きることを選びます・・・。更紗は兄の敵を討つことを決意しますが、その道中で、朱里という青年に出会います。朱里は傲慢で自信家で、最初は鼻持ちならない奴と思いますが、何度か会ううちに次第に惹かれあって行きます。しかし悲劇にも、その朱...この感想を読む

5.05.0
  • なのんなのん
  • 182view
  • 720文字

時代背景に絡めた設定がおもしろい。主人公を取り巻く人の優しさに心うたれます

一人の少女の運命を変えた嘘から始まるストーリー。時代や土地設定はずいぶん昔のようです。歴史物苦手ですが、斬新な展開にどんどん引き込まれます。主人公サラサが好意を抱くシュリは、読んでいる側はサラサの敵であることを知っていますが、なぜか「サラサに気づかれないで!」と祈ってしまいます。家族を殺されたサラサは、仇を討つために敵であるシュリを追って旅に出ますがそこで必ず運命の再会を果たす二人。運命ではなく必然である再会なのに心惹かれ合う描写が素晴らしいです。二人が事実を知って終わりへ向かうのかと思いましたが、それからの二人の感情や生き様もしっかり描かれています。また、他にも魅力はたくさんあります。私が一番オススメしたいのは、幼い子どもを必死に支える周りの大人たちの存在です。角じいやナギといった始めから側にいる人達、ストーリーが進むにつれて出会う多くの運命を背負っている大人たちの。彼らの人生もまた...この感想を読む

5.05.0
  • Y.OY.O
  • 120view
  • 554文字

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