坂道のアポロンのあらすじ・作品解説
坂道のアポロンは、小玉ユキによって月刊フラワーズにて連載された漫画である。2007年から2012年にかけて連載され、単行本は全10巻が発刊された。 時は1960年代後半。親の都合で横須賀から長崎の佐世保の高校に転校した主人公・西見薫が、同じクラスの川淵千太郎と出会う所から物語は始まる。千太郎との出会いをきっかけに薫はジャズの魅力に取りつかれ、どんどんのめり込んでいく物語である。 男同士の友情や淡い恋、そして音楽という3つの要素を丁寧かつ繊細に、そして直球に描いたこの青春物語は、少女漫画であるものの男性読者からの支持を得るなど、幅広い読者から人気を得ており、2009年には「この漫画がすごい!オンナ編」で見事1位に輝いた。 また2012年には、小学館漫画賞(一般向け部門)も受賞し、その人気を不動のものにした。 本作は2012年にTVアニメ化されたほか、WEBラジオの放送や、作品の内容にちなんだオリジナルサウンドトラックCDが発売されるなど様々なメディアに展開され、注目を浴びた。
坂道のアポロンの評価
坂道のアポロンの感想
嬉しくても涙が出て切なくても涙が出る
息苦しい世界で生きる薫と千太郎薫の父親は転勤族で、薫はずっと転校を繰り返してきた。うまく立ち回れたのは小学校5年生くらいまでで、それからは、極度のストレスがかかると吐いてしまう体質になってしまった。家にも、学校にも、どこにも居場所なんてない。早く父さんの仕事が終わって帰ってきてくれればいい。それだけを楽しみに、叔母たちの陰口にも、秀才が故の期待にも耳をふさぎ、ただ医者になるために、彼は学校へ通うのだった。そんな薫の狭い世界がぶっ壊されたのが、千太郎との出会い。この出会い方がもうBLなんじゃないの?というきわどいところだったよね。でも、千太郎が薫を天使だと見間違えたことが、後々にあーやっぱり薫は千太郎の天使だったんだなーって気づかされて、千太郎にとってのかけがえのない人であることがヒシヒシと伝わる。そして、それは薫にとっての千太郎も同じことで、彼が涙を流すポイントでは、いつも同じように涙が...この感想を読む
単なるジャズ漫画ではない
ジャズ漫画でもなく恋愛漫画でもなく、「青春漫画」『坂道のアポロン(以下、アポロン)』は、不思議な作品だ。少女誌『月刊フラワーズ』にて連載されたにも関わらず、少女漫画らしい恋愛要素に依存していない。かといって、これまた少女漫画の主題としてよく取り上げられる「部活」や「放課後」などを取り扱ってはいるものの、これら一つのテーマに固執することもなく、始めから終わりまで物語が綴られている。しかし、全てのテーマが浅く扱われている訳では、決してない。恋愛、ジャズ、学校、友情。むしろ、作中で取り扱われるこれらのテーマは、物語という道の上に点在する標識のような存在だ。出しゃばらず、しかして道を往く読者たちの傾注をしっかりと受ける存在。特別な何かを「観た」訳ではないのに、「見た」という事実だけが心の片隅に残る――『アポロン』は、総じてそのような漫画であるといえる。それでもあえてこの漫画にテーマと呼べるもの...この感想を読む