若さと熱意があふれる名作
思春期ならではのひたむきさの描写
この物語の主人公はジェイク・ギレンホール演ずるホーマーという男子高校生で、厳しい父親とフットボール選手の兄に気圧されながら窮屈そうに生きている。そういうときにロシアが打ち上げた衛星スプートニクを見て、ロケットを打ち上げようという夢を抱くようになる。この時にもともとの仲間以外に科学オタクのクェンティンを仲間に引き入れようとするのだけど、こういう多感な時期はオタク呼ばわりされているような同級生と一緒にいるところを見られるのはかなり恥ずかしいと感じる年頃だと思う。実際ホーマーの仲間たちがそう言っていたところもある。そういうものを通り越していけるほどの熱意というのは、今大人が想像できる以上の勇気とひたむきさがあってこそなのだと思う。クェンティンを仲間に入れて様々な実験を繰り返していくシーンがある。たくさんのロケットを打ち上げては失敗し、それを繰り返しながらも楽しそうに笑えるところは若さゆえなのかもしれないが、それを見ているこちらがわもそのわくわくした気持ちが感じられ、失敗に笑いながらも悔しさを感じ、どんどん彼らに感情移入してしまう。
あと、ロケットの材料を調達するために廃線の線路をもっていこうとするシーンがある。そこに突如機関車がやってきてあわや事故かと思いきや、線路自体は切り替えられていてあせったのは当人たちばかりなのだけど、そもそもその考えなしのところが高校生の(思春期特有の)それしか考えられない感がでていていささか危なっかしいのだけど、あのくだりは個人的には好きなシーンのひとつだ。
山火事を起こしたという彼らへの疑惑は、警察が関わっているにもかかわらずあまりにも意図的だと思う。早めに彼らの夢を諦めさせようというような思惑が感じられて、あの校長に腹立たしい思いを抱いた。もともと炭鉱の町という閉塞感のあるところでは、そういう違う世界に目を向けようとするものには冷たいものがあるのかもしれない。そこで生きる皆が諦めという感情を服を着るように自然にまとっている以上、それ以外のものが成功するとは信じがたいのかもしれない。こういう設定では、誰しもが映画「フラガール」を思い出すと思う。暗く覇気のない場所に縛り付けられた人々の目には、フラダンスをする女性なんてどれほど衝撃的に映ったことだろう(余談だけど、蒼井優のダンスは素人目に見ても素晴らしいものだった)。目に映る衝撃は違っても、感じた心は同じだと思う。
ジェイク・ギレンホールの秀逸な演技
この映画の肝は、ジェイク・ギレンホールの演技のすごさにあると思う。私が彼を知ったのは「デイアフタートゥモロウ」で、あの時もクイズ王決定戦みたいなものに出場する地味な高校生の役柄だった。その時も年の割りに演技のうまさを感じられたけど、あれよりもこの作品は5年も前に作られたものとなる。幼さなどはあまり変わらない気もするけど、それでもやはり子供のような表情をするところは実際もっと若いのだろう。彼の見た目は地味かもしれないけど、それはまさに役者の強みではないだろうか。役柄を固定されずなんにでもなれるというのは、絶対彼の武器になっていると思う。
彼がうまいなと思わせるシーンがいくつかある。ひとつはロケットの打ち上げを散々失敗しながらも、空を見上げる顔の邪気のないところ。あの顔ができるのは本当にその役柄を彼がつかんでいる証拠だと思う。もうひとつはにぎやかな店の中で、近づいてくるバレンタインを見る表情。あれはすっかり科学に取り付かれている男の子でなく、ただの高校生の男の子になっている。その切り替えの表情の素晴らしさ。あとひとつは、科学コンテストの全国大会には4人のうち1人しかいけないということを知ったときに、「・・・One?」とつぶやいたところ。そこは字幕にはでていないくらいのささやかなつぶやきなのだけど、それも役柄をつかんでいるからこそ出た言葉だと思う。
彼らを信じ見守る女教師の存在
彼らの才能を信じ、炭鉱で働くことだけが人生でないことを教えたライリー先生の存在は大きいと思う。私ももしかしてこのような先生に出会うことがあったら、もしかして今の人生の何かが変わっていたかもしれないと思わせるような素晴らしい先生だと思う。当時このような閉鎖的な街でしかも女性でそういった進歩的な考えを示すのは、あまり歓迎されなかったと思う。実際同じ高校の校長などは、現代社会にも見られるような事なかれ主義のつまらない男だった。そういった上からの圧力からも屈せず彼らを応援しつづけたその気持ちは、ずっと彼らの心に残るに違いない。若くして亡くなられたというのは、残念なことだと思う。
この女教師を演じたのはローラ・ダーン。「パーフェクトワールド」や「ジュラシックパーク」などで出演しているけど、やはりここでも学者や博士など知的な役柄がはまっている。彼女の役柄を固定してしまうのは悪いことかもしれないけど、彼女はそういった教師や博士などがいつもぴったりくる。
厳しいながらも歩み寄りを見せようとする父親
炭鉱マンとして厳しい人生を歩んでいるからか、肉体派の兄のことは気に入っている様子を見せ、弟のホーマーには何かとつらくあたる。愛情はあるのだけど、つまらない小言をいってしまったりついつい冷たくなってしまったりといった堅物の父親を、クリストファー・W・クーパーが熱演している。この人はもともとそれほど冷血感の顔立ちでもないしマッチョでもないから、炭鉱の男を演ずるのはちょっと無理があるかもとは思ったのだけど、その厳格な表情はさすがというところだと思う。「アメリカン・ビューティ」では厳格な父親であり堅物の軍人役がかなりはまっていたが、今回のこの役柄とよく似通っているかもしれない。とはいえ「大いなる遺産」では田舎から出てきた泥臭さをだしながらも優しさにあふれたおじさんを演じ、その真逆な役柄を完璧に演じているところは彼の懐の深さだと思う。
自らが怪我をして家計がたちいかなくなってホーマーがやむなく炭鉱に入ったとき、彼の仕事ぶりが誇らしかったとホーマーに伝えた表情や、ホーマーがロケットに夢中になっているところをなにげなく協力したり(不器用ながらも)する様は、本当は自分の後をついで炭鉱に入って欲しいのだけど、息子に夢があるならそれもいいかもしれない、だけどそれを認めるのは自分の人生を否定されたような気がするといったようなたくさんの葛藤の末の行動といった感じがよく表れている。この映画がでた当初なら、こんな父親の表情など気にもとめなかったかもしれないけど、今の年になるとこの父親の気持もうっすらわかるようになるようになっているところが、なんとなく悔しい。そしてそういったものすべてを感じさせるのは、クリストファー・W・クーパーの演技の深みに他ならない。
最後、ロケットのボタンを押す彼の表情は、本当に彼にしかできないものだと思う。
実際にあった物語ということ
こういう実際にあった物語をベースにしたものは、実際にあったからこそ、さほどの展開をみせずに終わるものが多い。しかし今回の作品は実際にあったからこその歴史を感じることができ、縮小されつつある炭鉱や、未来に足かせのついた高校生に感情移入しやすく、最後まで目が話せなかった。ただ最後のあたり、若干感動を促すような音楽などが耳についたことは残念だったけれども、それでも素晴らしい映画だったことには違いない。ロケットボーイズだった4人、ホーマー以外は普通の職業についていたことも、現実にはありえる話でちょっとにやけてしまった。そしてこのようなひたむきな夢を抱いた時期があった彼らを、少しうらやましくも思う。
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