チープな密室殺人ミステリー - 鍵のかかった部屋の感想

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鍵のかかった部屋

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チープな密室殺人ミステリー

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文章力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
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目次

都合よく進みすぎな感じが否めない物語

この本は全部で4つの短編が収められている。その全てが密室での殺人をテーマにしており、すべてに共通する登場人物が謎解きをしていく形になっている。そしてそれはどのように犯人が犯行を行うことができたのかを考えるのがメインになっていて、犯人が誰かと推理させることはあまり重きをおいていないように感じる。これはミステリーとしては致命的ではないだろうか。読み手は犯人が誰かと想像しながら読み進めるので、それがストーリーの中で早めに分かってしまうと読み進める原動力が弱くなってしまう。もちろん密室での犯行トリックには興味はあるけれど、それは「犯人は誰か」「どうやって犯行に及んだのか」のこの二つを同時進行してこその魅力だと思う。また死体を発見するのもなにかご都合主義というか、なぜいつも「妙な胸騒ぎ」がしたり、「何か悪いことが起こったと直感」したりするのかがわからない。この違和感は登場人物の個性が確立していないのがその大本のような気がする。どの短編でもその登場人物(4つの短編に共通する登場人物でさえも)個性が見えないので、カッコ書きでセリフが続くと、いったい誰のセリフなのかがわからなくなるのだ。なので、始めに言ったのがこの人だから…といったような指でセリフを追うという最悪な結果になる。こんな形で読み進めていくと密室トリックもなにももうどうでもよくなってしまう。もしちゃんとその登場人物の個性が確立されていたらそんなことにはならないし、その行動やセリフに違和感など感じることはない。そしてこれは映画にもいえることだと思う。

残念な登場人物たち

読んでいて本の内容にのめりこむのは、やはりその登場人物の魅力に他ならない。悪があったり善があったり、それがどれであっても好きになれること、少なくとも好感が持てることが必須だと思う。しかしこの本にはそれがない。登場人物全てになんの感情ももてないのだ。美人弁護士として描かれている青砥、そして鍵屋で防犯コンサルタントの榎本。この二人がほぼペアで密室トリックを解いていくのだが、それがまったくかみあっておらず読みづらい。青砥は榎本が暴いていくトリックの説明を何度も「わかった!」と腰をおり、そのたびにうんざりする榎本という図があるのだけど、これがまたまったく面白くない。本来なら青砥の弁護士ならぬ推理のかわいらしさとか、榎本のあやしい魅力だとかをたくさん感じることのできる構図だと思うのに本当にいたたまれなくなるほど読みづかった。またおもしろい描写をしようとしているのにもかかわらず文章が上滑りしていて、それもかなりつらい。例えて言うと、劇画調のマンガでギャグ描写をしようとして失敗しているような、おもしろいことを言っているつもりがまったく相手に伝わらないという悪循環があった。そして同じような形をとっている短編だからそれがまた何度も繰り返されて、読み手を疲れさせた。

無理のある密室トリック

それでも読み進めていくとそれなりに発見があるかもしれないと思ったけど、「歪んだ箱」でトドメを刺された。ストーリー展開自体にも無理があったけど(なぜ高校教師同士が学校内、ましてや校門近くと思しきところで情熱的に接吻をかわすのか)、そのあたりのことが細かい話と思えるくらいトリックが言ってみれば笑えたというかなんというか。欠陥住宅という設定で普通にはドアを閉めることができないゆえの密室トリックで、なんと、エアコンのダクト用の穴からピッチングマシンでボールを飛ばしドアを閉めるというもの。かなり無理がある上に音もでるだろうし、いくら周りに人気がいなくともそれはどうか。実際には可能なのかもしれないけど、ちょっと想像が追いつかなかった。
そして最後の話「密室劇場」に至っては、登場人物が多すぎる上に個性も立っていないので凄まじく読みづらい。誰が誰だか、そして犯人が誰かと言われてもまったく分からない。このあたりで作者は話を投げたというか、ちゃんとした推理ものでなくコメディとして作ったのかと思わざるを得ない。

貴志祐介の文章とその印象

彼の文章は句読点、特に句点が多い。「悪の経典」や「雀蜂」などテンポの早いストーリーなら、逃げ惑う様子などがその多さから息切れするように感じられ効果的だとは思う。でも今回のこれでは逆効果だった。展開もそうだけど、登場人物の個性の立たなさから何度も読まないと前後関係がわかりにくいし、今回文章もなぜかわかりにくく頭の中で想像がしにくかった。そのため何度も読むと、句点が多いものだから妙に疲れてきて、その疲れを忘れて読むほどストーリーに魅力もなく、だんだん最後は適当に読むに終わった。彼の本全てがそうでないから、今回は私と合わなかったということか。
彼の文の特徴のひとつで、彼の書く悪意の描写はすごい。今回は辛口に書いたこの本でもそれは垣間見ることができる。「歪んだ箱」で登場する不動産屋。彼の言動はかなり私の感情を揺さぶった(もちろん腹が立つのも感動に入るとして)。ここだけは評価できた。こういう個性をもった登場人物がもっとあれば、これほど読み疲れる小説ではなかったかもしれない。

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