愛すべきキャラクターと独特な世界観に引き込まれる - ピンポンの感想

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ピンポン

4.334.33
画力
4.00
ストーリー
4.00
キャラクター
4.33
設定
4.00
演出
4.67
感想数
3
読んだ人
5

愛すべきキャラクターと独特な世界観に引き込まれる

5.05.0
画力
3.5
ストーリー
5.0
キャラクター
5.0
設定
5.0
演出
5.0

目次

妙にリアルな描写が心に響く

片瀬高校卓球部の星野裕(通称,ペコ)と月野誠(通称,スマイル)の二人の主人公を中心に,高校の卓球部を舞台として物語は展開されていく。高校の部活動という一見ありきたりな設定に,決して上手いとはいえない画力。しかし,一度物語を読み進めると引き込まれて抜け出せないのである。表情が妙にリアルな登場人物たちは,重みのある言葉も発する。決して上手くはないと思われるが写実的に描かれた高校や体育館の風景に,親近感や懐かしさを感じてしまう。とにかくひとつひとつの描写が心に残るのだ。そんな感情移入を促す独特な描写の中で,ペコやスマイル,その他様々な登場人物が悩み,憂い,成長していく姿をもう見守らずにはいられなかった。

主人公達が全国大会を目指すはずの片瀬高校も,どこか間が抜けていて面白い。普通のスポーツ漫画なら弱小や名門に関わらず,最終的には部員一丸となって全国大会を目指すだろうと思うが,片瀬高校卓球部は違う。小泉(片瀬高校卓球部顧問)は才能を見込んだスマイルしか育てようとせず,ペコにすら目もくれなかった。部員もスマイルやペコに頼りっきりで,自分が強くなって追い越そうなんて気は微塵もない。スポーツ漫画としてはどうかと思うところもあるが,現実社会を考えると非常にリアルだ。そんなところに親しみやすさや同調しやすさを感じているからこそ,物語がスーッと心の中に響いてくるのだろう。

強くなって帰ってきたヒーロー「ペコ」

主人公のひとりであるペコは,自身の才能に自惚れ,努力をしなくなった結果に挫折する。中国からの留学生コン・ウェンガ(通称,チャイナ),かつての同胞である佐久間学(通称,アクマ)には直接対決で敗退し,風間竜(通称,ドラゴン)とスマイルには間接的にその実力差を思い知らされる。ペコはライバル関係にある選手全てから挫折を味わったのだ。天才が地に落ちていく様子は少々残酷にも感じられた。

だが,「天才が調子に乗って負ける」というシチュエーションは,普通ならいい気味だと思ってもおかしくはないだろう。しかし,私は彼を嫌いにはなれなかった。それは不器用で冷めた性格のスマイルが,唯一心を許し信じているもの,それがペコだったからだろう。年齢を経るごとに堕落していったペコだが,かつてスマイルの人生を変えたこと,卓球に対して誰よりもまっすぐだったことに変わりはない。だからこそ,スマイルにとってのペコは誰にも変えられないヒーローだったのだろう。多くの読者が,スマイルとともにヒーローの復活を願ったに違いない。

物語の終盤,様々な経験を通して改心し,おばばの元で修行をしたペコが繰り返す印象的な言葉がある。

「愛してるぜ。」

これはペコ自身が,誰かがいるからこそ強くなれたり,卓球を心から楽しめたりすることに気づいた証なのかもしれない。幼かった慢心だらけの天才が,ライバル達との関わりを通して心も身体も成長した。苦悩を乗り越えて卓球に正面から向き合えた彼は,対戦相手にすらも卓球の楽しさを再認識させるだけの選手に育ったのである。このころには,もう私もペコを心から愛していた。

ヒーローの帰りを待つ二人目の主人公「スマイル」

ペコと並んでもうひとりの主人公であるスマイル。冷静沈着で人生を悲観する場面も何度もある。しかし,ペコと同様に彼もまた嫌いにはなれない性格の持ち主であった。スマイルは小学生のころから静かで不愛想だったために,いじめられ,そのたびにペコに助けられてきた。スマイルに卓球を教えたのもペコである。どれだけペコが傲慢で怠慢になっても,ヒーローとしてのペコを信じ,その帰りを待っているスマイルは誰よりも強い信念を持っていると感じた。途中,ペコよりも自分の卓球の実力が上回っていることを隠していたことも彼にしかできない優しさであったのだろう。ペコが挫折を力に変え,ヒーローとして帰ってきたことを喜ぶスマイルの表情や感情は,心を揺さぶった。ペコが強さを取り戻し,一戦一戦成長する姿を,私はスマイルと同じ目線で見ていたのかもしれない。

彼にとって,ペコ以外でもうひとつ運命的な出来事をあげるとすれば小泉丈との出会いである。あらゆる手をつくしてスマイルを成長させようとする小泉丈は,スマイルに対して卓球の技術はもちろん,人間の情熱や温かさを教えたのだろうと思う。最後にスマイルがロボットから解放されたのは,もちろんペコの帰還がきっかけにはなったが,小泉丈がスマイルに人としての血を巡らせたからこそではないだろうか。

このピンポンのふたりの主人公はどちらも嫌われる要素があって不完全ながら,それでいて読者を引き付ける魅力に溢れている。

忘れられないライバル達

物語をさらに深く面白みのあるものとしているのが,愛すべき魅力的なライバル達である。ひとり一人の描写が深く,個性豊かだ。

中国からの留学生であるチャイナは,個人的に相当好きなキャラクターである。登場当初の彼は選手として伸び悩んでいただけではなく,プライドとプレッシャーから多くのものを失っていたと感じる。最後のチャンスとして辿り着いた日本で,仲間を知り,卓球へのひたむきさを思い出し,そして楽しさを知った。中国より緩い練習環境であるはずの日本に来たにも関わらず,孤独にストイックに卓球に打ち込んでいた過去よりもはるかに強くなった彼を見て,絆を大切にすることや初心へ戻り,自分に素直になることの大切を感じた。彼の成長を滞らせていたものは決して才能の限界ではなく,自分を自ら束縛する心であったのだろう。

ペコ復活の立役者となったアクマは,登場当初,ずる賢く陰険な風貌に見えていた。今作で初めて嫌いになる登場人物かと思った。しかし,蓋を開けてみると,自分の恵まれない才能と戦い,誰よりも努力をする人間だった。そんなアクマだったからこそ,ペコに再起を決意させるような力強い言葉を発することができたのだろう。ドラゴンとの語り合いも響いた。私の中でアクマは,ペコに挫折を味合わせた憎たらしいキャラクターから,誰よりも幸せになってほしいキャラクターに変わっていった。

物語のクライマックスでペコと戦ったドラゴンも,貪欲に孤独に強さを求めるタイプの選手であった。かつてのチャイナに似ているが,大きな違いは期待を背負いながらも実力もトップレベルの選手であること,そして,自分の臆病さを知り,認めていることだと思う。自分の弱さを知っている分,チャイナよりも強かったのかもしれないが,それすらも自分を縛るものになっていたとペコとの戦いで気づかされたのであろう。あの時のドラゴンの清々しい表情は,今も忘れられない。物語の最後の大会で,ペコよりも対戦相手の方に感情移入してしまった読者は私だけではないだろう。個人的には2年になったチャイナとドラゴンの試合も見てみたかった。

思春期の苦悩と成長

登場人物の心情がめくるめく変わり,まさに青春そのものといった作品であったと思う。

ペコやスマイルはもちろん,先ほどあげたライバル以外の登場人物もそれぞれの背景や苦悩,心情がしっかりと描き出されていた。だからこそ,ペコ,スマイル,チャイナ,アクマ,ドラゴンとそれぞれ苦悩と成長の仕方は違ったが,それでも全員の気持ちが痛いほど分かった気がした。全員の成長を心から喜べた。

私もペコやスマイル,ライバルなどの登場人物に気づかされたことが山ほどある。

「ヒーロー見参!!」

スマイルだけでない。私もこの言葉を思い出して,力をもらう日が必ず来るであろう。

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他のレビュアーの感想・評価

ペコとスマイルの関係性に涙する

ペコという人間ペコは卓球の天才型。感覚で全部をわかって、ただ卓球が大好きだという気持ちだけで強くなり、自分の卓球が最高なんだと言い切っている。そんな自信どこから来るんだろうって思うけど、いるよなーこういう人。自分の道が最強だー!みたいな言い方するちょっとイラっとする人ね。だけど、ペコの気持ちも分からなくはないです。強くなるにつれ、過信するのも当たり前。謙虚でい続けるのはきっと難しいと思います。そして、成長するにつれ、その勝ち続ける世界にい続けたい、負けたくない、負けて傷つきたくない、だからがんばらなくても勝てるところで止まってる…人生と同じじゃんって思うんですよね。挑戦することをやめても、日本ではある程度当たり前に生きていられるじゃないですか。がんばらなくたって、過去の栄光に浸ることはすごくたやすいことで。そこからがんばるためには、相当なインパクトがないと無理でしょう。追い打ちをかける...この感想を読む

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  • betrayerbetrayer
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またタイトルが4文字か・・・ピンポン。そう、察しのいい皆様ならばどんなスポーツなのか分かりますよね。ええ、卓球の事です。この漫画のタイトルは「ピンポン」。だいたいひらがな・カタカナ4文字系のタイトルの漫画ってのは萌えに媚びるところがあるけどさ。この漫画は、そんな軟弱なジャンルには絶対に含まれないぜ。誰でもやったことのあるスポーツを漫画にするってさぁ卓球というスポーツは、ちゃんと義務教育を受けてきた(はずの)皆様は例外なく学校の授業で経験しているよね。そう、大きめのしゃもじを持ってテーブルの上でプラスチックの球を押し付けあうスポーツだ。どういうわけか、この競技の部活動をやっている人は地味な奴が多い印象を持つが、この漫画の登場人物も変人ばかりだ。いい意味で。かっこいいんだよ。すごく。読んでいて爽快感すら覚える。おかしいな、部活動の見学の時に見た先輩たちの卓球はすごく地味だったのに。こんな白...この感想を読む

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  • 三原さん。三原さん。
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